Bリーグ2017-18シーズンの王者に輝いたアルバルク東京には、日本代表に名を連ねる田中大貴、馬場雄大、竹内譲次、NBAを経験したジャワッド・ウィリアムズ、アレックス・カークなど多種多彩な選手がそろっていた。そんなタレント軍団で黒子役に徹し、コート内外において欠かせない存在となっていたのが正中岳城と菊地祥平のベテランコンビだ。キャプテンの正中は個性豊かな”ルカ東京”をまとめ上げ、ディフェンス力に定評のある菊地は”エースキラー”として活躍した。34歳になった2人に昨シーズンを振り返ってもらい、連覇が懸かる今シーズンへの意気込みを語ってもらった。
インタビュー=酒井伸
写真=大澤智子
ベテランとしていかにチームに貢献するか
――優勝した昨シーズンを振り返ってください。
菊地 僕はキャリアで初めてリーグ優勝を経験したので、すごくうれしかったですし、ホッとしたという気持ちが大きかったですね。
正中 Bリーグ初代王者を目指していましたがそれは叶わなくて、とにかく早い時期に優勝したいと思っていました。チームが大きく変わった中でBリーグ2年目のタイトルを取ることができて良かったです。ただ今思えば、タイトルを取るにふさわしいプロセスの積み重ねができていたのかなと。
――試合終了のブザーが鳴った瞬間はいかがでしたか?
菊地 個人としてもチームとしても、バスケットボールに携わった時間がこれまでで一番長いと思っていて。昨シーズンは心身ともにギリギリの状態で、そういった意味でもしっかりと結果が出て良かったです。
正中 これまでやってきたことに自信は持っていましたけど、結局、結果が出ないことにはそのプロセスに意味を持たせることができないと思っていて。「いいシーズンだったな」と振り返るのは、シーズン最後の試合を勝ったチームだけが思えることなので。結果がすべてではないということも大事にしたいですけど、それでも優勝したチームだけがシーズンのうま味を全部知ったという立場になれると思っています。近年は最後の1チームになれていなかったので、祥平が言った「ホッとした」という思いもわかりますし、ようやくそのチームなれたなと。これまでのシーズンにおいて自分たちにチャンスがある中でも勝てていなかったので、しっかりとしたシーズンを過ごすためのプロセスをして、それに意味を持たせることができてホッとした部分と、そのタイミングにチームに関われて良かったなという気持ちです。
――その中で2人はどのような部分でチームに貢献できたと思いますか?
菊地 ベテランと言われる年齢(34歳)なので、ルカ(パヴィチェヴィッチ)ヘッドコーチが就任し選手の入れ替えが多かった中で、いち早くHCのバスケットを理解して、それをチーム内に浸透させることを考えていました。また、バスケットに取り組む姿勢でも模範にならなければと思っていました。
――正中選手はキャプテンを務めました。
正中 自分はチームをまとめ、バスケットに取り組む姿勢を見せながら、リーダーシップを発揮するという年齢にさしかかっています。特に昨シーズンは様々なことが新しくなり、若い選手、新しい選手が思いきってプレーでき、彼らの支えになるようなことをしてきました。もちろん、コーチに認められるような強度の高いプレーも率先して、若い選手に負けずやっていくこだわりを持って、新しいことにチャレンジしていく姿勢も見せていかないと、と思っていました。
――チーム全体として何か取り組んだことはありますか? 例えば選手と食事に行くとか。
正中 選手だけで食事に何回か行くことはありましたけど、それ以上にコートの中で関係が作られていくので、練習場で朝から晩までずっと一緒にいることがすべてだと。何か特別なことをするわけではなく、午前練、昼ご飯、昼寝、午後練など、チームメートと共有した時間、一緒に過ごした時間が大事だったと思います。
――昨シーズンから指揮官を務めているルカHCはいかがですか?
