世界中のファンを興奮の渦へと巻き込んだ技巧派レフティ
8月28日(現地時間27日)、サンアントニオ・スパーズの大ベテラン、マヌ・ジノビリが自身のツイッターを通じて23年のバスケットボールキャリアに幕を下ろすことを発表した。
Closing the chapter on an illustrious career. #GraciasManu
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— San Antonio Spurs (@spurs) August 27, 2018
「今日、いろんな感情が入り混じっている中、僕はバスケットボールから引退することを発表する。この23年間、自分の人生に関わったすべての人たち(家族、友人、チームメート、コーチ、スタッフ、ファン)には心から感謝している。最高の旅路だった。これまで途方もない夢を見てきたけれど、それ以上のことを経験させてもらったよ」。
高校卒業後、アルゼンチンのアンディノ・スポーツ・クラブでプロキャリアをスタートさせたジノビリは、その後イタリアに渡り、2001、02年にはイタリアリーグのMVPを2年連続で獲得。00-01シーズンにはユーロリーグチャンピオンとなり、MVPにも輝いた。
1999年のNBAドラフト2巡目全体57位でスパーズから指名されていたジノビリは、イタリアで急成長を遂げ、満を持して活躍の場をNBAへと移していく。
02-03シーズンから昨季(17-18)までの16シーズン、ジノビリは4度の優勝に加えて2度のオールスター選出、オールNBAサードチームには2度選ばれてきた。06-07シーズン途中からシックスマンへと転向し、07-08シーズンにはキャリアハイとなる平均19.5得点に4.8リバウンド4.5アシスト1.5スティールを記録し、最優秀シックスマン賞を獲得。
片手でクロスオーバードリブルをこなして一気に抜き去るなど、ジノビリは独創的なボールハンドリングスキルを持ち、“バスケットボール界の異端児”として独特のタイミングから次々にディフェンス陣を突破してきた。
また、ジノビリは90年代初頭にシャルナス・マーシャローニス(元ゴールデンステート・ウォリアーズほか)がNBAに持ち込んだとされる“ユーロステップ”を効果的に使ってリング下で何度も得点。変幻自在のステップワークから“ジノビリステップ”と呼ばれるほどそのスキルを有名にし、世界中のバスケットボールプレーヤーに影響を与えた。
そしてジノビリのゲームには、何よりも華やかさが備わっていた。土壇場でネットに突き刺す勝負強いショット、すべてが計算されていたかのように吸い込まれるリング下のフィニッシュ、芸術的なボールフェイクに矢のような鋭いパス、相手ディフェンダーをあざ笑うかのような巧みなパスなどがあった。それに感情を表に出すジノビリのスタイルは、多くのファンを興奮の渦へと巻き込んできたに違いない。
多方面で優勝を経験、NBA史に名を刻んだ勝者は将来の殿堂入りも確実
ティム・ダンカン(元スパーズ)、トニー・パーカー(現シャーロット・ホーネッツ)と共に4度の優勝を成し遂げる中、20代後半にシックスマンという役割を受け入れたジノビリは、まさにチームファーストを貫く選手だった。「先発でも控えでも僕は構わない。大事なのは、勝敗を決める大切な時間帯でコートにいるかどうかなんだ」と語っていたように、試合終盤には必ずといっていいほどコートに立ち、数えきれないほどスパーズを勝利へと導いてきたのである。
そしてジノビリは、1,000試合以上に出場した選手としては史上最高勝率となる72.1パーセント(762勝295敗)を残した。この記録は、ジノビリという男がどれだけエゴを捨て、チームの勝利のために献身的にプレーしてきたかを端的に示す実績と言っていいだろう。
また、アルゼンチン代表のエース格として、ジノビリは数々の業績を残してきた。04年のアテネオリンピックでつかみ取った金メダルをはじめ、02年のFIBA世界選手権(現ワールドカップ)では銀メダル、08年の北京オリンピックでは銅メダルを獲得してきた。NBA、ユーロリーグ、そしてオリンピックでそれぞれ優勝経験があるのはジノビリとビル・ブラッドリー(元ニューヨーク・ニックス)だけ。それだけジノビリは、多方面にわたってトップレベルのパフォーマンスを見せて勝利を重ねてきたのである。
幼い頃、マイケル・ジョーダン(元シカゴ・ブルズほか)に憧れ、ジョーダンの試合やビデオを夜が明けるまで数えきれないほど見てきた男は、アルゼンチンの英雄となり、世界有数のバスケットボールプレーヤーとなった。近い将来、間違いなくバスケットボール殿堂入りを果たすことになるだろう。
20年以上も世界中のバスケットボールファンへ感動と驚嘆を与えてくれたジノビリには、心から感謝を伝えたい。