NBA2017-18レギュラーシーズンがいよいよ佳境を迎えている。4月15日(現地時間4月14日)から始まるプレーオフに向け、出場権を有するチームがしのぎを削りあっている状況だ。そこで、WOWOWのNBA解説でおなじみの中原雄氏に今シーズンを振り返っていただくともに、プレーオフの展望をうかがった。
取材協力=WOWOW
写真=山口剛生
文=入江美紀雄
キャバリアーズ、セルティックスが予想外に苦戦
――2017-18シーズンはプレーオフに向けて各チームがラストスパートをかけている状況です。ここまでのシーズンを振り返っていただきたいのですが、まずはイースタン・カンファレンスからお願いします。
中原 昨季、イーストを制したクリーブランド・キャバリアーズですが、カイリー・アービング(ボストン・セルティックス)をトレードで出すなど、開幕前に大幅にメンバーを入れ替えました。しかし、それでもレブロン・ジェームズがいるかぎり、安泰だと思っていたのですがかなりてこずっていますね。(今年2月の)トレードデッドライン前にも大幅なトレードを行ってテコ入れを図りましたが、まだしっくり来てないように思います。
――アービングが移籍したセルティックスはどうですか?
中原 順調にチームケミストリーを高めていたと思っていたのですが、ここに来てアービングをはじめとする主力メンバーの故障でベストメンバーが組めない状況になっています。当然、プレーオフ出場は問題ないでしょうが、どれだけ健康でいられるかも気になるところです。シーズン前に上位進出が予想されていたキャバリアーズとセルティックスという2チームがもたつく中、注目したいのがトロント・ラプターズですね。
――ラプターズのドウェイン・ケーシーHCは日本のバスケ界とも関係が深い方ですね?
中原 そのとおりです。僕がいすゞ自動車でプレーしていたころ、ケーシーHCがアシスタントコーチをしていました。その縁もあり、今でも毎シーズン、トロントで練習を見学したり、試合観戦をさせてもらったりしています。トロントのHCになって8シーズン目、これまで積み上げてきたチーム作りが実を結んできたのでしょう。エースの2人、デマー・デローザンとカイル・ラウリーが充実期を迎え、チーム力、特にディフェンス力がアップしてきて、チームは安定した戦い方をしています。
ポールの加入も大きいが、ディフェンス力が上がったロケッツが有力
――ウエスタン・カンファレンスに話題を移したいと思います。ここ数シーズン、2回リーグ優勝を果たしているウォリアーズに代わってロケッツが首位に立っています。
中原 クリス・ポールの加入により、ジェームス・ハーデンの負担が減り、オフェンス力が確実にアップしました。加えて、多くの解説者も言っていますが、P.J.タッカーが加わったことにより、それまでトレバ―・アリーザだけに頼っていたディフェンスが格段に良くなっています。ロケッツにディフェンスの柱ができました。
――ウォリアーズはどうですか?
中原 ケビン・デュラントの加入で昨シーズンを制したウォリアーズですが、ステフィン・カリーをはじめとする主力の故障などもあり、これまでのような爆発力がありません。それでもスティーブ・カーHCの指揮の下、ロースターが固定されていることもあり、連敗が続くようなことはありませんが、ピークが過ぎてしまった感もあります。しかし、優勝経験者が多いチームだけに、ロケッツとともに優勝争いに絡んでくることは堅いでしょう。
――意外といえば、サンアントニオ・スパーズが苦戦しています。
中原 シーズン前はスパーズの優勝を予想していたのですが、その前提がカワイ・レナードの復帰でした。しかし、彼の復帰が延びてしまったことで厳しい状況になっていますね。混戦のウエストにあって、プレーオフ進出争いに加わってはいますが、もしかしたら20シーズン続いたプレーオフ進出が途切れる可能性もあります。
セブンティシクサーズとジャズが台風の目になるか!?
――今シーズンのサプライズと言えば、フィラデルフィア・セブンティシクサーズの躍進があります。
中原 僕はサプライズだと思っていません。もともとポテンシャルが高かった若いメンバーが経験を積み、さらにコンディションが高まったことでついに本来の力を発揮し出したと言えます。チームをけん引するジョエル・エンビードとベン・シモンズはやはり逸材。ルーキーのマーケル・フルツもケガから復帰して早々に活躍しましたが、来シーズンはもっと怖い存在になるはずでしょう。
――イーストで期待を裏切ったチームはどこですか?
中原 ミルウォーキー・バックスでしょうね。ジェイソン・キッドHCの解雇も驚きでしたが、それに付随してキッドHCがいなくなったことで、ヤニス・アデドクンポの成長も心配です。キッドHCがチームを離れる時に自分のエージェントを動かしてそれを止めようとしたという報道を見ましたが、これはNBAでもかなりレアなケース。それだけ動揺があったのでしょうし、ごたごたがチームの順位に反映されていると思います。
――ウエストではロサンゼルス・クリッパーズが苦しいシーズンを過ごしています。
中原 クリス・ポールの移籍は大きかったですね。僕がウエストで注目しているのがユタ・ジャズ。新人王候補になっているドノバン・ミッチェルは『持っている男』かもしれません。彼はNBAオールスターのダンクコンテストで優勝しましたが、当初は出場の予定がなく、ケガ人が出たことによる代替え出場でした。チームとしても、開幕当時はこれだけ活躍するとは思っていなかったでしょうから、ミッチェルがプレーオフ進出に貢献するだけでなく、プレーオフを勝ち上がる活躍を見せてくれるかもしれません。
――それにしても今シーズンはルーキーの当たり年でした。
中原 想像以上に当たっていると思いますね。
イーストの優勝はズバリ、ラプターズ!
――最後にプレーオフの展望をお願いします。プレーオフはオフェンスだけでなく、ディフェンスでも芯のあるチームが勝つと言われています。
中原 ディフェンスが絶対不可欠です。オフェンスはたまたま当たることもありますが、絶対に負けられないプレーオフではそれでは勝ち上がれません。フィジカルの強さも含めて、ディフェンスとリバウンドが真剣勝負のプレーオフにはポイントとなります。
――イーストの優勝争いはどうなりますか?
中原 レブロンはプレーオフに入るとモードが変わるだけに、やっぱり不気味な存在です。しかし、あえて推したいのがラプターズ。ケーシーHCはレギュラーシーズンから若手を積極的に使うなど、プレーオフに向けて戦力強化に努めています。キャバリアーズとセルティックスが万全ではないという状況もラプターズにとって望ましいところ。ズバリ、イーストの優勝はラプターズを挙げたいと思います。
――ウエスタンは2強の争いですか?
中原 ポール・ジョージが加入したサンダーはシーズン終盤に来てケミストリーが上がってきているだけに、プレーオフで対戦するチームにとっては不気味な存在でしょう。トリプルダブルを連発するラッセル・ウェストブルックの存在も脅威です。しかし、やっぱりカンファレンスファイナルはロケッツとウォリアーズの対戦になると思います。
――やはりそこは外せないと?
中原 勝ち方を知っているウォリアーズに、優勝に向けた戦力補強がきっちりとはまり、シーズンを通してチーム作りも確実に進めてきたロケッツの2強が群を抜いていると思います。そしてウエストの優勝はロケッツと予想します。つまり、NBAファイナルはラプターズとロケッツが顔を合わせることになるでしょう。