試合開始から仕掛けた栃木がリードするも、千葉が盛り返し延長戦へ
千葉ジェッツの3連覇で幕を閉じた「第94回天皇杯・第85回皇后杯 全日本バスケットボール選手権大会」ファイナルラウンド。千葉がオーバータイムの末、栃木ブレックスを71-69で下したこの試合、栃木の安齋竜三ヘッドコーチ、千葉の大野篤史ヘッドコーチの采配に注目してみた。
ティップオフ直後からディフェンスで仕掛けたのは栃木の安齋HCだった。千葉の司令塔であり得点源の富樫勇樹に対して、激しいディフェンスで知られる遠藤祐亮をマッチアップさせてシュートを抑えるとともに、アシストの供給を遮断する。さらに2-2-1のオールコートのゾーンプレス、さらにそこから2-3のゾーンディフェンスというようにチェンジングのディフェンスで千葉のオフェンスを翻弄。第1クォーターを11-4とすると、千葉の大野HCはたまらずタイムアウトを請求した。
大野HCは栃木のディフェンスに対してその都度アジャストを施していく。千葉はこのタイムアウトを挟んで約5分間も無得点となるが、逆に栃木へのディフェンスを強めてリードを広げさせないようについていった。すると千葉はギャビン・エドワーズ、ジョシュ・ダンカンにボールを集めて反撃を開始。第2クォーター開始2分にはダンカンのジャンプシュートで同点に追いついた。
ここから5点前後の点差での攻防が繰り広げられていくが、栃木が仕掛ければ千葉が追いつく展開で第3クォーターまで接戦が繰り広げられた。第4クォーターには栃木のライアン・ロシターが連続でターンオーバーを犯すと、それをついて千葉が逆転に成功。さらに前回の天皇杯で大活躍した西村文男が3ポイントを1本を含む7連続得点でリードを広げようとするが、栃木は鵤誠司、ジェフ・ギブスがつなぎ、試合は延長戦に入っていった。
3回の優勝は全く違う勝ち方に。千葉の大野HCが感じるチームの成長とは?
既報どおり、この延長性を制したのは富樫の逆転3ポイントだった。ラストシュートの場面の前、ロシターがフロースローを打っている時、大野HCと富樫が言葉を交わし、大野HCが富樫にシュートを打つことを指示したという。「最後のシュートは自分が打ちたいというマインドを持った選手に託した。(富樫への)信頼は全く揺らがなかった」と、試合後語っている。また、大野HCは栃木のディフェンスシステムも見逃してなかった。
「その前のオフェンスの際、栃木はスイッチで守ってきて、入らなかったが富樫のところで竹内(公輔)が対応していたので、もう一度行こうと思った」(大野HC)
その言葉どおり、安齋HCの指示はオールスイッチだった。スクリーンをかけられたら、ボールを持った選手へのディフェンス対応が遅れる前に、次の選手が対応にあたるシステムだ。ボールを持った富樫はマイケル・パーカーにスクリーンをかけると、マッチアップしていた遠藤がスクリーンにかかったため、次の選手が対応しなければいけない。そこで一瞬竹内の対応が遅れる。
「しかし、インサイドもケアしなければいけない(竹内)公輔は責められない」と、安齋HC。さらに「そのシュートを入れた富樫選手が素晴らしい」と、決勝シュートを決めた富樫へ称賛の言葉を送った。
安齋HCが悔やんだのは「コミュニケーションミスなどの細かい部分でミスがあった」という部分。試合を振り返れば、大事な場面でレイアップシュートを外したり、キャッチミスを犯す場面も何度かあった。さらに22本打って11本しか入らなかったフリースローがどこかで何本か入っていれば…、試合は延長戦にもつれ込むこともなく、富樫の逆転シュートを食らうこともなかったのだろう。
すべては“たられば”の話だが、栃木は高い授業料を払うことになった。
「天皇杯を連覇している千葉はチャンピオンチーム。そのようなチームを相手に1つのミスが負けにつながると普段から選手に伝えていた」と、安齋HC。「3日後(1月16日)にはBリーグが再開され、千葉さんとはそこで顔を合わせることになっている。この悔しさはそこで晴らしたい」と気持ちを切り替えていた。
千葉の大野HCは「ゲーム開始からリズムを(栃木に)持っていかれたが、選手たちが我慢してディフェンスから自分たちの攻撃リズムを取り返したことが大きかった」と選手を称える。「1度目の優勝は勢い、2度目は(富樫はケガという)アクシデント中、それをみんなで盛り返そうという勢いがあった。しかし、ファイナルラウンドではどの試合も相手のリズムの中で戦っていた。それをチームの団結力、負けないという思いで我慢ができるようになった。成長を実感している」と、3度目の優勝を総括した。
どんな戦術・戦略も選手が遂行しなければ絵に描いた餅になってしまう。それを遂行するためには高い技術は当然だが、最後までやり抜くという強い気持ちも必要だ。それを決勝の、さらに延長戦という場面で千葉はそれをやり切った。平成最後の大会で、その栄冠をつかむにふさわしいチームだったと言えるだろう。
文=入江美紀雄