2022.06.27
2021−22シーズン、8戦6勝の好スタートを切ったものの、まさかの17連敗を喫した滋賀レイクスターズ。それでもチームは崩れず、ブースターも応援を惜しまなかった。その理由はなぜなのか? それはクラブづくりのための確固たるフィロソフィーがあったからだったという。今回、滋賀レイクスターズの代表取締役会長を務める、株式会社マイネットの上原仁社長にお話を聞く機会を得た。分刻みのスケジュールの中で語られた熱い語り口からは、上原社長の思いがすでにレイクスに関わるスタッフ、選手、ブースターに浸透していることが伝わってきた。データに裏付けされた客観性と人の心を突き動かすパッションを持ち合わせた経営術をうかがっていく。
取材・文=入江美紀雄
写真=伊藤 大允
――早速ですが、そもそもマイネットとは何をされている会社なのでしょうか。
上原 IT企業です。さらに踏み込んで「私たちはこのようなことをしています」と説明する場合は、コミュニティのDX(デジタルトランスフォーメーション、デジタルの進歩により、人々の生活をより良くすること)を推進する企業と話しています。コミュニティDXを柱に様々な事業を展開しましたが、現在の対象領域は、ゲームとスポーツの2分野です。社名の「マイネット(MYNET)」は“私のつながり”という意味で、人のつながりをより拡張したり、より濃くしたりすることで、つながりが豊かなものになるようにという思いを込めて、この名前にしました。自分たちの根源価値は、人と人とのつながりをより良くすることだと考えています。
――上原社長はまずサッカーのFC琉球の運営に参加します。そもそもスポーツを事業として選ばれた理由は?
上原 それまでゲームを中心とした事業を展開してきましたが、次の成長を考えたとき、スポーツという熱狂を生み出すコンテンツに注目し、このコミュニティに対してアプローチしてみようと考えました。特にスポーツ領域ではDXが注目される時代において、デジタル化が遅れている認識が明快にあったので、このスポーツ周辺のビジネスやコミュニティをデジタル化することで大きな価値差分が生まれるはずだという仮説を持って参入しました。
――その後、滋賀レイクスターズの経営に参画することになりました。上原社長は滋賀県出身ですが、郷土愛は強いのでしょうか?
上原 そもそも私は滋賀が大好きです。父方が6代前から、母方も4代前から滋賀という、生粋の滋賀血統もあって子どもの頃から郷土愛が強かったです。郷土について学びを深める中で、さらに滋賀が大好きになっていきました。
――自分たちが参画することで、ブースターに喜んでもらえるクラブづくりもできるし、その先にはクラブとしてもビジネスとしても強くできるという信念が芽生えたわけですね。やはりそのきっかけは新B1を目指す目標があったことだと言えますか。
上原 きっかけとして明快に新B1はありました。参入前のレイクスの経営にとって新B1参入が大きな課題であったし、その実現にはマイネットのような存在とつながる必要があったわけです。マイネットとしては、「自分たちがここをやるぞ」と決めた場で、つながりによって価値が生まれるという状態を作りたい。ですから、新B1参入ありきの話ではありません。マイネットが参画するにあたって描いた将来像は、滋賀レイクスターズを日本一にすること。「日本一のクラブ」となり、「滋賀の誇りとなる」ことをクラブのミッションとして掲げ進めることにしました。
――滋賀には、アーティストの西川貴教さんのように地元を愛する人が多いようにも感じますが、それは県民性とも呼べますか?
