相手はジュニアオールスターの女子で最多、7回の優勝を誇る福岡県である(男子も福岡が最多7回)。コーチングスタッフも男女を通じて福岡県の中学バスケットをけん引してきた山﨑修コーチをはじめ経験豊富なコーチ陣が集まっている。
しかし「私がチームに関わってきた5年間で一番いいチーム」と島袋脩コーチが胸を張る山口県は「福岡県=全国区の強豪」というイメージにひるむことなく戦い、80-74で福岡県を下した。
「福岡県はドライブが強いチームなので、それに対してムキになって守らず、粘って、できるだけペイントエリアに入れさせないように守りました。そしてリバウンドまでがんばって、オフェンスリバウンドを取らせなかったことが勝因です」
オフェンスでは島袋コーチの愛娘、島袋椛を筆頭とした170センチ台でアウトサイドシュートも打てる選手を選出し、身長こそ160センチ台前半だがキャプテンの都野七海、森田花菜らコントロール力のあるガード陣と巧みに組み合わせて、厚みのある攻撃を仕掛けた。
「試合をする前は緊張をしていましたが、試合が始まったらみんなが盛りあげてくれたし、コーチも盛りあげてくれました」
キャプテンの都野がそう言うように、スカウティングに基づくディフェンスと厚みのあるオフェンスだけでなく、福岡県の反撃に飲まれそうになると島袋コーチが的確にタイムアウトを取り、得点が決まればチームメートが自分のゴールのように強く喜ぶチームワークも山口県の選手たちを後押しした。
そうしたチームワークは、もちろん一朝一夕で生みだせるものではない。遠征を含めた20回の練習を重ねる中で、当初は島袋コーチが率いる光市立光井中学校から選出された2人の選手が声を出すだけだったのが、「みんなも釣られて声を出すようになった」(都野)ことで山口県はひとつの“チーム”になった。
島袋コーチがこのチームに関わり始めた頃は、相手の強さに対してコーチ自身も「ムキになっていたところがあった」と認める。ムキになることで冷静な判断は失われ、勝てるゲームさえ落としてしまう。しかし5年目の今年はそうした経験を活かし、最後まで冷静に、それでいて島袋コーチらしい熱さも忘れずに戦っていた。
「山口県は中学も高校もサイズのない県です。さらにこの子たちはキャリアもない。それでも一生懸命やれば強豪と言われるチームに勝つことができると証明できたゲームです」
島袋コーチがそう胸を張れば、キャプテンの都野は2戦目となる奈良県を圧倒し、決勝トーナメント進出を決めた後にこう明かす。
「今大会の目標は絶対にベスト4に入ること。それをみんなで練習中もずっと確認し合ってきました」
先輩たちが過去に1度だけたどり着いたことのあるベスト4の舞台へ――最後のジュニアオールスターで山口県はそれを実現させるつもりだ。
文=三上太