菊地 僕は外国人HC特有の細かさを感じていて、日本人では大雑把になってしまうような部分もとことんこだわって、練習を止めてでもしっかり指導してくれます。自分の芯を曲げないですし、自分のバスケットにこだわるというか。それをチームに浸透させる方法、態度、言い方などは本当にすごいと感じます。バスケットに対する情熱も、選手以上のものを持っているという印象はあります。そんな中でも選手のことを思ってくれるので、日本のバスケットに合うHCだと感じています。
正中 祥平が言ったとおり情熱的で、バスケットへのこだわり、自分のバスケットをしっかり持っています。自分のバスケットと世界のスタンダードを日本に持ちこんで、「日本人だからできない」とかはなく「自分のバスケットはこうだ」と、信念を持ってコーチングしてくれています。身長や身体能力があるないに関わらず、日本人のバスケットに対するスタンダードを上げていく作業をすごい重要視されていて。それに応えるのは難しく、昨シーズンとおして大変だと感じましたが、やりがいがある作業で、そのプロセスはまだまだ続いていると思っています。
――ルカHCが求めるスタイルを理解するには時間を要したと思います。
正中 大枠で捉えることができますが、完璧にやらないといけないですし、やり続けないといけないです。さらに、その中で結果を出していかなければいけませんので。勝利を重ねるうちにいい流れでバスケットができたと思うので、それを少しずつ少しずつ高め合った結果として優勝できたと思います。今シーズンもアーリーカップで優勝でき、少しずつ少しずつ前に進んでいけたらなと。
――昨シーズンや先日のアーリーカップで試合をこなし、ルカHCが求めるスタイルは完璧に浸透したと感じていますか?
菊地 それはまだまだ。ルカHCのバスケットを完全に表現できているとは、選手たちも、ルカHCも思っていないはずです。まだ練習を止めて指導されることが多く、試合中に怒られる場面もまだまだ多いです。その回数が少なくなればなるほど、うまく表現できているのかなと思います。
――ルカHCはピック&ロール主体の戦術です。具体的に難しい、わかりにくいと感じることについて教えてください。
菊地 ピック&ロールは何か一つでもズレたらダメで、完成度や正確性の高さが求められます。また、対戦相手が研究して、できるだけさせないようにしてくるので、それをどう対応していくかです。今シーズンはより僕たちの対応力が求められてくると思っています。研究されたことに対して何もできなくなるわけではなく、ルカHCに言われなくても自分たちで対応することが必要になってきます。
――昨シーズン、相手に対応されて困った試合はありましたか?
菊地 前半戦はピック&ロールに対して、相手がいろいろな形で守ってくるだろうという対策を練習中からやっていて。3つか4つくらいのパターンがありましたが、それ以外のディフェンスの仕方や、少し変わった守り方をしてきた時の対応ですね。東地区のチームは対戦回数が多くやりやすいのですが、2試合しかない他地区との対戦の場合、第1戦と第2戦で守り方を変えられたり。チャンピオンシップはそこの対策を念入りにして臨みました。
正中 やられてしまった場面の大半は、強度、激しさなど基本的な部分に立ち返れば何とかなるんです。僕は難しいというより、バスケットの基本を徹底した上で戦術的な考え方があると思っていて。基本を見つめ直して、やり続けることが大事だと。ただ、これが一番難しいことです。1対1のディフェンスで負けないことは当たり前ですし、ピック&ロールの場合は2対2で守りきる。チームディフェンスや戦術的なこと以上に、基本的な守り方は必要不可欠で、それをやり続ける難しさはあります。
――ルカHCが来たことでチーム全体として変わったと思います。
菊地 まず絶対的な練習量が増えました(苦笑)。これまでシーズン中は1日の全体練習は1回のみが基本でしたが、ルカHCの場合は午前中にウェイトや走りのメニュー、ボールを使った練習をして、休憩したら午後もボールを使った練習と、2部練をずっと貫いているので。そこは選手の疲労やケガなどがあっても変えませんでした。他のHCなら練習内容を変えたりするかもしれませんが、ルカHCはチャンピオンシップに入っても、ファイナルの前でも一切変えませんでした。1日の半分以上は体育館にいて、タケも言ったように嫌でも顔を合わせますし、お昼ご飯でも自然と話をします。コート内外での信頼関係が深まりますよね。
正中 練習量はとても多いですが、全員がプロフェッショナルな考え方を持って取り組んでいます。また、練習の前には必ずミーティングがあり、相手に対する準備を確認してからトレーニングに臨めます。「相手はこうだからこうしよう」とか「こういう守り方をしよう」とかを練習で意識して、しつこく繰り返すことで浸透させていきました。そういった取り組みがあったから、自分たちが求めるスタンダード、質が変わったと思います。
――シーズン中に気をつけていたことはありますか?
正中 HCに怒られないようにすることですかね(笑)。
――菊地選手はスイーツが好きだと聞いています。
菊地 これだけ動いていたら、逆に痩せるので(笑)。練習前後に体のために時間を作って、ケガのリスクを少なくすることは意識していました。今シーズンから高酸素室が導入されて、暇さえあれば入るようにしていて。ケガをしてからでは遅いので、ケガのリスクを少しでも減らすために使っています。
勝つことだけに集中して連覇を目指す
――連覇が懸かる今シーズン、期待している選手はいますか?
