不本意な内容に「怒りを通り越している」
栄光を掴んだシカゴ・ブルズの本音と苦悩を描いた『マイケル・ジョーダン: ラストダンス』は世界各国で配信され、「ESPN」史上最も視聴されたドキュメンタリー番組となった。しかし、そのリアルな描写に多くの賛辞が送られる一方、一部の出演者や視聴者はマイケル・ジョーダン贔屓な内容や説明が不足していることについて疑問を抱いている模様。残念なことに、ブルズ黄金期にジョーダンのパートナーを務めた史上最高のNo.2、スコッティ・ピペンもその一人のようだ。
ピペンは、本作の初回放送以来、一度もかつてのチームメートと言葉を交わしていないという。そして、「ESPN Radio」に出演した際、同作中での自身の見え方について「怒りを通り越している」とコメント。また、「ESPN 1000」のデイビッド・カプランは「ピペンは(1998年NBAファイナルにおける)ジャズ戦のゲーム6の残り数分のような気持ちを味わっていました。あの作品は『ピペンを潰せ』と罵られているようなものです」と語っている。
ピペンはブルズに偉大な功績を残したにもかかわらず、獲得した富と名声がそれに比例しているとは言い難い。特に彼のサラリーは当時、リーグで122番目と実力に見合わないもので、ピペンはそれに対する怒りを隠しきれなかった。ドキュメンタリーではこの出来事について、ジョーダンが「スコッティは利己的だった。彼の言葉は組織やチームではなく、自分自身を心配するものだった」と彼の言動を非難している。
この描写にも、ピペンは納得がいっていない。しかし、デニス・ロッドマンはかつての仲間を降り注ぐ火の粉から守るように「スコッティは明らかに過小評価されている。彼はきっと頭を抱えているはずだ。あいつはブルズの栄光を多方面から支えた、紛れもないヒーローだ」と擁護し、ピペンが偉大なプレーヤーであったことを強調している。
ピペンはジョーダンよりもコービー派
ジョーダンとともに頂点に輝いた経験は、ピペンの人生にとってかけがえのないものであることは間違いない。しかし、同ドキュメンタリーの撮影後にそれぞれの口から語られた意見を聞くと、美化されている部分の多さに気がつく。そして、ブルズのメンバーは現在のレブロン・ジェームズ(ロサンゼルス・レイカーズ)とドウェイン・ウェイド(元マイアミ・ヒートほか)のような友好関係ではなく、あくまでプロとしての付き合いだったことが垣間見えてくる。そして皮肉なことに、ピペンは度々話題にあがるジョーダンとの比較論においても、かつてのチームメートの肩を持つことはなかった。彼は記者のアンドレア・トゥジオから受けたインタビューのなかで、ジョーダンよりもコービー・ブライアント(元レイカーズ)の方が優れているという持論を明かした。
「コービーは、マイケル・ジョーダンになるために、死ぬほど努力をしていたよ。彼のビデオを見るたびにこう思うんだ。『信じられない。彼はマイケル・ジョーダン以上だ。懸命に練習している。あいつは高校出身の選手で、ディーン・スミス率いるノースカロライナでプレーしていないんだ』ってね」
ピペンは他のプレーヤーやファンと同様、コービーの実力やパーソナリティに心から敬意を払っている。だからこそ、ブラックマンバの生前に直接自分の想いを伝えられなかったことを後悔しているという。
「コービーは俺に電話をよこして、知恵を借りたがった。多くの選手に対してそんなことをしていたなんて信じられない」
「コービーは本当に知的な男だったし、最高の選手になるために努力することを止めなかった。俺は、彼がどれだけ偉大だったかを伝えられなかったことを心底憎んでいる」
ジョーダンと他選手の比較に対して、ピペンは言及を控えることもできたはず。だが、そこで自分の意見を明かしたということは……。色々と勘繰ってしまう。
『マイケル・ジョーダン: ラストダンス』の公開後、ジョーダンの評判はさらに高まった。しかし、メディアで取り上げられている以上に、アンチ・ジョーダンの意見が多いのもまた事実。答えのない話題ではあるが、議論は今後もしばらく続きそうだ。
文=Meiji