2017.01.18

富士通株式会社にどうしてB.LEAGUEのパートナーになったのか聞いてみた

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2016年日本に新たに誕生したプロスポーツリーグであるB.LEAGUE。開幕戦はゴールデンタイムに地上波の生放送が行われるなど昨年のスポーツシーンの大きな話題となった。2つのリーグが統合し、新しいスタートを切ったことは日本のスポーツ界にとっても喜ばしい出来事だ。ただし、このスポーツ史に残る新リーグ誕生も関係各所の支えなくしては成り立たない。パートナー企業の支援が、今回の新しいエンターテイメント創出に一肌脱いだわけだが、素朴な疑問が沸きあがる。なぜバスケットボールを支援するのか――、ICT(情報通信技術)サービス部門でバスケットボール界を支えるために手を挙げた富士通株式会社のスポーツ・文化イベントビジネス推進本部VP保田益男氏に話を聞いた。

インタビュー=村上成
写真=新井賢一

――Bリーグのパートナーになられた理由を教えてください(2016年12月27日取材)。
保田 理由の一つとして、富士通はバスケットボールと深い縁があるということです。まず一つ目として、男女のバスケットボールチームを持っているということ。ちなみに男子は70年(1946年創立)、 女子が31年(1985年創立)の歴史があります。特に女子では、リオデジャネイロ・オリンピックの日本代表に富士通レッドウェーブ所属の長岡萌映子選手と町田瑠唯選手が選ばれています。

――確かにバスケットとの関わりは以前からありますね。
保田 そうですね。私もそこまで歴史があるとは知りませんでしたが(笑)。二つ目として、人のつながりです。Bリーグ初代チェアマンの川淵(三郎/現日本バスケットボール協会エグゼクティブアドバイザー Bリーグ名誉会員)さんは、古河電気工業のサッカー部出身ですが、富士通も古河グループの一員です。また、川淵さんがチェアマンをされていたJリーグで、富士通が川崎フロンターレを支援しているというつながりもあります。

――なるほど、サッカーとのつながりですね。
保田 加えて、日本バスケットボール協会の三屋(裕子)会長はバレーボール界のご出身ですが、今年Vリーグの1部に上がったPFUブルーキャッツは富士通の関係会社のチームです。細かい話ですが、今ブルーキャッツには元代表の狩野舞子さんが所属しています。狩野さんは八王子実践高校のご出身で三屋さんの後輩です。また、Bリーグの大河(正明)チェアマンが三菱東京UFJ銀行にいらっしゃった時、ATMに富士通の「手のひら静脈認証」を導入するのにご尽力いただいた経緯もあります。

――バスケットボールとの深い縁を感じますね。この縁がBリーグとパートナーになるきっかけとなったのでしょうか。
保田 そうですね。バスケットボールに携わってきた歴史もありますが、人と人の様々なつながりがあって、ご縁を持たせていただいていたところがあります。もちろん、Bリーグとパートナーになった理由には、日本バスケットボール協会やBリーグが目指している理念と富士通が目指している方向性が一致して、それを一緒に実現していこうということが大前提としてあります。この大前提とご縁が重なったということです。日本バスケットボール協会とBリーグが目指しているものの中に、競技力の向上やファンの拡大、これらに加えて“地域創生”というキーワードがあります。それが私たちの目指す方向と一緒でした。

――なるほど。では、Bリーグ及びバスケットボールのビジネス的な魅力や、参入理由を教えてください。
保田 まず一つは、60万人を超えると言われている競技人口です。国内スポーツの中では野球、サッカーに次いで3番目の競技者登録人口だと聞いています。現役の競技者に加えて、競技に携わる方々が多いというところが一番の魅力です。

――確かに、世界で最も競技人口が多いのはバスケットボールとも言われています。
保田 そうですね。また、新しいリーグということもあって、競技者のデータベースなど、今まで一元化されていないものを一元化していきましょうとか、ファンの拡大のためにデジタルマーケティングプラットフォームを作りましょうとか、これまでなかったものを作りあげていく姿勢にも魅力を感じます。これから作りあげていくものの中に、富士通研究所で開発している技術を提供させていただける点も参入理由になります。これが、パートナー契約の締結を発表した記者会見で映像を提示した3Dレーザーセンシングやプレイヤーモーショントラッキング、自由視点映像などの技術です。一例を挙げると、富士通研究所で開発中の3Dレーザーセンシング技術というものがあって、1秒間に230万回のレーザーを発射し、その反射で対象物からの距離を算出し、形状を認識します。また、形状認識と同時に骨格を認識し、それをトレースして動作分析をします。そうすることによって、例えば3ポイントシュートを打った時の肘や膝の関節の角度を数値化することができるようになります。何となく感覚で捉えていたものを数値化することで、選手個人のスキルアップにつなげることが可能になります。

――富士通の技術は選手強化にも貢献しています。
保田 実はスポンサーになるずいぶん前に、川淵さんや大河さんには富士通の持つ技術を見ていただきました。川淵さんからも「バスケ界にICTは欠かせない」と力強く仰っていただきました。選手個人のスキルアップとは別に、プレイヤーモーショントラッキングというチームプレーの強化に貢献できる技術があります。この技術は、バスケットボール選手の背番号やユニフォームの色で選手の動きを追跡し、それをデータとして取りこむというもので、自動車などのナンバープレートを認識する技術を応用しています。

