「クラブと選手の価値を上げる」B.LEAGUE経営企画部の挑戦

 待ちに待ったBリーグの2シーズン目が、いよいよ9月29日に開幕。選手の移籍も活発で、各チームがどのような陣容を敷き、どう戦うのか考えただけでワクワクしてくる。昨季活躍した選手たちや新外国籍選手に注目が集まるが、2017-18シーズンからプロとしてBリーグの舞台に立つ新人選手にも期待が高まる。

 7月21日、22日の2日間にわたって、静岡県掛川市のつま恋リゾート彩の里でBリーグ新人選手研修が開催された。総勢60人以上の選手と、全クラブスタッフ30名以上がメンターとして参加したこの新人選手研修、「プロフェッショナルとは何か」をテーマにした濃度の高い内容となったのだが、単発の研修で終わらせない新たな取り組みも行われた。研修を担当したBリーグ経営企画部の勝井竜太氏に、クラブと選手の価値を上げるための取り組みについてうかがい、そのために行った施策の目玉としての新人選手研修について、どのように考え、設計、構築したのかを語ってもらった。

 日本のバスケットボールをさらに良いものにするためには何が必要か、もっと楽しんでもらうためにどうしたら良いのか。スポットライトがあたる試合の裏側で、クラブや選手を支えるリーグスタッフも、真価を問われる2年目に向けて様々な取り組みを行っている。

インタビュー=村上成

――勝井さんは現在、Bリーグでどのようなことを担当していますか?
勝井 経営企画部といって、Bリーグのクラブライセンス制度に基づいて、クラブの価値を高めていく役割です。もう一つは全選手や新人選手を対象にした研修も担当していて、特命事項に関わることもあります。

――クラブライセンスはリーグの役割として、肝の部分であり、デリケートな部分も多いと思います。
勝井 クラブ経営者は決死の覚悟と、地域にバスケットボールを根づかせたいという強い思いを持って仕事をしているため、リーグ側も覚悟を持って取り組んでいますし、私自身も必死にクラブと向き合っています。

――クラブトップの人たちと仕事をするのは難しそうですね。
勝井 主に社長や経営者を相手に仕事をしているので、我々もクラブの想いを汲みとって覚悟を持って向き合う必要があります。そういう意味では、我々も同等のリテラシーを持たなければいけませんし、財務や組織といった経営的な観点にも向き合わなければいけません。

――リーグライセンスを付与する立場でありながら、クラブと寄り添う部分も重要になってきますか?
勝井 リーグがクラブへライセンスを付与しているので、今後のライセンスのあり方を考えながらできるのは“Bリーグらしさ”だと思います。例えば、「基準が足りないから(B1からB2へ、B2からB3へ)落とします」ではなく、基準の意味を説明し、満たしていない場合は「なんで足りないんだろう」、「満たすためにはどうすればいいだろう」と一緒に考えることを心がけています。アリーナ面でも、財務面でも同じ考えです。

――昨シーズンは鹿児島レブナイズのクラブ存続問題にも携わっていました。
勝井 どのようなことがあっても、Bリーグから一つのクラブがなくなるのは大ごとだと考えています。リーグが「一つのクラブがなくなりました」と言うのは簡単ですが、クラブはどんな時でも本気なんです。株主、ファン、スポンサーなどクラブに関わる多くの方々がいて、彼らと常に向き合って仕事をしているのに、「存続は無理」なんて言えませんし、思ってもいませんでした。鹿児島の問題では、ステークホルダ-が主体的に動いてくれたおかげで、何とかクラブを存続させることができました。

――勝井さんは元々、どういったお仕事をしていましたか?
勝井 大手建設会社、大手人材紹介会社を経て、現職に至ります。建設会社では最初、現場のプロジェクト管理をして、100億円規模のプロジェクトを担当していました。そこでは会社の財務管理や原価管理なども考える必要があり、会社の全員から信頼してもらうことが大事だったので、信頼を得るという面は今の仕事にも活かされていると思います。

――人材紹介会社ではいかがでしたか?
勝井 大きな組織であったものの、従業員がベンチャーマインドを持って働いており、それのビジョン浸透や仕組化について興味をもって学び働いていました。

――その後の転職先にBリーグを選んだ理由を教えてください。
勝井 前職ではキャリアに関わる仕事が多く、アスリートのセカンドキャリアに接する機会もあり、プロスポーツクラブの『人材育成×社会貢献活動』というプロジェクトを担当しました。そこで、「プロスポーツクラブとして何ができるか。選手は何ができるか」などといったことを考えつつ、選手生活の中でアスリートの価値をどうやって高めていくかを考えていた時、Bリーグの人材募集があり挑戦することを決めました。

――これまでの経験が今の仕事につながっているんですね。
勝井 選手の研修や育成もセカンドキャリアのためだけではなく、現役アスリートとしての価値をどう高めるかという本質なんです。その本質を繰り返していくことが、セカンドキャリアの課題を解決する方法だと思っています。

――7月21日、22日には新人選手研修が行われましたが、その意味と意義を教えてください。
勝井 どんな研修でも一過性になりがちで、選手たちが「研修を受けて良かった」と思っても、1カ月後や1年後に忘れてしまうんです。昨年の経験から、「ただ研修をやりました」ではなく、研修から得たものをどうやって継続させていくか、発展させていくかが課題に挙がりました。今年はそれを改善するため、“選手メンター(指導者・助言者)制度”を取り入れました。

――今回の研修の成否として、メンターとして参加している方々が、研修で身につけたことを継続的に実行できているかどうかも大事になんですね。
勝井 あとは、研修後に何が変わったのか、どのように行動変容が起きたのかがわかるようなビフォーアフターの設計が必要です。いい研修をした後に、どうやってその行動変容を図るかということと、どうすれば価値が上がるかということを設計していて、そこをクラブに持ち帰って向き合うことが大事だと思います。

――メンターが評価してもらわなければ、なかなか研修の効果を継続できませんよね。
勝井 メンター制度の導入で、指導される新人選手や、クラブスタッフが少しでも変わったとわかった時に、良かったと感じていただけると思います。Bリーグは、今はまだチャレンジの時期ですし、『BREAK THE BORDER』をスローガンに、他のプロスポーツがやっていない取り組みを採用しています。だからこそ、やる価値がありますし、新しい挑戦をしています。

――様々なキャリアを積み、現在はBリーグに携わっています。大変なことがある中、面白かったことや、やりがいを感じたことは何ですか?
勝井 Bリーグ元年に取り組んだ全選手研修や、鹿児島レブナイズの件です。鹿児島の問題では、クラブを存続させたいという方々と一致団結して取り組みました。その時、選手たちもこの状況をどうやって打開しようか考えて行動してくれましたし、「チームを存続させる」という目的を達成するために動いてくれました。クラブに携わる方たちが今の自分たちにできることを考えてくれて、『Will、Can、Must』※で行動してくれたことがうれしかったです。
※「Will:やりたいこと、Can:できること、Must:すべきこと」のフレームワーク。

――最後に、これからのBリーグが発展していくために必要なことは何だと思いますか?
勝井 個人的には、クラブと選手の価値がどう上げていくかだと思っています。選手たちには自分の給料を上げるためにあらゆる努力をしてもらい、オンコートとオフコートで自分の価値を感じてほしいです。すぐに結果が出るものではありませんが、1年間続けた結果として、観客が増えることに直結しますし、クラブ価値の上昇にもつながります。私自身はその重要性を経営者にしっかりと理解してもらい巻きこんでいきたいです。

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