注目のデビュー戦は2得点6アシスト4スティール
2020年10月10日、東海大学1年・河村勇輝がベールを脱いだ。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、インターハイや全中(全国中学校大会)が中止になったのは周知のことだが、それは大学バスケでも同様だ。河村が進学した東海大が所属する関東大学連盟では、関東大学選手権大会、関東大学新人戦、そして関東大学リーグ戦が軒並み中止となった。しかし、関東大学リーグ戦の代替大会の開催が9月に決定。いよいよ河村がデビューを果たす舞台が整ったのだ。
エスフォルタアリーナ八王子にて無観客で開幕した「オータムカップ2020」。1部リーグ所属の計12チームで争われるトーナメント戦において、東海大は初戦の相手となった拓殖大学を79−48で退け、11日の2回戦へと駒を進めた。
河村の出番が訪れたのは、第1クォーター残り3分31秒。この時点で15点リードを作った東海大は、先発を担った5人全員を下げてセカンドユニットを投入。河村はその1人としてコートへ立った。
今年背負う背番号は「5」(試合後、この番号を選んだ理由を問われると「特にないです」とキッパリ)。まずは近くいた福岡第一高校時代のチームメートであり、昨年はともに夏冬2冠を成し遂げた神田壮一郎(拓殖大1年)と軽くタッチを交わす。
この時の心境は「率直にすごく楽しかった」と河村。「神田と大学の1部で戦えることはうれしかったですし、お互いの成長が見れたらいいなとも思っていました。次はもっと高いレベルでできたらいいなと思います」。
その約1分後、コーナーからドリブルでペイントエリアに侵入し、ディフェンスが寄ってきたところで冷静にアウトサイドへパスを出した。このパスから福岡第一高の1つ先輩である松崎裕樹が3ポイントを射抜き、河村は初アシストをマーク。同クォーター終了間際にはバランスを崩して得点にはならなかったものの、激しいディフェンスからボールを奪ってワンマン速攻を仕掛けた。
そして、初得点が生まれたのは第2クォーター残り5分51秒。ディフェンスリバウンド取った相手が攻撃に出ようと味方へパスを出した瞬間、東海大のルーキーは背後から忍び寄ってパスカット。そのままレイアップを沈めて見せた。
その後もコンスタントにプレータイムを得た河村は、18分11秒の出場時間で2得点6アシスト4スティールを記録。注目のデビュー戦を終えた感想は、「少し緊張した」と意外な答えが返ってきた。
「大学生活で初めての公式戦と言うことで、少しプレーにも硬さが出たかなと思います」。新型コロナウイルスの影響で半年以上も公式戦から遠ざかり、ましては大学生になって初試合、先発ではなくベンチスタートだったことも河村を緊張させた要因だったという。それでも、「1試合こなしたことですごく(気持ちが)楽になったので、明日はしっかりアジャストできるんじゃないかなと思います」と、河村は次戦を見据えた。
「4年生がいるこのチームで」大学日本一を
昨シーズン、河村勇輝は高校だけでなく、日本バスケ界を盛り上げた1人と言える。
前述したとおり、福岡第一高では2度の全国優勝を果たし、ウインターカップ前に行われた天皇杯2次ラウンドでは、千葉ジェッツ相手に21得点10アシスト6スティールの大暴れ。真剣勝負の場で彼と対峙した千葉・富樫勇樹は「高卒でプロになってほしい」と太鼓判を押すほどのパフォーマンスだった。そんな富樫の言葉も背中を押したのだろうか!? 年が明けた1月には三遠ネオフェニックスの特別指定選手としてBリーグの世界へ飛び込んだ。
プロの世界でも、河村の勢いは止まらなかった。大人たちにも全く引けを取らないスピード、テクニックでコートを駆け回り、会場を毎試合満員にさせるほどバスケファンを魅了。B1での最年少出場記録と最年少得点記録も更新し、Bリーグの新人賞ベストファイブに選ばれた。
このままプロになっても十分通用するのでは――。
きっと河村自身も、そんな声を耳にしたこともあるだろう。だが、河村は明確な理由のもとで大学進学を決めた。
「新しいバスケットや自分にはないバスケットの知識を取り入れたかったとうのが東海大に進学した理由でもありますし、そういったところは練習中から勉強になっています」
陸川章コーチ率いる東海大はトランジション重視の福岡第一高とは異なり、よりシステマチックでハーフコートバスケに重きを置くチームだ。河村は現在、高校時代との「ギャップ」を感じながらも、セカンドユニットとして「スタートにはないアグレッシブさを出してプレーする」ことを心がけ、チームの勝利に貢献しようと日々を送っている。
また、「Bリーグを経験してフィジカル的な問題が課題として挙がった」と、自粛期間中にはフィジカル強化にも取り組んだという。実際、約7カ月ぶりに見た河村は、以前よりも体つきがひと回り大きくなった印象を受ける。
「しっかりと体を鍛えてフィジカルを改善するために、トレーニングに励んでいます。自粛期間から体幹の部分や、ある程度体重を増やして筋肉量を上げたりすることを意識してやりました」
将来を見据え、大学バスケ界で新たなスタートを切った河村。まだ4年間のうちの1試合を消化したばかりだが、「4年生がいるこのチームで試合ができるのはあと10試合もないと思っている」と、大学日本一へ向け抜かりはない。
「一戦一戦楽しくやりつつ、勝つことでいい思い出になっていくと思うので、まずはこのトーナメントで優勝してインカレにつなげられるように頑張っていきたいです」
これまで同様、いや、これまで以上に、河村勇輝の一挙手一投足には多くのファンが注目することだろう。
文•写真=小沼克年