2016年日本に新たに誕生したプロスポーツリーグであるB.LEAGUE。開幕戦はゴールデンタイムに地上波の生放送が行われるなど昨年のスポーツシーンの大きな話題となった。2つのリーグが統合し、新しいスタートを切ったことは日本のスポーツ界にとっても喜ばしい出来事だ。ただし、このスポーツ史に残る新リーグ誕生も関係各所の支えなくしては成り立たない。パートナー企業の支援が、今回の新しいエンターテインメント創出に一肌脱いだわけだが、素朴な疑問が沸きあがる。なぜバスケットボールを支援するのか――、サポーティングカンパニーとして、日本のバスケットボール界そしてBリーグを支えるために手を挙げた朝日新聞社オリンピック パラリンピック・スポーツ戦略室でバスケットボールを担当している岡田亮氏に話を聞いた。
インタビュー=村上成
写真=山口剛生
――岡田さん自身はバスケットボールの経験はありますか?
岡田 バスケットボールの経験は全くありません(笑)。小学校から大学までサッカーをやっていました。今もフットサルを少しやっていて、基本は“サッカー人間”ですね。ポジションはサイドバックで、ひたすら走るポジションです。
――見ることが多いのはやっぱりサッカーですか?
岡田 サッカーはもちろんですが、スポーツ自体好きなので、ラグビーも見ますし、野球も見ます。Bリーグももちろん見ていますよ。というか、今はBリーグが一番多いかもしれません。
――現在、大好きなスポーツに関わる部署(オリンピック パラリンピック・スポーツ戦略室)ですが、今の部署に異動された時、どう思われましたか?
岡田 実は2年前に社内公募があって、自分で手を挙げて異動した経緯がありまして(笑)。もともと朝日新聞社は、スポーツに対してかなり力を入れて応援している会社なので、そういう仕事がしたいと思い入社したんです。最初に配属された部署が販売局といって、全国の販売店さんのエリア担当でした。新聞社でいう販売店さんとは、自動車メーカーとディーラーさんみたいな関係です。その販売店さんとの向き合いを4年間やっていました。東京2020オリンピック・パラリンピックの開催が決定し、現在所属しているオリンピック パラリンピック・スポーツ戦略室ができたので、希望しました。
――具体的に今の部署のお仕事はどのような内容ですか?
岡田 朝日新聞社は今、年間で約180のスポーツイベントを主催したり、後援したり、協賛したりと、いろいろな形で応援しています。有名なものだと、夏の高校野球で、サッカーの協賛も長くしています。新聞社というと記者のイメージが強いと思いますが、私の部署は、イベントの運営や各競技団体との窓口など、ビジネスサイドで仕事をしています。
――岡田さんの具体的な役割を教えてください。
岡田 結構何でもやっていて(笑)、イベントの事務局として作業をしたり、大会のTシャツを着てインカムを付けて運営もしています。メディアルームを用意して、回線をつなぐような作業もあります。今、スポーツ選手と朝日新聞社のスポーツ部の記者が対談する「and Sports.」というトークイベントをやっているんですけど、自分たちでゲストのブッキングから会場の設営、台本作り、営業までやっています(笑)。バスケットボールでは、Bリーグの大河正明チェアマンやアルバルク東京の田中大貴選手に来てもらった回もありました。
――最初に公募で手を挙げた際の仕事のイメージと、実際に取り組まれての仕事で違いは感じますか?
岡田 想像以上に地味な仕事が多いですね(笑)。ただ、2016年1月から朝日新聞社が東京2020のオフィシャルパートナーになり、そこから一気にスポンサー同士の横のつながりができたり、オリンピックという大きな大会のアクティベーション(スポンサーとしての権利を活用して企業が行う、これまでのスポンサー活動とは異なる新しいタイプのマーケティング活動全般のこと)に携わることができるので、自分のモチベーションになっています。
――日本バスケットボール協会とBリーグのパートナーになった理由を教えてください。
岡田 いろいろあるんですけど、もともと朝日新聞社は全国ミニバスケットボール大会とウインターカップの主催社の一つに入っています。他にもジュニアオールスター、3x3の日本選手権、ママさんバスケ、インカレ(全日本大学バスケットボール選手権大会)などの後援もしています。これまでもバスケットボールを楽しんでいる子どもから大人まで応援してきた経緯があるんです。新聞紙面では、スポンサーになる前から『SLAM DUNK』の作者でもある井上雄彦先生がBリーグの選手をインタビューする連載が月1回掲載されています。ここからさらに熱を入れてバスケットボールを応援しようというのが柱にあって、パートナーになりました。
――Bリーグの立ちあげのタイミングで、一層応援していこう、ということですね。
岡田 はい。それから、一昨年のウインターカップで宮城県の明成高校が3連覇した時に八村塁選手(現ゴンザガ大学)がインタビューで「バスケサイコー!」と叫んだんですけど、そこで僕自身もしびれてしまって(笑)。また、9月にはBリーグが始まって、橋本竜馬選手(シーホース三河)が新リーグの立ちあげに感無量となってむせび泣いた動画を見て、「やっぱりバスケって面白いな」と。僕自身が、バスケットボールという競技に魅せられたんです。サッカーしかやってこなかった人間ですけど、バスケットボールほど、担当者としてその競技の魅力に惚れこんだ競技はありませんでした。先ほども話しましたが、各カテゴリーのバスケットボールの大会を応援させていただいていて、我々の中でバスケットボールの男子プロリーグという最後のピースがハマった感じですね。あとは、サッカーの協賛の経験をバスケットボールにも活かせるんじゃないか、スポンサーシップの活用が他のスポーツでも活かせるんじゃないかという想いもありました。
――スポンサードすることについて、上司に提案する際に一番強く思った魅力はどこですか?
