2023.04.28

東京パラ・車いすバスケ日本代表の藤本怜央が39歳の今も世界トップクラスの実力を持つ理由

藤本怜央は39歳になった今でも世界の強者たちとしのぎを削り合っている [写真]=Ana Sasse
新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年よりスポーツ専門ウェブサイトで記事を執筆。車いすバスケットボールの取材は11年より国内外で精力的に活動を開始。パラリンピックは12年ロンドンから3大会連続、世界選手権は14年仁川、18年ハンブルク、アジアパラ競技大会も14年仁川、18年ジャカルタの各大会をカバーした。

2004年アテネから5大会連続でパラリンピックに出場し、日本代表活動は今年でちょうど20年目を迎えた藤本怜央。彼は39歳となった今もなお貪欲に車いすバスケットボールと向き合っている。2014年からドイツリーグでプレーし、世界の強者たちとしのぎを削り合ってきた。

常に優勝争いをするRSVランディルでの2年目となった今季は、自らがアスリートとして新たなフェーズに突入したことを実感したシーズンでもあった。プレーオフファイナル第2、3戦でトップスコアラーに輝いた活躍の背景にあったものとは。そして、今後の代表活動への思いにも迫る。

取材・文=斎藤寿子

悲鳴をあげた体に与えたケアとレスト

 今年2月、藤本の体には異変が起きていた。

「最初は腰に痛みが出てきたんです。その後も肩、首と、体のあちこちに痛みが生じた。でも、練習や試合とかでのケガではなかった。いずれも何もしていない時に、急に出てきた痛みでした」

 さらにある朝目が覚めると、右半身に軽い痺れを感じたという。2月と言えば、ドイツリーグの間にユーロ・チャンピオンズカップ(ユーロCC)のグループ予選があり、ドイツからオーストリアまで車で片道9時間の移動を強いられた時期でもある。海外リーグならではのタフなスケジュールに、疲労が蓄積されていたのかもしれなかった。いずれにしても、こんなことは過去に一度もなかっただけに、藤本は39歳となった自分自身の体と向き合い始めた。

 10月から5月までのシーズン中は、ドイツリーグのほか、ドイツカップ(サッカーなどの天皇杯と同じオープントーナメントの大会)、ユーロCCがあり、特に強豪のランディルはいずれもファイナルまで勝ち残るため、ほぼ毎週末、ゲームがある状態だ。ユーロCCとなれば、遠距離移動のうえに2連戦、3連戦をこなさなければならない。そんな生活を、藤本は14年から続けているのだ。

 ランディルでは、週末の試合に向けてチーム練習は火曜日から金曜日まで行われる。土曜日は試合もしくは、日曜日にゲームの場合は練習、あるいは移動日となり、月曜日が休養日だ。だが、藤本はチーム練習のほかに個人的にジムでトレーニングを行っている。聞けば、これまでは月曜日も含めて週6日の頻度でジムに通っていたという。それが、週末の試合で最高のパフォーマンスを出すための最適な準備となっていたからだ。

 しかし、39歳となった自分の体には、果たしてそれがいいのだろうか……。疑問に思った藤本は、ジムでのトレーニングを2日に1回に減らすことにした。さらにドイツ在住の日本人トレーナーによるケアの時間も増やした。

「これまでは日々のピークが積み重ねられた末に、最高のピークの状態で週末を迎えられるという考えでした。でも年齢的に、トレーニングをやればやっただけ良くなるわけではなくなってきたんだろうなと。それよりもいかに体をケアして、休ませて、リカバリーさせられるかが、今の自分の体には大事なんじゃないかと思ったんです。アクティブとレストとのバランスを考えるようになりました」

 2月中旬から取り入れた新たなトレーニング方法が、藤本の体を常にフレッシュな状態にしたのだろう。「ケガから学ぶことは多い」と藤本が言う通り、最も疲労がたまってくるはずのシーズン終盤、パフォーマンスが右肩上がりとなり、最高のコンディションでプレーオフに臨むことができたのは“ケガの功名”でもあった。

 そして、自らの体から出ていた“サイン”を見逃すことなく、しっかりと年齢と向き合った藤本の柔軟さと強さもあったに違いない。

最高のコンディションでプレーオフを迎えることができた [写真]=Ana Sasse

日本代表に不可欠な存在であり続けるために

 ふだん、藤本はよく自らのことを「おじさん」と呼ぶ。だが、彼は年齢を言い訳にするつもりはない。

「日本代表でも最年長だからと僕だけトーンを落としていいとか、経験だけで起用されるような選手にはなりたくありません。コート上ではあくまでも(鳥海)連志や(古澤)拓也、(川原)凜、丸山(弘毅)ら、今最も勢いのある世代の選手たちと同じステージで戦える存在でなければならない。チームコンセプトを変えることなく、彼らと一緒にプレスでいけと言われたら、“当然、藤本もやれるだろ?”“全然いけますよ”と。一緒にプレーしていても若手に年齢を感じさせず、しっかり彼らとマッチしたプレーができる。それは世界に勝つことと同じくらい、今の僕には重要なテーマだと思っています」

 5月5、6日には、今シーズン最後の戦いとなるユーロCCファイナル4が控えている。これはヨーロッパのクラブ王者決定戦にとどまらず、この後の代表活動に大きく影響すると藤本は考えている。ヨーロッパの4強である各チームには、世界から代表クラスの選手たちが集結しているからだ。特にスペインの2チームには、グレッグ・ウォーバートン、リー・マニング、ハリー・ブラウン、テリー・バイウォータ―ら、前回の世界選手権覇者であるイギリス代表が多く揃う。

「日本代表のことを考えた時に、僕が彼らと互角に戦えるところを見せなければいけないと思っています。そして日本が世界に勝つためにと考えた時に、僕の名前が真っ先にあがってくるようなプレーを見せたいですね」

 その後はドイツに残り、5月後半にはドイツ、トルコでの男子ハイパフォーマンス強化指定の遠征に合流する予定だ。

「久々に日本のみんなとプレーできるのが楽しみです。もちろんクラス4点台の中で、僕は今も誰にも負けない自信がある。チームメートにも、日本のファンの皆さんにも“やっぱり日本にはまだまだ藤本がいないとダメだ”と思われるような存在であり続けたいと思っています」

 日本代表におけるハイポインターの“第1シード”の座は、誰にも渡すつもりはない。今シーズンも、それだけの努力と実績を残してきたという自負が、藤本にはある。

これからも藤本怜央の挑戦は続いていく [写真]=Ana Sasse

BASKETBALLKING VIDEO