2023.03.27

【車いすバスケットボール男子次世代強化合宿】切磋琢磨し芽生えた向上心と闘争心

4日間にわたって、車いすバスケットボールの男子次世代強化合宿が行われた [写真]=斎藤寿子
新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年よりスポーツ専門ウェブサイトで記事を執筆。車いすバスケットボールの取材は11年より国内外で精力的に活動を開始。パラリンピックは12年ロンドンから3大会連続、世界選手権は14年仁川、18年ハンブルク、アジアパラ競技大会も14年仁川、18年ジャカルタの各大会をカバーした。

 3月23から26日の4日間にわたって、パラアリーナでは車いすバスケットボールの男子次世代強化合宿が行われた。今年度からJWBF(日本車いすバスケットボール連盟)では新しい強化体制がスタートしたなか、A代表候補である「ハイパフォーマンス強化指定選手」への昇格を目指す「次世代強化指定選手」が全員そろって一堂に会したのは今回が初めてとなった。

 事情によって欠席となった3人を除く19人に加えて、トライアウトとして招集された3人が参加。16歳から29歳までの22人が、フィジカルや基礎スキルを磨くトレーニングを行った。

トレーニングへの意識の高さが感じられたフィジカルテスト

 藤井新悟コーチ(男子日本代表アシスタントコーチを兼任)が“フィジカル強化”を最大の目的に掲げた今回の合宿。初日に行われたのは、スタミナやアジリティなどを測定するフィジカルテストだ。そこで自らも驚きを隠せないほど“過去イチ”の結果を出し、進化を証明してみせたのが、26歳の熊谷悟(3.5)だった。

次世代強化指定選手たちを指導した藤井新悟コーチ [写真]=斎藤寿子

 熊谷は、2017年の男子U23世界選手権で4強入りしたときの主力の一人。東京パラリンピックに出場した現男子日本代表キャプテンの川原凜(1.5)をはじめ、古澤拓也(3.0)、岩井孝義(1.0)と同世代だ。しかし、彼らのようにA代表の強化指定入りすることは叶わず、年齢的にU23のカテゴリーを卒業して以降、“強化”というステージからは外れていた。そんななか今年度にできた新カテゴリー「次世代強化指定」では原則30歳以下と、U23カテゴリーから対象年齢が広がったことで、久々に“強化”というステージにカムバックしたのだ。

 このチャンスを逃すまいと、合宿前に「40分間走りこみをするなど、しっかりと準備をしてきた」という熊谷。その努力が実り、合宿初日のフィジカルテストでは3周走および28mスラローム走のタイムと、チェストパスの距離の3項目でトップの数値を出した。U23時代にはフィジカル測定でトップになったことは一度もなかったという熊谷にとって、それは大きな自信をもたらす出来事だった。

「特にスラロームはこれまでずっと苦手としてきたんです。でも、2年ほど前から通っているジムで重心移動のトレーニングをしてきた。それが成果として表れたのだと思います」

フィジカルテストで存在感を発揮した熊谷悟 [写真]=斎藤寿子

 そのほか18歳の中川西優紀(3.5)も「スピードや反応の速さが以前よりも上がっていて、自分の成長が感じられてうれしかった」と語るなど、手応えを感じた選手も多かったようだ。藤井コーチも「フィジカル的に誰一人以前よりも落ちている選手はいなくて、トレーニングへの意識が若い選手のなかでも高まっているなと感じた」と述べ、予想以上の結果に目を細めた。

同世代の存在が成長の糧となる刺激に

 合宿の2、3日目には午前はバトルロープやシャトルラン、車いすを漕ぐ強さや相手との競り合いに負けないパワーを養うプッシュトレーニングなどの過酷なトレーニングメニューが課された。そして最終日には、合宿の総決算として2チームに分かれての紅白戦が行われた。

“フィジカル強化”を目的にトレーニングに励んだ選手たち [写真]=斎藤寿子

 今回の合宿は、トライアウトの3人だけでなく、今年度の次世代強化指定選手にとっても2023年度のハイパフォーマンスおよび次世代の強化指定選手に入るかどうかの選考の場でもあった。そんななか行われた最終日のゲームではそれぞれの持ち味を発揮しようと、実戦さながらの迫力あるプレーの応酬が見られた。

 今回、トライアウトとして招集された一人、18歳の岩田晋作(4.5)は、本格的に車いすバスケットボールを始めて3年。地元のクラブチームには年輩の選手が多く、初めての同世代との合宿に、これまでにはない気持ちが芽生えたという。

「同世代でうまい選手を目の前にして、やっぱり負けたくないという気持ちが出てきました。例えば、同い年の小山大斗くん(3.5)は、体力もあるし、細かい車いすの操作やブレーキングなどもうまくて、ほとんどの点で負けていることを痛感しました。そういう経験ができて、闘争心が生まれたように思います」

トライアウトとして招集された、18歳の岩田晋作 [写真]=斎藤寿子

 また、「今の自分には通用するところは一つもない」と厳しい自己評価を下したのが、最年少16歳の岡田壮矢(3.0)だ。

「自分の強みはスピードのつもりでしたが、全然だなと。最初のフィジカルテストの時点で、ちょっと大げさに言えば心砕けました(笑)。上には上がいて、もっと伸ばしていかないといけないとわかりました」

 そして、岡田はこう続けた。

「今ここにいるメンバー全員を上回って、すべての面で一番をとることが目標。それからその上を目指したいと思います」

互いに10代の岡田壮矢(左)と中川西優紀(右) [写真]=斎藤寿子

 A代表候補のハイパフォーマンス強化指定入りを目指す一方で、10代の選手たちは2年後にはU23世界選手権が控えている。それぞれの目標に向けて切磋琢磨する次世代カテゴリーから目が離せそうにない。

取材・文・写真=斎藤寿子

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