アメリカのテキサス州で行われている日本、アメリカ、スペインの3カ国による車いすバスケットボール男子の親善試合。第2日目の22日、日本はアメリカとの初戦に臨んだ。2016年、リオデジャネイロパラリンピックの直前に行われた国際親善試合「コンチネンタルクラッシュ」(イギリス)以来、3年ぶりに実現したアメリカとの一戦は、35-76と予想以上に厳しい結果となった。しかし、チームは誰一人下を向いていなかった。果たして、その理由とは――。
崩れなかった日本の挑む姿勢
「アメリカは日本が来年メダルを取るために、必ず倒さなければならない相手。そのアメリカと本番1年前に試合ができるのは大きい」
前日、及川晋平ヘッドコーチがそう語ったように、今回の遠征の最大の目的は、リオパラリンピックで金、昨年の世界選手権で銀と、“世界最強”と言っても過言ではないアメリカと一戦を交えることにある。
その第1戦、先制点を挙げたのは日本だった。香西宏昭がいきなり3ポイントを決め、地元アメリカを応援する観客の度肝を抜いた。ボールマンへ強くプレッシャーをかけにいくディフェンスも機能し、第1クォーターはまさに「互角」の内容だった。
しかし、第2クォーターはわずか4得点。相手には19得点を奪われ、一気に引き離された。決して日本が攻めあぐねていたわけではなかったが、フィニッシュが決まらず、得点は伸び悩んだ。その隙をパラ覇者は見逃さなかったのだろう。第3クォーターは完全にアメリカが主導権を握った。
第3クォーターを終えて、22-57。意気消沈してもおかしくはない大差をつけられていた。ところが、日本のベンチに流れる雰囲気は決して沈んではいなかった。そして、コート上のプレーヤーも挑むことをやめなかった。
象徴的だったのは、第4クォーターの鳥海連志のプレーだ。
「5人で合わせようとはするけれど、なかなかそれがうまくいかない時間帯の中で、1on1で切り崩して個の力を見せるようなプレーがないなと感じていた」という鳥海。持ち味のクイックネスな動きで、インサイドに切り込み、果敢にゴールを狙った。その動きに相手は対応できず、鳥海は立て続けに得点を奪った。
米国戦から見えた20歳プレーヤー、鳥海連志の成長
結果的には大差をつけられたものの、「メダルへの道を、どう進めばいいかを肌で知ることができた」と及川HC。これまで抽象的だったものが、金メダルチームと対戦したことで、具体的になったことは少なくない。
そして鳥海もプラスに捉えていた。
「自分たちのいい部分もあったし、相手にやられた中で、何がいけなかったのかを感じることができているということは、まだまだより良くできると思えている証。負けて本当に悔しいけれど、でも、すごくポジティブな気持ちでいます」
3年前の対戦の時のように“カオス”状態にはならなかったという鳥海。彼の変化は、インタビュー中の言葉からもうかがえた。日本のオフェンスに対しての質問に、彼はこう答えた。
「いいシチュエーションで打ってもらえるようにしたかったのですが、難しいところでシュートを打たせてしまった」
少し前の鳥海なら自分自身のことにフォーカスした答えが返ってきていたに違いない。だが、今は違う。「まずは自分が行くこと」だった考えが、今ではそこにこだわりつつも、周囲を見て任せるところは任せるなど、ゲームコントロールすることを念頭に置いてプレーしているからだ。
さらにベンチにいる際にも声で存在感を示している。「コートに出ている5人が試合をつなげるだけでなく、ベンチをつないでいくことも試合のカギを握る。ベンチからの声がしっかりと力になることはわかっていますから」と鳥海。「自分が試合に出ることしか考えていなかった」3年前のリオの時とは全く違う。
プレーのみならず、一人の選手として、成長し続ける鳥海。彼の実力は、まだまだこんなものではないはずだ。それは鳥海自身が一番わかっていることだろう。この遠征でも、さらに成長した姿を見せてくれるに違いない。
文・写真=斎藤寿子