上原 あると思います。関西地域の中で、どうしても端っこ扱いにされることが多いこともあり、反骨精神が強いですね。ただ滋賀は知れば知るほどむちゃくちゃ魅力的な場所ですし、最近ではこれまで以上にNHKの大河ドラマの舞台になることが多いです。なんと言っても織田信長や豊臣秀吉も近江国を足場に天下人になっていったという歴史がありますから。
――滋賀レイクスターズで“下剋上”を目指すと。
上原 今が下とは思ってはいませんが(笑)、しっかりと天下は取りに行きたい。実際、レイクスは特にBリーグになってからお世辞にも強いとは言えない状態ではありますが、地元の企業の方々の応援の意欲はとても高くなりました。他のBリーグのクラブと比較しても、スポンサー収入比率がすごく高いんです。つまり、強くはないけど応援されているクラブとも言えるのですが、これまで経営をされてきた方がこのような状況を作ってくれていたので、あとはチーム強化にしっかりと投資することで、興行収入側、地域のファンの皆さまから頂戴できる収益を高められるという仮説を持っています。
――やはりチームの強化は欠かせないと。
上原 実際、弱くてもクラブ運営は成立するという考えもあり、そのような形態を目指すのも一つのやり方ではあると思いますが、定量的に分解すると、やっぱり勝利というものと収益が極めて連動することがわかりました。勝った次の試合では新規にいらっしゃるブースターの度数が高まるとともに、何度も足を運んでいただくブースターのリピートレートも高まります。さらに物販を含めたお客様単価が高まるなど、もう如実に差が表れたんですね。今季でいうと滋賀は2割5分そこそこの勝率でしたが、まず5割に勝率を上げたい。5割を超えれば、それ以降また違う世界も見えてくるだろうと思っています。基本的には今まで取れていなかった数字をしっかり取って、そのデータに基づいてブースターに提供するサービスレベルをより向上させるなど、どこに投資するべきかという意思決定を行っています。実際に運営してみて、定量的に見て理にかなっている行為として選手強化費を強めに投資するように意思決定しています。まさにそれが今ですね。
――DXを積極活用したクラブ運営をされるとうかがいました。しかし、クラブ運営は生身というか、データどおりに進まないこともあるのではないかと思います。
上原 私たちがデータと同様に重要だと思っているのがフィロソフィーです。チームの戦略戦術におけるフィロソフィー、例えばハードなディフェンスをするなど、より良い組織を作り上げていく上でのバリューが、選手とスタッフ、コーチ陣、フロントスタッフの中で一貫していることがものすごく重要だと思っています。これは上場企業を作り上げ10年以上運営する中で培った考え方ですね。一貫したフィロソフィーでの組織づくりと共通するところだなと感じました。
――このようなクラブ運営の考え方について、ルイス・ギルヘッドコーチ(HC)と話をされていますか?
上原 この考え方はギルHCがもともと持っていたものとも近く、彼もフィロソフィーをチーム作りで重視しています。今季のメンバー構成は元来キャプテンシーを持っているメンバーばかりで揃えました。キーファー・ラベナは言うまでもなく、柏倉哲平など、ほかのメンバーたちもキャリアのどこかでキャプテンを経験している人間ばかりです。一貫したフィロソフィーのもとでチーム作りを進めていたので、17連敗の中でもチームが崩れることがなかったですし、ファンの皆さまからも変わらず愛され続けたと言えます。それはやっぱり哲学の一貫性があったからだと思っています。
――ヨーロッパはクラブ文化の先進地域ですが、スペイン出身のギルHCには何かアドバイスをもらっていますか?
上原 ギルHCはまさにクラブ文化、地域とクラブという考え方が最も成熟している国で少年期から育っているので、理想のクラブのあり方はこうであるという考えを持っています。我々としても、これから育てる地域クラブの一つの理想が、スペインにあると思います。また、彼は様々な国でコーチをしてきたという国際経験豊かな面も持っています。つまり様々な価値観の人間を扱ってきており、その中で「一つのチームを作るには何が必要か?」「それにはフィロソフィーが大事だ」というところにたどり着いているんだと思います。
――新B1に向けて、どのようなクラブにしていきたいか、どんな構想をお持ちですか。
上原 憧れられること、憧れを抱いていただく強いクラブになるというビジョンを設定しています。やはり子どもたちにとって憧れであり、大人にとってもいつか憧れたプロスポーツでありたい。そこで躍動する選手たちの姿を見て、自分もあのようなカッコいい姿になりたいという思いを持って、日々をワクワクしながら過ごしていただきたい。県民、地域の皆さんがその憧れのもとでワクワクしながら日々を過ごしていくことができればと思っています。そのためには強いチームでなくてはいけない。勝つことによって、ワクワクや夢、憧れを提供することができると考えています。その先にはミッションである「日本一のクラブ」があり、本当に地域に根ざし、50年先、100年先においても地域の中で愛される象徴となるようなクラブになること、そうであることによって滋賀の誇りとなることを目指していきます。
――いつまでに日本一になりますかは?
上原 2030年です。
――それまで地盤を固めていき、2030年に花が咲くわけですね。
上原 当然毎シーズン日本一を目指しますから、もっと早く頂点に立てるかもしれません。ただ、ここ数年は日本一になるという事業計画は組めていませんでした。要はトップクラブ級の強化費を準備していなかったという状況です。ただ強化費と順位が比例するスポーツがバスケットですから、そこの部分で体力や地力をつけて、日本一級の強化費を使えるクラブにできれば盤石です。そこまでしっかりと積み上げて進んでいきますので、まずは、このオフに期待してください。
――ありがとうございました。
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