JX−ENEOS 渡嘉敷来夢×宮澤夕貴 「ビッグになりたい」と口をそろえる2人のMVP(後編)

意外にも今回の取材で初めて対談を行ったという写真左から渡嘉敷来夢と宮澤夕貴 [写真]=兼子慎一郎

JX−ENEOSサンフラワーズの優勝で幕を閉じた第20回Wリーグ。これにより、JX−ENEOSは前人未到の11連覇を達成した。その快挙に大きく貢献したのがレギュラーシーズンMVPの渡嘉敷来夢とプレーオフMVPの宮澤夕貴
1991年生まれの渡嘉敷は、日本人として3人目となるWNBAプレーヤーで、今シーズンも安定したプレーでけん引。一方、1993年生まれの宮澤は、JX-ENEOS入団後に身に付けた3Pシュートを武器としてオールラウンドに得点を挙げた。
一緒に戦って7年目。そんな2人のMVPにシーズンのこと、互いのこと、そして今後への思いを語ってもらった。

前編はこちら

取材・文=田島早苗
写真=兼子慎一郎(インタビュー)、伊藤一充(プレー)

「タクさんは私の指導係なんです」(宮澤)

今シーズンはパスに目覚めたという宮澤 [写真]=兼子慎一郎

――改めてそれぞれのプレーの印象を聞かせて下さい。
宮澤 先に言うね。タクさんは、3Pが打てるようになって…。
渡嘉敷 真顔で聞こ(笑)。
宮澤 上から目線ぽくなっちゃいますが(笑)、そこが急成長。それまではタクさんのディフェンスが私に寄ったら、タクさんが外にいるから、まずボールを”返す”という考えでパスをしていました。でも、今シーズンは、ディフェンスが寄ってきたら、”3Pシュート打って”という考えになりました。
渡嘉敷 (ボソっと)入らなかったけど…。
宮澤 4アウトの攻めでも選択肢が増えたというか。あと、今シーズンは、タクさんにパスを入れることが多くなった。アシストが増えたと思います。「今、裏取るんだろうな」というタイミングがすごく分かって。ファイナルではあまりなかったけどね。1度弱いパスを取ってくれた。あれは、もう少し強いパス出せばよかったなぁ。
渡嘉敷 大体そういう時はパスした後にアースは、「あーっ」とか言う。そのパスを取って自分がシュート決めると、(涼しい顔の演技をしながら)「ナイッシュー」って。あの「あー」は何?って思う。
宮澤 加減するとダメだね。やっぱりタクさんにしか取れないパスを出さなきゃ通らない。

――パスに目覚めたんですね。
宮澤 はい。今年からなんか、ね。(渡嘉敷を見る)
渡嘉敷 いきなりシーズン中に言ってきたんですよ。「私、パス上手くない?」って(笑)
宮澤 今シーズン、パスが通るよねって、ね(笑)

――そんな宮澤選手対して渡嘉敷選手の印象は?
渡嘉敷 昨年よりもアースに託すことが多くなったというか、「チームを引っ張っていかないといけないよ」というのを伝えつつ、それに応えてくれたシーズンだったと感じています。それこそ、今まではメイさんやリュウさんとやっていたことをアースに求めることが増えました。それに応えたのは、アースの努力だと思うし、成長だと思います。チームを勝たせないといけないという気持ちが昨年よりも強くなったと感じますね。入団当初から仲良くしてるけど。昨年以上に成長したし、まだまだ頑張っていけそうだね、一緒にね。
宮澤 指導係なんです、私の。

――指導係とは?
宮澤 (JX−ENEOSに)入る時に、「来たら自分が育てるから」って言ってくれて。
渡嘉敷 この話は書くしかないよ、絶対(笑)。
宮澤 高校3年生で(進路を)相談している時だよね。
渡嘉敷 そう。進路どうしようって言ってたから、「来てくれるのは嬉しいけど、やるのは自分だから」って。
宮澤 「自分で決めな」ってね。
渡嘉敷 「でも、来たらしっかりと育てるし、絶対に自分がいる間は優勝し続けるから」と、言いました。で、負けたよね(笑)。
宮澤 負けたね(笑)。私は1年目の皇后杯、負けています。
渡嘉敷 あまり大きな声では言えないけどね…。
宮澤 そうしたら、負けてるのに皇后杯の表彰式でタクさんがヘラヘラしてたんですよ。私は金沢総合高校時代にそういうことは絶対になかったから、「え、負けてこういう感じなの?」って思って。でも、その後、寮に帰って選手みんなで集まってご飯を食べていたら、「自分のせいで負けた~」と、タクさん泣いて。
渡嘉敷 思っていることはあったんですよ、ちゃんと。でも、自分が落ち込んでいても良くないかなと思ったから。その時って21歳ぐらいでまだ若いじゃないですか。だから自分なりにチームを盛り上げようじゃないけど、「大丈夫だよ」というのを見せたかったんだと思います。

