【三菱電機ワールドチャレンジカップ】大一番で示された及川ジャパンの積み重ねてきた“ベーシック”&“ベリー・ハードワーク”

日本にとって、収穫と課題が見付かった大会となった[写真]=斎藤寿子

 8月29日~9月1日の4日間にわたって開催された国際強化試合「三菱 WORLD CHALLENGE CUP 2019」。1年後に迫った東京パラリンピックの本番会場となっている武蔵野の森総合スポーツプラザには、4日間で延べ約2万3000人の観客が詰めかけた。

 その中で“本番のリハーサル”として臨んだ男子日本代表は大会連覇こそ達成できなかったが、1年後に向けた大きな収穫を得ることができた。中でも世界4強、アジア王者のイランから3年ぶりとなる勝利を挙げた試合は、まさに日本の強さが詰め込まれた内容だった。及川ジャパンが地道に積み重ねてきたことの“成果”が映し出されていたイラン戦を振り返る。

文・写真=斎藤寿子

イランの“ビッグ3”を封じた最強カード

 及川晋平ヘッドコーチ率いる男子日本代表にとって、今大会最大のヤマ場となったのが第3戦のイラン戦だった。前日にオーストラリアに敗れて1勝1敗となった日本が決勝に進出するためには、イランに15点差以上で勝つことが必要とされた。

 主力にビッグマンを3人擁するイランは、オフェンスに強く、“個の得点力”という点では世界トップクラス。特にペイントエリア内に入れば、どれだけのタフショットでも決めてしまう圧倒的な力を持つ。その実力は4強入りした昨年の世界選手権でも証明されている。

 そのイランに対し、高さで劣る及川ジャパンが勝機を見出すには、ただ一つ。いかに“ビッグ3”をペイントエリアから遠ざけることができるか、にあった。そこで指揮官がカードを切ったのは40分間フルでのオールコートのプレスディフェンスだった。

 その采配が的中した。昨年のアジアパラ競技大会決勝では62得点を決められた“ビッグ3”を、36得点に抑えたのだ。特にアジアパラでは最多の25得点と大暴れしたモルテザ・エブラヒミをわずか9点に封じた。いかに日本のディフェンスが機能し、最後まで衰えなかったかがわかる。 

 決勝進出こそ逃したものの、3年ぶりとなるイラン撃破の事実はチームに大きな自信をもたらしたことは間違いない。そして、「これまでやってきたことが間違いではなかった」と改めて感じたのではないか。及川ジャパン結成の2013年から継続してきた“ベーシック”、さらにリオ以降に課した“ベリー・ハードワーク”の積み重ねがあったからこそ切れたカードによる勝利だったからだ。

日本はどの試合も40分間をタフに戦った[写真]=斎藤寿子

試合終盤に見せた強さは“努力の賜物”と“成長の証”

 速さと粘り強さを兼ね備えた日本のプレスディフェンスは、一見激しさだけが強く印象に残る。しかし、よく見てみると、そこには正確な技術が備わっている。ほんの一瞬早く相手の進路方向に入り、さらに車いすの向きも細かく調節することで、“衝突”にはなっていない。すべてが一瞬の判断と動きでしかなく、まさに“ベーシック”上に成り立つ高度な技術だ。ターンオーバーが、日本が7に対し、イランは16を数えたことからも、いかに日本の高度なチェアスキルによる守備力が勝っていたかがわかる。

 そしてもう一つ注目したいのが、強靭なスタミナだ。プレスを40分間フルでできるだけのスタミナがあったからこそ、最終クォーターで引き離すことに成功したのだ。残り3分で55-54。最後の3分間で日本は8得点を挙げ、イランを3点に抑えてみせた。

 2017年アジア・オセアニア・チャンピオンシップス準決勝、2018年アジアパラ決勝ではいずれも前半にリードを奪いながら、後半にイランの猛追に遭い、逆転負けを喫している。そこでチームから上がってきたのは「40分間やり続ける力がまだない」という課題だった。しかし、今回のイラン戦で日本は最後にトーンダウンするのではなく、逆にギアを上げて引き離した。及川ジャパンはしっかりと成長し続けている。その何よりの証だ。

 もちろん、細かいミスもあり課題はまだたくさんある。それでも1年後に彼らが目指す山頂に、また一歩近づいたことは間違いない。

連日、多くの観客が足を運び、声援で日本を後押しした[写真]=斎藤寿子

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