岡田 バスケットボールって点がたくさん入るじゃないですか。すごいシュートが入ったり、残り時間数秒で逆転したりすると、観客が「おっ」と声を出し席からお尻を上げるじゃないですか。バスケットボールはそういったシーンを多く楽しめるし、観客席がコートと近いのでより臨場感を味わえる。点が入る時などのスポーツが与える感動を、バスケットボールは他のスポーツよりも、何度も与えられるところが魅力だと思います。ビジネス面での魅力ももちろんあります。
――ではビジネス的な魅力はいかがでしょうか?
岡田 まず、Bリーグはもともと2つのリーグを統合してできたリーグで、それまでにすごく苦労があったと思います。そしてBリーグ開幕前後からとても面白いことをやっていると思ったので、一緒の船に乗りたいなと思ったのが一つです。2つ目として、全国にクラブがあるので、全国紙の新聞社としてクラブ、そして販売店さんと一緒になって、様々な連携ができるんじゃないかと考えました。
――観に来ている方は若い人たちが多いですよね。
岡田 そうですね。サッカーや野球に比べて若年層が多いです。10代から30代の若い方たちがBリーグを観に来ているので、朝日新聞としては、今読者が少ない若年層とのタッチポイントを広げることができるんじゃないかというのも魅力ですね。また、Bリーグは「スマホファースト」を掲げています。私もメディアで働く者として、SNSの活用にもっと力を入れていかなければならないと感じていて、そういった事業課題との親和性もビジネス的な魅力の一つと考えています。
――Bリーグが立ちあがった時の率直な最初の印象を教えてください。
岡田 Bリーグの開幕戦を実際に自分の目で見て、肌で感じてみたら、やっぱバスケットボールは面白いなと感じたし、その頃からパートナーとしての交渉が始まっていたんですけど、改めてBリーグと関わりたいなと思いました。
――サッカーをやっていたから、BリーグとJリーグとを比較することもあると思いますが、その辺はどうですか?
岡田 そうですね。個人的に、サッカーはJリーグが開幕してから20年以上経っているので、ブランド化されたイメージがあるんですけど、バスケットボール界はまだまだ課題を抱えている部分もあると思います。例えば、選手の知名度もサッカーなどと比べて高くはありません。朝日新聞社のノウハウや強み、スポーツを支援してきた経験を、バスケットボール界が困っている点に当てれば改善できるんじゃないかと考えてます。バスケットボールには成熟してないからこそポテンシャルがあると思います。
――実際にBリーグのパートナーになって、御社としてこれからどうしていきたいか、もっとこうすることができるんじゃないかという部分はありますか?
岡田 今まで朝日新聞社がJリーグやサッカー日本代表でやってきた経験を活かして、バスケットボール界やBリーグの発展に貢献したいですね。具体的には、サッカーでは年間で30回ほどサッカークリニックをやっているんですけど、そういうのをバスケットボールでもやりたいです。サッカーの日本代表戦などで出している号外なんかは、うちの“得意技”なんですけど、転用させたいですね。一方で、過去の経験値からの貢献だけではなくて、Bリーグも新しいことを始めているので、朝日新聞社としても新しい挑戦をやらなければならないと思うんですよ。WebやSNSなども利用して、作りあげたノウハウをさらに磨いていきたいです。
――Bリーグはメンズファッション誌とコラボしたリ、バレンタインの企画を実施したりしていますが、競技面とは違う魅力を発信するPR手法をどう思いますか?
岡田 面白いと思っています。パートナー企業を巻きこめばもっと大きくできると思います。開幕戦のLEDコートやオールスターの演出など、僕らの想像を超えるようなことをやっていますけど、そういうのを一緒にやっていきたいです。あと、「バスケット日本男子代表のオリンピック出場!」とか、「日本人のNBA選手を輩出!」とか、言うと笑われることもあるんですけど、Jリーグ開幕当初のサッカーもそうだったんだと思うんですよね。男子のプロリーグができたことで、クラブ単位での強化も進み、メディアにも取りあげられて注目されることで、男子代表も強化されるでしょうし、ぜひ、2020年の東京オリンピックに出てほしいと思います。将来的にはNBA選手の中に日本人がいるのが普通のことのようになってほしいです。そして、Bリーグにはこれからも攻め続けてほしいです。「バスケサイコー!」と言ってくれる人を一緒に増やしていきたいです!