2017.01.24

株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントにどうしてB.LEAGUEのパートナーになったのか聞いてみた

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2016年日本に新たに誕生したプロスポーツリーグであるB.LEAGUE。開幕戦はゴールデンタイムに地上波の生放送が行われるなど昨年のスポーツシーンの大きな話題となった。2つのリーグが統合し、新しいスタートを切ったことは日本のスポーツ界にとっても喜ばしい出来事だ。ただし、このスポーツ史に残る新リーグ誕生も関係各所の支えなくしては成り立たない。パートナー企業の支援が、今回の新しいエンターテインメント創出に一肌脱いだわけだが、素朴な疑問が沸きあがる。なぜバスケットボールを支援するのか――、エンタテインメントパートナー部門でバスケットボール界を支えるために手を挙げた株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントのコーポレートビジネスマーケティンググループマーケティングオフィス プロデューサー、藤井俊行氏と柴田慶子さんに話を聞いた。

インタビュー=山口晋平
写真=新井賢一

――まず、ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下SME)とスポーツにはどういった親和性があると思いますか?
藤井 NBAなどのアメリカンスポーツの例を見る限り、音楽とスポーツは非常に親和性が高いと思います。SMEが擁するソニーミュージックグループは、様々なエンターテインメントビジネスを手掛けています。アーティストが所属するレコード会社のようなイメージがあると思いますが、それ以外にも音楽を中心とした周辺領域のビジネスがかなりあるんです。例えばCDジャケットの制作やイベントの企画運営、マーチャンダイジング、ファンクラブの運営、ライツ事業、そしてライブハウスの運営など、その他にも多岐にわたっています。

――かなり多岐にわたっていますね。
藤井 そうですね。とくにここ近年、ソニーミュージックグループではライブエンターテインメント関連のビジネスが大きくなっています。これからBリーグがメジャーになっていく中で、例えばマーチャンダイジングが拡大したり、新しいアリーナができたりするとしたら、そのような場所での演出面などで、我々がエンターテインメントビジネスのノウハウやアイデアを提供できるのではないかと思います。もちろん開幕戦のような場で音楽の提供も含め広くいろいろなことができるのではと考えています。

――一般の方々が印象深いのは開幕戦の演出や音楽ですが、アリーナスポーツだからこそのものなのでしょうか?
柴田 ソニーという大きなくくりでいうとFIFAワールドカップのスポンサーやゴルフのソニーオープン、その他テニスにもスポンサードしていますが、SME単体ではインドアスポーツに着目しようと思っています。現在、コンサートや各種イベント、劇場映画、それから体感型のライブエンターテインメントが非常に注目されていますよね。その中で究極なのがスポーツなのではないかと考えました。そして、音響や演出面で自由度の高いアリーナスポーツは音楽やコンサートと組み合わせると、パートナーとして相性が良いのではないかと考えました。また、ソニーミュージックグループが持つアーティストのファンクラブなどの仕組み、顧客管理やチケッティングなどをスポーツにも応用できるのではないかと思っています。

――SMEにとってBリーグやバスケットのビジネス的な魅力はどういったところにあるのでしょうか?
柴田 圧倒的に競技人口が多く、よく知られているスポーツであるということです。バスケットボールは誰でも学生の時に一度は触れたことがありますよね。全く新しいスポーツに着眼することも必要ではあるのですが、SMEが新たに多くの方々に向けてアプローチしていく上では、誰もが知っている「バスケットボール=Bリーグ」からスタートすべきだと思いました。

