父の影響もあり指導者を目指した稲葉弘法コーチ
校門から真っ直ぐ進むと、ほどなくして目に飛び込んでくる体育館。窓が全開になっているその建物からは、『キュッ、キュッ』というバスケットシューズがフロアをこする音が響いてくる。
茨城県つくば市にあるつくば秀英高校・男子バスケットボール部は、インターハイ1回、ウインターカップは昨年大会を入れて3回の出場を誇る強豪チーム。指揮を執るのは稲葉弘法コーチで、今年で15年目になる。
稲葉コーチの赴任前に指導していたのは小島元基(アルバルク東京)の父・基浩さんで、稲葉コーチがチームを率いた後も、若い指揮官のサポートも兼ねてアシスタントコーチとして5年携わった。
その間にチームはウインターカップで全国大会初出場(2009年)を果たすと、翌年の2010年にはインターハイにも初参戦。この年はウインターカップも連続出場を果たした。
2009年のウインターカップでキャプテンを務めたのは小島元基の兄・優希さんで、元基も1年生ながら主軸として兄とともに活躍(結果は3回戦進出)。翌年にも元基はポイントゲッターとして奮闘している。
現在、つくば秀英は全国区のチームではあるが、稲葉コーチが赴任した当時は地区大会敗戦という実力。そこから県大会出場、県ベスト8と徐々に力をつけていったと稲葉コーチは振り返る。
それと同時に、「今でこそ『全国大会で勝つ』ことを目指すチームになりましたが、赴任当時の『この選手たちを地区大会で勝たせてあげたい』という気持ちは忘れずにいたいと思いますし、今もベースにあります」とも語った。
稲葉コーチは地元・茨城県の出身。父・一行氏は、平岡富士貴氏(群馬クレインサンダーズヘッドコーチ)を率いて筑波西中学校を日本一に導いた中学の指導者で、「平岡さんが全国優勝した時が小学校1年生。バスケットの始まりがそういった形だったので、そこから父のチームを追いかけて、試合があればいつも(父の)隣に座っていました。だから私は小学校時代にミニバスをやっていなかったんですよ」と稲葉コーチは言う。
試合や練習、父の指導を間近で見ながら、「ボールを持って歩いてはいけないんだ」とルールを覚え、また「なんであの選手は怒られているんだろう」などといったことも考えていたという。
それでも中学からは競技者として全国大会に出場。高校では親元を離れて東海大学付属浦安高校(千葉県)へ進み、将来は体育教諭となって高校でバスケットを教えることを夢見ていた。そして進学先の大学を悩んでいた高校3年生の夏、「運命の出会い」をする。
「リクさん(陸川章)と出会って話をする機会がありました。その時に『この指導者のもとでバスケットがしたい』と思いました」
ちょうど稲葉コーチが大学に入学するタイミングで陸川氏が東海大学の監督に赴任。つまりは、陸川監督にとって最初の教え子となる。ちなみに、東海大学付属諏訪の入野貴幸コーチ、東海大学付属相模の原田政和コーチらも稲葉コーチと同級生だ。
大学時代は選手として全力を尽くすものの、「2つ下に譲次(竹内/アルバルク東京)たちのような(高校から全国実績のある)選手たちが入ってきました。チームが色々と変わる中で、リクさんがどういうチームを作っていくのか、私にとってはいい勉強になりました」と、将来を見据えて、指導者目線でもチームを見ていたという。陸川監督から学んだことは多いが、「授業から練習に切り替わる瞬間、誰しも気持ちが乗らない日はあると思います。でも、リクさんの場合、ミーティングが始まるとやる気になる。あの新鮮さを毎日味わえることがモチベーションになっていました。これは大事にしたいなと、その頃に学びましたね」と目を輝かせる。
コロナ禍をチャンスに変えてウインターカップ出場を目指す
今年のチームは、根本大、齊藤雄都、鈴木治輝と、昨年から主力を担っていた3人が軸。「いろんなことができるし、可能性を感じている」というチームは、「型にはまらないように、まだまだ伸びていく要素があると思っています」と稲葉コーチは評する。
目指すは2年連続のウインターカップ出場。「昨年のウインターカップでは北陸学院高校(石川県)に対して何もできなかった悔しさがあります。その経験が今はいい方向に出ていると思うし、(新型コロナウイルス感染症の影響で)バスケットができなかった期間がありましたが、それがある意味プラスになっていると思います」と指揮官は語気を強める。
「命があること、家族やおじいちゃん、おばあちゃんを守ることが第一」ということから新型コロナウイルス感染症が広がると早い段階で練習を止めたというつくば秀英。
「一番強化をしないといけない時期だったので、自分自身も不安はありました。でも、それは全国のみんなが同じこと。これはある意味試されているのかなと。オンラインでのミーティングや栄養講習などたくさんやりました。先生もいない中で自分でやるしかないという環境になった時に自発性が必要になってくる。そういった意味ではみんなよくやったと思います」と稲葉コーチは振り返る。
課題を受けて自らの力で解決する。そういった日々を過ごし、たくましくなった選手たち。茨城県に与えられるウインターカップ出場枠は2つ。名門・土浦日本大学高校をはじめとしたライバルは多いが、「選手層を厚くして、ディフェンスでは誰がでても同じにできるように引き上げたいと思っています」と勝ち切るためのポイントを語った稲葉コーチ。大一番の決戦は10月17日から始まる。
文=田島早苗
取材日=2020年9月21日