Bリーグ2018-19シーズン開幕前の9月26日、昨シーズン好評だった『B′(ビー・ダッシュ)B.LEAGUE×井上雄彦』の第2弾が発売された。朝日新聞連載「B.LEAGUE 主役に迫る」はもちろん、2018-19シーズンのチーム紹介、スケジュール、ルーティンや裏方の特集などが100ページにわたって掲載されている。そこで今回、2年連続でデザインを担当したFROG KING STUDIOの近藤琢斗氏と石黒美和氏を直撃。週刊朝日編集部の秦正理氏を交え、至極の1冊ができるまでを聞いた。
インタビュー=酒井伸
井上先生の考えはブレなかった
――前作からビー・ダッシュのデザインを担当されています。これまでどのようなものを制作してきましたか?
近藤 スポーツではテニスやゴルフの専門誌、高校野球の夏の甲子園の増刊やプロ野球のオールスターゲームのパンフレットを10年くらい作っていました。パンフレットは会場でキリのいい値段で売られていて、記念品としてお土産にもなりますよね。そういった感覚はビー・ダッシュを作る際にも参考になりました。
――通常の雑誌よりも大きなサイズです。
石黒 ビー・ダッシュを作ると決まった時、まず考えたのはサイズです。ハンドブックのような大きさにするのか、今回のような大判にするのか、それとももっと大きくするのかなどの意見が出ましたが、誰が買うのか、どこで売るのかを井上先生と編集担当の全員で考えながら決めました。ガイドブックであり、選手の名鑑も入っているので、会場で買ってそのまま試合を見られるようなサイズを模索しました。
秦 朝日新聞に掲載した井上先生の連載を再掲するので、イラストが小さくなってしまうのはもったいないという思いがあって。ただ、タブロイド判(B3)にしてしまうと、書店に置いてもらいにくく、持ち運びも大変なので、A4よりも少し大きなサイズに落ち着きました。井上先生も「大きくていいね」と言ってくださいました。
石黒 やっぱりイラストにすごく迫力があるので、それをいかに大きく見せるかが大事でした。
近藤 パンフレット的な要素を入れつつ、どう仕上げていくかも考えました。この本を作るにあたって、井上先生がBリーグを発展させていきたいという思いを持っているとうかがっていたので。
――昨年はいつ頃から制作を始めましたか?
近藤 春先に話があり、ゴールデンウィークくらいから動き始めました。判型や文字の大きさ、ページについて何度か井上先生と話し合って決めていき、デザインは8月に追いこんで完成させました。
石黒 実際に会うと、デザインの意図などを聞いてくださるんです。すごく感激しました。
近藤 最初はタイトルも決まっておらず、「ビー・ダッシュ」だけでなく「ビー・ネクスト」などもあって。表紙の「B′」のロゴもいろいろな形の案を出していました。表紙に置いた時に収まりが良かったこと、ロゴのバランス、シンプルさなどを考えて、最終的には井上先生も「ビー・ダッシュがいいね」と。
石黒 打ち合わせの場では他にもいろいろな案が出てはみんなで調べて、「これは他に使われているから使えない」とか言い合ったりもしました。
――昨年から変えたところはどこですか?
近藤 載せるものが極端に変わるわけではありませんが、ただ第2弾が出ただけだと飽きられてしまいますよね。第1弾をどこまで崩すか、更新できるかがカギでした。
石黒 昨年版に比べて井上先生の絵柄がより大胆になっていると感じたので、対談ページのデザインはイラストをより目立たせるようにしています。
近藤 選手名をタイポグラフィにすることもできましたが、先生のデザインとぶつかってしまうので、色を薄くし、できるだけ主張しないように心掛けました。例えば、極上のマグロがあるとして、それにムダな味付けをする必要はありませんよね。生か、ほんの少し醤油か塩でいいわけです。ビー・ダッシュでいえば、読者は井上先生のイラストを見たいと思うので、それを邪魔しないようなデザインを意識しました。井上先生は「僕を目立たせるのではなくて、バスケ、Bリーグ自体が盛りあがってほしい」というブレない考えを持っていて。我々作り手の考えが少しでもブレるようなら、井上先生に引き戻していただく、というようなやりとりだったと感じています。
石黒 対談ページでの井上先生の写真は、最初は「見出しの文字と同じくらいの大きさでいいから」と言っていただいて。それはさすがに小さすぎるので、選手よりも少し小さくしました。
近藤 コンセプトが一貫してブレない部分は大事だなと思いました。
石黒 読者に選手の顔を覚えてもらいたいという思いがとても強いと感じました。
――今年は新たにチアやマスコットに焦点を当てたページができました。
近藤 対談やチーム紹介、昨シーズンの成績は当然あるものであって、その他のページをどうしようと。会場の雰囲気が伝わるものがいいと思って、チア、マスコット、ヘッドコーチなど選手以外の写真を集めたページを本の最後に作っています。会場に行くと、試合前、ハーフタイム、試合後などに様々な演出やパフォーマンスをやっていて、そういう楽しさも伝わればいいなと。また、選手以外の人たちもBリーグを盛りあげていることを知ってもらいたかったです。
石黒 特にサンロッカーズ渋谷のマスコット(サンディー)はすごくキレキレで、選手と一緒にアップをしていて可愛かったです。試合を生観戦しないと気づけないことがたくさんあるということが伝わればうれしいです。
Bリーグに興味を持って、試合会場に行ってもらえるとうれしい
――Bリーグ前のbjリーグやNBLを見に行くことはありましたか?