――Bリーグのパートナーになって実現したいことや夢はありますか?
藤井 私自身の想いでお話すると、やはりBリーグをメジャーにしたいです。それこそ野球やサッカーにも負けないような存在ですね。私たちが学生の頃は、これだけのプレーヤー人口がいてもバスケットボールを仕事にできる時代ではなかったですから。普段の私たちの日常的な仕事は、新人アーティストを小さなライブハウスに出演させるところから、日本武道館や東京ドームのような大きなステージに立てるようにすることです。選手やクラブをそういったアーティストに見立ててスターにしていくお手伝いが、私たちのノウハウを使ってできたらいいなと思いますね。それが実現できたらきっとBリーグは成功していると思いますし、バスケットボール界とご一緒できる機会がどんどん増えてくるようになります。バスケットボールは他のメジャースポーツと比べたら規模もまだ小さいので、まずはマーケットを広げていくお手伝いをしていきたいと思います。

――やはり、選手やチームがクローズアップされることが大事なのでしょうか?
藤井 必要だと思います。スター選手が生まれてこないと競技自体がメジャーになるのは難しいですよね。

――柴田さんが実現させたいことはありますか?
柴田 バスケットボールを他のスポーツとは違う見せ方にできるようトライしたいと思います。新たなスポーツの見せ方を提案するということですね。アリーナで試合を見ながら食事をすることの他に、音楽や演出面の工夫によって、お客さんが積極的にブースターとして盛りあげることを体感してもらうことです。この1、2年の短期的な目標としては、会場に行くことがすごく楽しいと思えるような体験をしてもらいたいと考えています。また、日本はこんなに競技人口が多いにも関わらず、スポーツ関連のビジネス規模は全世界と比べて圧倒的に小さいですよね。放映権事業やマーチャンダイジングのプラットホームもまだ成熟していないのですが、そうした収益が結果的には選手の育成や競技レベルの向上につながっていけばいいと思います。現在、2020年の東京オリンピックに向けて、どの企業もスポーツというものに注目している非常に良い時期だと思うので、スポーツがより良いものとなるために、ビジネスの規模を拡大させて、マーケットを成熟したものにしていければと思います。

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――そこに向けた課題はどんなことだと思いますか?
柴田 バスケットボールの課題で言うと、日本代表をはじめとするサッカーのように、お客さんと競技の接触率をいかに上げていくか。そこに向けた活動を我々がお手伝いすることで、最終的にはビジネスの恩恵が選手にも還元されて環境が良くなっていくと思います。まずは「バスケットボールって面白そうだね。会場に行ってみよう」とか、「自分たちもこの目で見てみたい」、と思ってもらえるきっかけ作りからがスタートだと思っています。
藤井 まずはそういったきっかけを作らないと、マーケットは拡大していきません。実は来シーズンから各クラブとも直接お仕事をしていきたいと思っています。そのために今はいろいろなチームのゲームに足を運んで、どういった仕掛けができるのかを考えています。会場での体験が「また来たい」につながる、非常に大事な部分ですので。
柴田 今シーズンはBリーグのオフィシャルイベントの仕事をさせていただいていますが、1年間いろいろなクラブを見させていただいて、来シーズンからは直接関わっていきたいと思っています。

――スポーツでは競技以外の魅力を作りだせるかが課題になっています。ソニーミュージックグループが手掛けていらっしゃる音楽イベントというのは、アーティストのパフォーマンスがメインだと思いますが、それ以外でどんな形でお客さんを楽しませるのでしょうか?
藤井 例えば、音楽のフェスは各アーティストのパフォーマンスだけではなくて空間を楽しむものですよね。単体のコンサートと違って、グッズやグルメなどを含め、いろいろな面白さがあると思います。スポーツでも、そういったノウハウを提供していきたいですね。

――各クラブの演出や雰囲気をご覧になって、面白いなと思ったところはありますか?
藤井 関東で言えば千葉ジェッツが面白いと思いました。ファンもかなり熱がありますし、アリーナの演出も面白いことをやっていましたね。先日もマスクマン(マスク・ド・オッチー)が相手チームのフリースローの時に踊りながらブーイングをしていたのですが、それに子どもが反応して一生懸命ブーイングしていたりと、今までの日本のスポーツでは見られなかった光景もたくさんありました。それと、我々がこの仕事をやろうと思った時に、絶対に見に行った方がいいと勧められて行ったのが琉球ゴールデンキングスの試合なのですが、あれには驚かされました。本当にNBAのような楽しませ方をしていて、こういうバスケットボールの環境が日本にあったんだというのは本当に目から鱗でしたね。

