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『B MY HERO!』
車いすバスケットボールのドイツリーグ(1部)ではプレーオフファイナルが行われ、因縁のライバル同士であるRSBテューリンギア・ブルズ(リーグ1位)とRSVランディル(同2位)が激突。4月23日、1勝1敗で迎えた第3戦を制したブルズが2年ぶりのリーグ優勝に輝いた。一方、連覇を逃したランディルも苦しいチーム事情を抱えながら堂々の戦いぶりを見せた。特に東京2020パラリンピック日本代表の藤本怜央が第2、3戦で両チームあわせて最多得点を叩き出すなど活躍。チーム最年長39歳の健在ぶりが目立った。
それは、突然のニュースだった。東京2020パラリンピックではプレーイングマネジャーとして男子イギリス代表を銅メダル獲得に導いたギャズ・チョウドリー。今シーズン加入1年目の彼がランディルを退団することが4月4日、チームから発表されたのだ。大事なプレーオフファイナルの約2週間前での主力の退団はあまりにも衝撃的だったが、リリースによればチームの幹部会議による決定だったという。
当然、チームにも大きな影響を及ぼした。それが顕著に表れたのが、同16日に行われたプレーオフファイナル第1戦だった。ホームというアドバンテージはもろくも崩れ去り、開始わずか3分過ぎには早くも2ケタ差にまでビハインドを負う状況となっていたのだ。結局、第1クォーターは9−27。藤本も「勝負は最初の10分だった」と語る。
「ギャズが抜けたことで、それまで軸としていたラインナップの一つが使えなくなり、選手たちが不安に感じていた部分は否めませんでした。一方、相手は昨年優勝を逃しているだけに、気合いが入っていたはずです。それに対してこっちは最悪なスタートとなってしまった。その結果が、あれだけの大差につながったのだと思います」
結局、第1クォーターでの大差が最後まで大きく響き、53-81と完敗。2戦先勝で優勝が決まるファイナルにおいて、ランディルは崖っぷちの状態でアウェイに乗り込むことになった。
1週間後の23日(現地時間22日)、ブルズのホームで第2戦が行われた。しっかりと気持ちを切り替え、背水の陣で臨んだランディル。第1戦での反省を生かして出だしに集中し、第1クォーターを16−18とした。第2クォーター以降も激しい攻防を繰り広げ、両チームともに一歩も譲らないがっぷり四つの展開となるなか、勝敗を決したのはフリースローだった。
第4クォーター残り1分を切り、スコアは63−60とランディルのリードはわずか3点。そして残り20秒でトミー・ベーメー(ドイツ)がフリースローを2本ともに決めた、その直後のことだった。ブルズのエース、アレクサンダー・ハロースキー(ドイツ)が3ポイントシュートを決めたのだ。もし、ベーメーがフリースローを外していれば同点となり、試合の行方はわからなかった。ランディルからすれば一瞬、ヒヤリとする場面だっただろう。
藤本は言う。
「トミーは40分フルで出場した中で、あの終盤の大事な場面でフリースローを2本ともに決めてくれた。さすがだなと思いました。でもドイツリーグでは、それが当たり前なんです。強豪チームは、意図的ではない限り大事なところでフリースローを外すシーンはあまり見たがことがありません」
その藤本も、最後にファウルゲームに望みをつないだブルズに対し、フリースロー2本をしっかりと決めてみせた。ランディルは67−63で逆転勝ち。勝負の行方は最終戦に持ち込まれた。
翌23日、同じくブルズのホームで行われた第3戦。第1クォーターでリードしたのは、この試合もブルズだった。それでもランディルも粘り強く戦い、一時は10点差と引き離されかけたものの、32−38となんとか1ケタ差で前半を終えた。
しかし、実は前日の前半とは大きな違いがあった。ブルズの試合のトーンだった。第2戦、「この試合で一気に決めよう」という強い気持ちが働いたのか、前半のブルズの動きは凄まじかった。常にスピーディに人とボールが動き、何度もランディルのディフェンスは崩されかけた。それは選手層が厚く、頻繁に選手交代をするブルズだからこその強みと言って良かった。
一方、ランディルはチョウドリーが抜け、さらにダブルキャプテンの一人、サイモン・ブラウン(イギリス)もケガで欠いていた。そのためベンチで使えるカードも限られ、先発の5人中3人が40分間フル出場を余儀なくされていた。スタミナの部分で言えば、明らかに不利だったのはランディルだった。
ところが後半に入って、動きが鈍くなっていったのはブルズの方だった。トーンがガクンと落ちたことに、藤本も気付いていたという。
「実は試合が行われている時間帯は、ちょうど体育館に強い日差しが振りこんでいて、具合が悪くなる観客が出るほど体育館の中は非常に暑かったんです。その中で前半にオフェンスもディフェンスもかなりアグレッシブにプレーしていたブルズの選手は汗の量がすごくて、後半の落ち具合は半端なかった。一方、僕らは体力を使うドリブルではなくパスでつないでシュートチャンスを作っていたので、大きなエネルギーを使うのは比較的ディフェンスだけで済んでいました。だから40分フルが3人いても最後までトーンが落ちませんでした」
そんな前日の反省を生かしたのか、第3戦のブルズはいつもどおりの入りだった。そのため、後半に入っても第2戦のように動きが落ちることはなく、ランディルに付け入る隙を与えなかった。一方、ランディルも何度も引き離されかけながら、そのたびに粘りを見せて追い上げ、流れを渡しきってはいなかった。第4クォーターでも残り4分半で5点差と十分に逆転の可能性を秘めていた。
しかし、それ以上に差を詰められないまま時間は過ぎ、最後はファウルゲームを仕掛けるも、フリースローを確実に決められて逃げ切られた。その結果、2勝1敗でブルズが優勝。1年前の雪辱を果たし、王座を奪還した。
藤本は第2戦で24得点、第3戦で23得点といずれもチーム最多をマーク。特に第3戦はフィールドゴール成功率62パーセント、3ポイントシュートも5本中3本と高確率で決め、チームをけん引した。
実はライバルとのリベンジマッチはすぐにある。5月5、6日はユーロチャンピオンズカップのファイナル4で、5日の準決勝ではブルズと対戦することが決まっているのだ。今シーズンの有終の美を飾り、藤本にとってその後に待ち受けている代表活動への弾みとしたいところだ。
取材・文=斎藤寿子