石黒 行ったことがなくて、どこで試合をやっているのかも知りませんでした。
近藤 同じく。バスケと言ったら『スラムダンク』以外に触れる機会がなかったですね。
石黒 私は、息子の部活の応援でしかバスケに触れる機会はなかったんです。息子に『スラムダンク』を読ませたらバスケ部に入ったんです。中学バスケの応援に行って、やっとルールを覚えました。知っている選手といえば田臥選手(勇太/栃木ブレックス)くらいでした。
近藤 バスケの仕事という意味では、9年前に五十嵐圭選手(現新潟アルビレックスBB)の写真集も作ったことがあって、それが初めてでした。
――ページ担当は?
近藤 特に担当は決めておらず、2人で案を出し合いながら進めました。例えばインタビューの見開きでは、いくつかの案を出して、いいところを取っていったので、お互いのいい部分を活かせたと思っています。
――第2弾ではB2のチームも取りあげています。
秦 この本を出す目的の一つには、各チームのいろいろな選手を知ってもらいたいという思いもあります。B1だけではなく、B2も各地で盛りあがっています。B2所属チームのファンにも手に取ってもらいたいと考えました。
――広報さんによるチームのイチオシも掲載しています。
秦 B1とB2の全36チーム広報の方々にチーム紹介文を書いていただくという新たな試みでした。それぞれのチームに個性があって、多くのチームが目指すバスケを書いてくださった中で、SR渋谷はアリーナの好立地条件を伝えていたり、(レバンガ)北海道はチームのイケメン度を誇る遊び心あるコメントだったり。広報さんに頼んだことによって、僕らの頭になかったことが出ていて編集部としてもイチオシのコーナーです。
――カラーを赤から青に変えた理由は?
石黒 こちら側は色の変更を考えていて、何色も提案した中から井上先生の意見もお聞きした上で、最終的に青を選びました。
近藤 変えるのか、変えずにずっと同じ色を貫いていくのかの選択でしたが、より変化があった方がいいかなと。青色の中でも濃淡の2種類を提案して、今回の色に決まりました。
石黒 色がガラッと変わったことで、結果的にビー・ダッシュも動き出しているという感じが出て、良かったと思います。
――第1弾にはなかった、「2018-19」シーズン数字が表紙に明記されています。
近藤 やっぱりシーズンものなので、どんどん数字が増えていくといいですよね。今後も続いていけば、「この選手はこのチームにいたんだ」などがわかって面白いかなと。
石黒 続けていくのが私たちの夢ですから。
――この本のデザインに携わって、周りからの反響はいかがですか?
近藤 井上先生に会ったことを羨ましがられます(笑)。僕が高校生の時に『スラムダンク』が始まったので、桜木(花道)とほぼ同い年なんです。井上先生に対して憧れがあるので、「一緒にお仕事させてもらえるんですか!?」と興奮しました。友人に本を見せると、「すごいな」と。同世代の友人で『スラムダンク』を読んでいない人はほとんどいないので。ビー・ダッシュを手に取ってもらうことでBリーグに興味を持って、試合会場に行ってもらえるとうれしいですね。
石黒 井上先生のラフが生で見られるなんて信じられなかったですし、初めて見たときは鳥肌が立ちました。息子には「井上先生に会いに行ってくる」と自慢することもありました。今の子どもたちにも『スラムダンク』は読まれていて、やっぱりすごいなと。影響力の大きさを感じています。
――最後に、読者に向けて本誌の魅力をお願いします。
近藤 選手と井上先生の対談とイラストです。それを踏まえた上でお気に入りのチーム、好きな選手、チア、マスコットを見つけていってほしいです。
石黒 この本を読んだら、井上先生のバスケ、Bリーグに対する熱意が伝わると思います。
秦 イラストはもちろん、インタビュアーが井上先生だからこそ語れる選手の言葉にも注目してほしいです。選手の魅力を知って、より試合を見に行きたいと思えるようなインタビュー集になっていると思います。また、選手名鑑を見たら、こんなにたくさんのチームがあるんだとか、こんな選手がいるのかといった発見があって、地元チームの試合に行ってみようなどと思っていただけるのではないかと期待しています。