日本代表活動によるバイウィークを終え、Bリーグ各クラブは5月11日から始まる『B.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2017-18』進出に向け、大切な終盤戦を迎えることとなる。強豪ひしめく東地区において、首位を走るのがアルバルク東京だ。開幕前に日本バスケットボール協会でテクニカルアドバイザーを務めていたルカ・パヴィチェヴィッチ氏を新たにヘッドコーチに招聘し、外国籍選手も一新するなど、2シーズン目のBリーグを迎えるにあたり、クラブのバージョンアップを図ったA東京。今回、悲願のBリーグ初制覇に向けて、キーとなる3選手にたっぷりとお話を聞く機会を得た。その1回目は菊地祥平選手(後編)。今年34歳を迎えるベテランは、ハードなディフェンスでチームにエナジーを送り込む。
取材=バスケットボールキング編集部
写真=加藤誠夫
「このチームでどう生き残るか!?」。その答えがディフェンスだった
――今シーズンで何シーズン目のプレーとなりますか?
菊地 東芝(現川崎ブレイブサンダース)で6年、アルバルクで5年目なので11シーズン目ですね。
――JBL時代からプレーしてきた菊地選手には今の日本のバスケット界の変化はどのように感じられていますか?
菊地 僕は完全プロ化になったことに大賛成で、あのままプロ化しなかったらここまで盛り上がらなかったんじゃないかなと。プロ化してJリーグ、プロ野球のように盛り上がっていく流れを作ったのは正解だと思います。あとは僕たちがいかにお客さんに観てもらえるようなパフォーマンスをできるか、お客さんとどう接するかというところです。Bリーグ初年度より2シーズン目の方が大事と言われているのに、去年ほどテレビに取り上げられていない状況なので、今シーズンが正念場でしょう。せっかく盛り上がったものを元に戻さないようにするのは僕たち選手次第だと思っています。
――11年目のシーズン、ディフェンスの強度、プレーの強度が上がっているように感じますが、ご自身はどう感じていますか?
菊地 (馬場)雄大だったり、(田中)大貴だったり、一流の選手と練習させてもらっているので、マッチアップしていて、体が動かなくなるという実感はないですが、「若いってすごいな」って感じることはありますよ。うちの練習はシーズンが始まっても基礎的な1on1もやるのですが、たまにとんでもないプレーを仕掛けてくるのでやっぱり凄いなって思います。
――ご自身のパフォーマンスはどうですか?
菊地 上がってはないですが、要領が良くなったなと思います。昔だったら、がむしゃらにバチバチ行っていたのですが、今はここで頑張れば相手が嫌がるとか、今は泳がしとこうとか、そういう駆け引きができているのかなと思います。そこを極められれば、もう1段階上手くなれるかなと。
――ディフェンスを”生業”としているベテランは少ないと思うのですが、そのスタイルで長く続ける秘訣は何ですか?
菊地 ここに来た時のヘッドコーチが(ドナルド)ベック(元Wリーグ・トヨタ自動車アンテロープスHC)だったのですが、彼は個々の役割分担がはっきりしていて。その中で生き残るためにはどうしたらいいかって考えた時に、他の選手と(役割が)被らない存在になることだなと思いついたのです。当時は岡田(優介/現京都ハンナリーズ)、KJ(松井啓十郎/現シーホース三河)という凄いシューターがいて、さらには竹内公輔(現栃木ブレックス)という2メートル以上の身長があっても何でもできる選手もいました。今もチームメイトですが、正中(岳城)はガードでありながらペネトレイトでもなんでもできるし。じゃあこのチームで俺が輝く方法は何かなと考えた時、「お前はエースを潰すようなディフェンスを持っているのだから、もっと極めないとダメだ」とベックに言われて。バスケットはリングにボールを入れ合うゲームなので、点を取った方が絶対面白いのですけど、そのスペシャリストを目指す人はたくさんいます。では自分はどうしたらいいか? このチームでどう生き残るかと考えた時にディフェンスだと思いに至ったのです。
――トレーニング方法は変わりましたか?
菊地 変わりましたね。昔はマシンの負荷を大きくしていましたが、この年になると関節への負担が大きいので、今は自重で負荷をかけてやるようにしています。だから地味なトレーニングが増えましたね。
――ディフェンスで相手のエースを抑えることのやりがいは?