――試合開始前から非日常感の演出がありますよね。
藤井 そうなんですよ。会場は普通の体育館じゃないですか。それが、装飾や音響などによって入った瞬間から非日常になるんですよね。バスケットボールにもBリーグにも言えるのですが、日本のスポーツに足りないところはそこだなと思いました。琉球の試合は、入った瞬間に他の会場とは違う雰囲気や空気感があって、例えばグッズショップやフードにしても、お店の装飾からしっかり準備してあるんです。ビールの売り子さんを見た時には、ここまでやってるのかと驚きました。初めてバスケを見る後輩を連れて行ったのですが、その空間に圧倒されてTシャツを買っていました(笑)。あの非日常空間は、バスケットボールに興味がない人を連れていっても楽しめますね。

――秋田ノーザンハピネッツにも非常に熱狂的なファンがいます。
藤井 そうですね。秋田では試合が始まる前に秋田県民歌が流れるのですが、とても大事なことだと思います。我々も地方のクラブと取り組む時には、それぞれの地域性が際立っていた方が良いと考えていますので。Bリーグもこれだけいろいろな都市にチームがありますので、他のチームでもそういった地域性を前面に出してファンを拡大していくようなお手伝いができないかと思います。秋田に行った際、タクシーで行先を「CNAアリーナ」と伝えたら、運転手さんが「バスケ見にいくの?」って聞いてくるんですよ。道中も「今年は外国人選手の調子が上がらなくてね」、「でも田口(成浩)がすごく良いからから」って。バスケットボールが地域に浸透しているところは素晴らしいですね。そうしたクラブと組んで、僕らも新たな応援スタイルを作れたらいいなと思っています。

――具体的にアイデアはありますか?
藤井 例えば各クラブにチアリーダーがいますけれど、チアではない応援リーダーみたいなものを作ってみるとか、グループを作ってみてもいいかもしれません。それがひょっとしたらその地域のスターになっていくこともあるかもしれません。ご当地アイドルじゃないですが、そうなったら彼らと一緒にまた新しいビジネスができたりしますよね。会場発信のコンテンツが作っていける可能性もあるのではないかと思います。

――Bリーグのブースターの方に伝えたいことはありますか?
藤井 応援する時に、もっと自分を解放してもいいんじゃないかなと思いますね。演出などいろいろな工夫をして、のめりこむことができるような環境を我々が作らないといけないですね。せっかく観戦しに来たのであれば野次も含め、もっと声を出していいんじゃないかという気がします。特に日本のバスケットボールは会場で常に音楽が掛かっているのですが、そこは我々の音楽という仕事につながってくる部分ではあるんですけれど、実は良し悪しがあったりするんですよね。音が大きかったり、MCの応援の誘導が強かったりすると、お客さんは何も言わなくて良くなってしまいますよね。「ドン!ドン!ディーフェンス!」って鳴ってるじゃないですか。すごく雰囲気ができてるチームはそれに合わせて、お客さんがさらに大きな声で乗っていますけれど、そうじゃないところは、それを聞いていればいいみたいな感じなってしまって。会場によってはお客さんの声が聞こえづらいなって思っちゃいますね。
柴田 私もそれをずっと言ってるんですよ。
藤井 僕らがずっと言ってることですね。音響がどうなんだろうと。
柴田 お客さんをあえて受け身にさせる感じがしますよね。
藤井 秋田は熱狂しているお客さんが先頭に立って声を出しているんですよね。それと秋田のMCは、「ドン!ドン!ディーフェンス!」の最初の1回だけ言ってそれ以上は声を出さない。あとはリズムだけ出ていて、それにお客さんが声を合わせる。そういう点でバランスが良いなと思います。とはいえ、お客さんがまだあまり入っていないところでコールをなくしてしまったら逆に寂しいだろうし、難しいところではありますね。
柴田 みんなを鼓舞しながら徐々に雰囲気に慣れていって、そこから独自の応援方法が生まれていくんじゃないですかね。
藤井 もしかしたらこの音響でリードしていくのが、日本のバスケットボールの応援スタイルかもしれないですからね。それを一概に否定する必要もないと思ったりもします。でも会場によっては音響をもう少しうまく操作すればもっと良くなるのにと思います。