「もっといろんなことに挑戦して、もっとビッグにならなきゃ」(渡嘉敷)

渡嘉敷は「いろんな意味でまだまだ(宮澤より)先に行かないといけない」 [写真]=兼子慎一郎

――そんなエピソードがあったのですね。話は変わりますが、それぞれから見た性格を教えて下さい。
渡嘉敷 絶対に自分のこと先輩だと思ってないよ。
宮澤 思ってます、思ってます。でも、先輩とかっていう前に…なんか………”人”。
渡嘉敷 当たり前~(爆笑)。

――どんな人ですか? 渡嘉敷選手は。
宮澤 周りに気を使う人ですね。でも、たまにすごくグサッと来る言葉を言います。例えば、私がケガでリハビリをしていた時期があって、リハビリってそもそも孤独を感じるじゃないですか。それをタクさんだってわかっているはずなのに、遠征の時かな「アースは今回の遠征行かないんでしょ、バイバ~イ」ってふざけながら言ってきたんです。私はリハビリでメンタルもやられて、孤独感も感じている状態だった上にそんなこと言われて。ほんと悲しくて、そしたらだんだん涙があふれてきて。でも、タクさんは冗談で言っているのに、その場で泣いたらおかしいから、トイレに行って泣きました。
渡嘉敷 (笑)。いつの話だろ、全然覚えてない。

――もう少し、渡嘉敷さんを褒めたような話を…(笑)。
宮澤 うーん。タクさんは…、一緒に頑張ろうと思っているのが伝わります。それに自分を持っていますね。

――では、渡嘉敷選手から見た宮澤選手は。
渡嘉敷 褒めるの難しいなー(笑)。
宮澤 いつも褒めてくれますよ。
渡嘉敷 本当に、本当にね、空気読めない(笑)。
宮澤 よく言われる。
渡嘉敷 それがわざとではない。相手を傷付けるつもりもない。一つ話をしていいですか。バスケットをしていて、自分のことを大切に思ってくれるのはありがたいんですけど、試合中に血が出ていたら普通は「大丈夫?」が先じゃないですか。なのに私が口から血を出したら、「今、抜けられたら困るから舐めて」って(笑)。
宮澤 舐めたら大丈夫な感じだったので(笑)。
渡嘉敷 もちろん交代しましたよ。それでトレーナーさんのところに行ったら、思ったより血が止まらないからガーゼで押さえて。押さえながら「舐めて」って言ったアースってすごいなと思いましたよ。そういうことを悪気なくやっちゃう魔法使い。でも、そこも含めてアースのいいところ、面白いところだと思っていますよ。ただ、バスケットに関しては、一緒にやっている年数も長いから、どんなに悪くても這い上がる力をアースは持っていると思っているし、信じています。
宮澤 せやな。
渡嘉敷 ほら、今の「せやな」っていらないでしょ。今、結構真剣な話していたし、いつも標準語なのに何で「せやな」って。そういうところだよ(笑)。
宮澤 (笑)。

――話は尽きないのですが、最後、課題を踏まえた上で今後の豊富をお願いします。
宮澤 (外角の)シュートは確立してきたので、あとはスキルの面。パスやドリブル、(ドライブでのディフェンスの)抜き方をさらに身に付けて、もっともっとレベルアップすること。東京オリンピックでは何でもできる選手、シューターではなくてスコアラーになりたいです。
渡嘉敷 まだドライブもポストアップも自分の方がレベルは上だからね(笑)。
宮澤 もっとビッグになりしたいし、まだまだなれると思っています。
渡嘉敷 アースとは逆に、自分に足りないものは3Pシュートなので、今後、もっと3Pシュートを打つことが増えればドライブがさらにできるし、やりたいプレーの幅が広がると思っています。今、国内でアースがやっていることを私は世界でやらないといけないという思いがあるので、アースに負けないように。アースが一番上手い選手だと思っているので。
宮澤 こう言ってくれるんですよ、先輩が。
渡嘉敷 本当にそう思ってるし、アースに負けてられないなと思って練習をしている。だから、(チーム練習で)アースに付いているマークマンにボソっと「3Pシュートは絶対に止めて」って言うんです。そうすると、アースが今取り組みたいと思ってるドライブができるじゃないですか。
宮澤 なんかいつもボソボソ言ってるんですよ。
渡嘉敷 アースのスキルを身に付ければアースより最強になれるってことだし(笑)。今の自分に満足するのではなく、満足することは自分が妥協すればできること。もっといろんなことに挑戦して、もっとビッグにならなきゃ。アースが入団した時に「指導する」と言ったんだから、常にアースの上にいないと。いろんな意味でまだまだ先に行かないといけないなと感じています。それで自分が経験したことをしっかりとアースにも伝えられればいいなと思っています。

チームはリーグ新記録となる11連覇を達成。しかし、2人のMVPの向上心はまだまだ尽きないようだ [写真]=伊藤一充

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