菊地 僕は馬場(雄大)選手です。日本を代表するトッププレーヤーですし、日本代表でも活躍してますよね。昨シーズンはケガがあり、出場できる試合が限られていました。試合に出場すれば必ず活躍してくれますし、数字も残してくれますが、まだまだ精神面にムラがあると思っていて。今は田中大貴がエースと言われていますが、その座を奪えて、彼を超す存在になれると期待しています。
正中 雄大以外にも、若い選手には期待しています。一番いい環境でプレーできていて、昨季は小島(元基)、ザック(バランスキー)などセカンドユニットがチームに勢いをもたらすことが多かったです。どのチームから見ても、先発との差がない状態に作りあげていってほしいと思っていて。こういった部分が他のチームとの違いを生みだせて、チーム全体のレベルアップにつながるはずです。
――お2人は今年で34歳になります。ここ数年における自身のパフォーマンスはどのように感じていますか?
菊地 あまり自分どうこうは考えていないので。数字面はそこまでこだわっていなくて、いかにチームに貢献できるかで、それが数字に残る、残らない関係なくて。どうしたらチームに一番貢献して、必要とされるかを考えています。コーチ陣が自分をどう評価して、どう使うかについて、何か言うこともありません。普通に考えたら、田中大貴と馬場雄大がいることが理想だと思うんです。そこはルカHCが自分を使っているという意図をくみ取って、今季もできるだけチームに貢献したいです。
正中 こんなもんかなと思います。自分を軸に考えることに意味はないと思っていて、バスケットはチームスポーツなので自分一人でコートに立つわけではありません。5人がそろわないとコートに立てないということは、所属チームにどれだけ貢献できるかだと思っています。自分を高めることはもちろん大事ですが、それをありのままにコート上で出せるかといったら無理ですよね。チームに対していかに仕事できるかは、自分を納得させるための一つのアプローチでしかないんですけど。全員がスーパースターになりたいと思って取り組んでいて、全員がその考えを持って継続していければいいと思います。ただ、どこかで自分を高めるような選択をしないといけなく、それは必ずしも数字に表れるとは限りません。個人のパフォーマンスに満足できていませんけど、満足しているとしたら昨季をああいう形で過ごせたことです。今季もチャレンジのシーズンになると思いますが、若手が成長していく中で自分の役割を見つけたいと思っていて。コートに立つこと、数字を残すことだけではなく、違った部分でも自分を持ちながら取り組んでいきたいです。
――連覇するために必要なことを挙げるとしたら何でしょうか?
菊地 ディフェンス面でルカHCが求めている強度のラインを下回らないことです。また、相手への対応力、柔軟性も必要になってきて、オンザコートルールが変わるのでそこをどう対処していくか。ディフェンスもオフェンスも大切ですね。
正中 今季は勝つことだけに集中して、一戦一戦に臨んでいきたいです。昨季のことを活かしつつ、また新たに積みあげていくことも大切だと思っています。日本代表メンバー不在でアーリーカップを制しましたけど、いかに自分たちのスタンダードを高めていくか。田中大貴だからできる、馬場雄大だからできるというチームを目指すのではなく、どのメンバーでも高いレベルのバスケで勝利をつかめる力をつけていかないと、レギュレーションの変化にも対応できないと思います。帰化選手がいないからできないなど、理由を並べていたら前に進んでいけません。苦しみながら進んでいくシーズンになると思うので、軸足をしっかりそろえながら、大きな一歩を歩めるようにチーム全体として取り組んでいきたいと思います。
――最後にファンの皆さんにメッセージをお願いします。
菊地 昨シーズン、(アリーナ立川)立飛に多くのお客さんが来てくれて、ホームの勝率がリーグ全体1位だったので、昨季同様にホームの怖さを相手に与えてほしいです。そこでクラブスローガン『WE』(シーズンスローガンは『AHEAD』)を認識づけ、昨季以上に強固なものにしていきたいので応援よろしくお願いします。
正中 アルバルクのファンはもちろん、Bリーグのファンになった方々も目が肥えてくる3シーズン目だと思います。その中でさらなる盛りあがり、発展のために選手それぞれが競技にしっかりと取り組んでいきます。チームとしては絶対的な練習量を表現して、感じてもらえるようにいていきます。応援してもらえるような存在であり続けるために努力していくので、ファンの人たちにも一緒に盛りあげていってください。