菊地 ディフェンス上手い人って性格悪いと思うんですよ(笑)。僕は「今どうしてもボールをもらいたい、シュートを打ちたい」という相手の気持ちを感じて、そのタイミングでボールを持たせなかったりシュートを打たせなかったりしています。その時の相手がイライラした顔を見て、「よっしゃ、勝った!」って思うんですよね。そういう細かいところで楽しんでいるので、性格が悪い人が多いんじゃないかなと思います(笑)。
――そういうことを感じ取る能力も高くなったわけですね。
菊地 ジリジリ半歩動いただけで、今ボール欲しいなってことがわかるようになったので、そういう時にわざと体を当てて行かせなかったりしています。
将来のために納得のいく優勝を目指す
――菊地選手のキャリアにはまだ優勝がありません。
菊地 もちろん優勝はしたいのですが、自分としては優勝することが目的じゃなくて、将来的にバスケットに関わりたいので、教える側に回った時にアドバイスできるようにその経験はしておきたいと思っています。優勝するチームの雰囲気や、練習中だったりシーズンが始まる時のコミュニケーションがどうだったとか。例えば好調なチームがシーズンのどこかで勢いが落ちた時に、チームメイトやスタッフは何をするのだろうということを、教えられるようになりたいですね。そういうことを言えるように、優勝を目指しています。こういうことをしたから優勝できたんだなという過程を知りたいのです。
僕が一番優勝できてもおかしくなかったなと思うシーズンは、東芝から移籍してきた1年目でした。絶対優勝できるチームだと思っていたのに結果的に負けてしまったので、何かしら足りなかったのだと思います。そこは優勝して初めてわかることですが、今シーズンはとても充実しているので、今は人生で一番優勝してもおかしくないなと思っています。
――優勝まであと一歩のチームにいたということも将来的には指導者としての経験にもなると思うのですが、それでも優勝チームにいたいということはどうしてですか?
菊地 そのシーズンは、アイシン(現シーホース三河)にファイナルで負けました。でも、仮にあの状況で優勝したとしても、ちゃんと教えられる自信がなくて、だったらもっと色んなことを経験したいと思いました。当時の僕は外国人コーチの指導を受けたくて、その中で一番知りたいのがベックのバスケットだったので、移籍を決めました。ただ優勝できるじゃなくて、バスケットを理解して自分が納得した上で優勝するべくしてしたんだなと思えるようになりたいのです。あの選手が凄かったからとか、たまたま相手のチームが弱かったからとかではなくて、こういう過程があったから優勝できたということを教えたいのです。
――今シーズンはいろいろ理解したうえで、優勝に近いと?
菊地 はい。同じメンバーで何年もやって熟練度が上がってというケースはありますが、半分以上選手が代わってHCも代わって外国籍選手も全員代わった状況で、今シーズンは何年も一緒にプレーしたメンバーでなくても結束力は高いですね。その意味からも、ルカは凄いなと思います。
――とても子煩悩だと聞きました。
菊地 子どもたちは2歳と4歳と6歳の3人です。世間ではイクメンって言われていますが、その定義は何だろう、何をすればいいんだろうって思います。だって、特別な話ではありません。子育てはあんまり苦にならないです。そこで癒されている部分もあるので。仕事上、土日は遊んであげられないのでオフは出来るだけのことをしようと思っています。
――将来はバスケットをさせたいですか?
菊地 させたいですけど、嫁が長男に試合会場で聞いたら「バスケットはやるもんじゃなくて観るもんだ」って言っていたらしくて(笑)。子供たちは運動が好きなようで、幼稚園でもよく運動しているみたいです。バスケも好きで一緒に家の下でドリブルしたりパスしたりします。あとは、友達がやっているのでサッカーが好きですね。
――最後に優勝に向けてファンの皆さんにメッセージをお願いします。
菊地 昨シーズンより、接戦になった時に力を頂いていると思っています。これからも厳しい戦いが続きますが、ホーム、アウェー関係なく、応援に来ていただいて、アウェーでもホームのような雰囲気作りをしてもらえると助かります。力を貸してください。よろしくお願いします。