――あれだけスピードがあるスポーツでも認識できるんですね。
保田 できます。走っている車を認識できる技術を応用しているので、人の動くスピードを認識することはそれほど難しくないです。ただ、車は一定方向に走るため、そこにフォーカスすれば認識できますが、バスケットボールの場合は選手がコート内を自由に走り回るため、選手が重なって背番号やユニホームの色が認識できなくなるという課題はありました。複数のカメラを連携させて選手を認識するなど、スポーツ向けに改良を重ねています。そして最後に自由視点映像という技術があります。360度、自分が座席に座っていても、家でテレビを見ていても見ることができない角度で、映像を楽しむことができる技術です。

――本来そこでは見えるはずのないものが見える技術ということでしょうか?
保田 そうです(笑)。自由視点という技術は、エンターテインメントとして、付加価値を付けた映像で楽しんでいただく新しい視聴スタイルと考えていますが、選手の練習でも使用できます。練習している時に、自分がどう動いているのか、本来自分の視座からは見えない姿を見ることができます。スポーツで言われている「する、観る、支える」のすべてを私たちの技術でサポートしていきたいと考えています。

――「観る」というところではどのような技術が活かされているのでしょうか?
保田 Bリーグが提唱している“夢のアリーナ”の実現に向けて、富士通は、ICT技術を活かし、誘客、集客につながるようなサービスを提供したいと思っています。例えば、試合観戦中に、「あの選手良いな」とか、「あの選手が活躍したな」と思った時に、今まではパンフレットを見て選手情報を調べていたかと思います。それを手元のタブレットで、知りたい選手の属性や過去のスタッツ情報などをリアルタイムに入手できると観戦の楽しみが増えますよね。

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――確かにワクワクしますね。具体的にどんなことができるのでしょうか?
保田 リアルタイム映像を様々な角度から見ることができたり、その映像に情報の追加や映像合成を加えたりと、新しい取り組みをどんどんBリーグやバスケットボール界で実施していきたいと思っています。例えば重要なフリースローの場面、その時の心拍数はどうなのか。選手のバイタルデータがわかったら面白いと思います。あとは“つぶやき”。「次のオフェンス、ここだったらこの選手に合わせて」とか、「この人にパスして」とか、映像にいろいろな“つぶやき”を加えることで、あたかも試合に参加しているような環境を作りだすことも可能なのではないかと考えています。

――フリースローの時に心拍数が高かったら、「落ち着け」と言いたくなりますものね。
保田 そうですね。実際に会場にいると、「落ち着け」と言えますけれど、それをネット上でつぶやいて共有します。そうすると、現地での臨場感とそれほど変わらないものが得られると思いますよ。

――バスケットのアリーナは収容人数が限られていますが、外でも臨場感を持って参加できる。ICTの力でそういう世界が近づいているわけですね。
保田 はい。都会に限らず、街づくりというか、街のにぎわいなど、地域創生や地域の活性化にもつなげていきたいと考えています。自治体も、新しい集客ができる場として、バスケットボールにかなり期待していると思います。富士通は様々な業種のお客様をICTでご支援している会社ですので、いろいろな角度からサポートできるのではないかと考えています。

――バスケットボールファンやブースターに向けて伝えたいことを教えてください。
保田 富士通はBtoCのビジネスモデルがメインの会社ではないですが、一般のお客様からはパソコンとかスマートフォンなどを提供している会社のイメージが強いです。これから富士通がBリーグに提供しようと考えているサービスの一つは、ファンの拡大や各チーム拠点の地域活性化を目的に、プレイヤーの情報や、試合やイベント参加などの顧客情報を一元管理するものです。例えば、プレーヤーデータとチケットを購入いただいた方、ウェブにアクセスしていただいた方など、いろいろな方々のデータをつなぎ、バスケットボールを軸とした新たな価値を生み出したいと思っています。

――普通に生活していると、富士通のイメージは、携帯やパソコンなど、目につくもの、手にするもののイメージが強くなってしまいます。
保田 そうなんです(笑)。普段見えている製品以外にも、富士通は、クラウドサービスやスーパーコンピュータなどの技術で、数多くのデータを合成、伝送、アーカイブしながら、それを最適な環境で提供し、様々なシーンでバスケットボールをサポートしています。より観戦を楽しんでいただくことや、選手やチームの強化など、富士通はバスケットボール界を盛りあげていくために、様々な形でサポートしていることをご理解いただけるとうれしいです。

――最後に、リーグやバスケットボール界に対して、パートナーとして感じることを教えてください。
保田 2つの異なるリーグが1つになったばかりなので、率直に言いますと、リーグや各チーム、自治体などの間に、まだ少し考え方の差があるように感じます。今後、リーグと、B1、B2、B3に属する45チーム、そして33の自治体がよりいっそう連携を強め、一枚岩となっていくことを期待しています。もう一つは、60万人以上と言われる競技者登録人口の約8割を占める中高生が、バスケットボールに熱心な大学や育成組織というルートだけではなく、様々なルートでBリーグを目指していけるような環境になれば良いですね。そういう中で富士通はICTでサポートをしていきながら、バスケットボール界全体の底上げに貢献していきたいと思っています。

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