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――そこはお客さんとクラブ両方に期待したいところですね。
藤井 難しいところですけれどね。琉球のオフェンス時の三線なんかはものすごく雰囲気がいいですよね。非日常だと思って会場に入るんですけれど、試合が始まったら「カンカンカンカン」って沖縄感が出るんですよ。地域性や文化などを大事にしながら盛りあげていて、非常にいい使い方だなと思いました。

――今シーズンも折り返し地点に来ました。パートナーとして現時点でBリーグについて感じることはありますか?
柴田 私はバスケットのリーグ戦を初めて見るに近かったので、最初は選手の顔が全然わからなかったんです。でもそれぞれが個性豊かで、人間的にも本当に素晴らしい選手が多いと感じました。また選手だけではなく、フロントスタッフの方も含め本当に熱い方々が運営しているリーグだというのがよくわかりました。これからそれを広く伝えていくお手伝いをしたいなと思っています。競技の結果ばかり目が向きがちですけれど、そういったサイドストーリーにスポットライトを当ててくれるようなメディアなどとも協力をしていきたいと考えています。

――試合自体のメディア露出は以前と比べると格段に増えたと思います。
藤井 先日の折茂武彦レバンガ北海道)さんの通算9000得点も、もっと世の中に出したかったなという気持ちはありました。バスケットボール界にもサッカーでいうカズ(三浦知良/横浜FC)さんみたいな人がいるんだということを知ってもらいたいですね。折茂さんは選手だけでなくてさらに社長業もやっていらっしゃいますからね。次にこうしたチャンスがあれば、選手をさらにクローズアップして露出を拡大していくようなお手伝いもしていきたいです。

――観戦してみてプレーの面で面白いなと思うところはありましたか?
柴田 現場に行くとやっぱり迫力が違うのと、ものすごく技術を持っているというのがよくわかりました。個人的には秋田の選手たちがすごく熱くて、本当にファンと一緒になって強くなっていきたいというのが伝わりましたね。本当にみんな足を運んでほしいと思います。
藤井 柴田は初心者なので、よく「なんでそこでダンクしないんですか!?」って言ってます(笑)。
柴田 私は選手じゃないからわからないですけれど、私みたいな初心者や子どもたちは、そういったカッコいい、わかりやすいプレーですごく見方が変わると思うんです。選手に笑われてしまうかもしれませんが、試合前のウォーミングアップでみんなが同じゴールに向けてシュートしますよね。あれは強烈に精度の高い「玉入れ」だなって。何気ないシーンですが、あれはすごい技だって思います(笑)。
藤井 現場に行かないと見えないプロのすごさってあると思うんです。野球もキャッチボール一つにしてもプロは違いますよね。それに近いものがバスケットボールのアップのシューティングにもあると思います。例えばそれをクローズアップしたプロモーションなども提案できるのではないかなと思うことがあります。
柴田 あれをクローズアップしたら面白い切り口になるかもしれない、と思うことが実はたくさんあるんですよね。

――Bリーグのオフィシャルイベントとして、先日のオールスターの総合演出も行われました。今後はプレーオフがありますが、そちらは何か準備されているのでしょうか?
柴田 そうですね。まだお話はできませんが、見ていて楽しい、会場に行ってみたくなるような演出は用意しています。楽しみにしていただければと思います。

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