12月8日、B1リーグ第12節が行われ、川崎ブレイブサンダースはホーム川崎市とどろきアリーナに横浜ビー・コルセアーズを迎えた。この試合は、川崎が中地区に戻ったことで今季は6試合組まれている“神奈川ダービー”の第1弾。過去2シーズンは10度の対戦ですべて川崎が勝利している。コート上では激しいつばぜり合いを期待したいが、試合外では一部イベントとプロモーションを両チーム共同で実施するなど、神奈川とバスケットボールをファンに楽しんでもらうための企画を準備。県内各地の名物をはじめ、神奈川の食材を使用した豚汁やアジア料理などバラエティ豊かなグルメが勢ぞろい。「川崎」、「横浜」をイメージしたカクテルなど神奈川ダービー限定のドリンク販売も行われ、冬の寒さを感じる曇天のもとアリーナへ詰めかけた大勢のファンにダービーならではの特別な空間を提供した。
試合は18時11分にティップオフ。川崎は第1クォーターの序盤こそ、田渡凌に3ポイントを許すなど出足のバタつきがあったものの、試合開始3分23秒には、珍しくニック・ファジーカスがダンクシュートを見せるとアリーナは大いに盛りあがり、川崎の勢いは加速。その後は27-6と一方的に攻め立て、試合の流れを完全掌握。一気に19点差をつけ31-12で最初の10分を終えた。その後も横浜のシュートパーセンテージを35.4パーセントに抑える堅守に加え、リバウンドも相手よりも13本多い45本を奪取。中に外にと気持ちよく得点を重ね、終わってみると94-55の圧勝。バーノン・マクリンが22得点14リバウンド、ファジーカスが27得点13リバウンドとインサイドの柱がそろって“ダブルダブル”を達成した。ガード陣も藤井祐眞が8本、篠山竜青が7本のアシストを挙げるなど今季初の神奈川ダービーは川崎が実力差をまざまざと見せつけ、対横浜戦の連勝を「11」に伸ばした。
勝敗を分けたのは、第1クォーターのロケットスタートだが、この重要な試合の出足でチームに勢いをもたらしたのは、川崎の大黒柱、ファジーカスだ。シーズン序盤はオフに受けた左足関節遊離体摘出手術の影響もあり、コンディションが上がらなかったチームのエースは、この試合で、自身が変わらず川崎の扇の要であることを証明した。「FIBAバスケットボール ワールドカップ2019 アジア地区 2次予選(Window5)」で、男子日本代表がカザフスタン代表を相手に86-70で勝利を収めたゲームでは、41得点15リバウンド2スティール2ブロックと大車輪の活躍を見せたファジーカスは、勢いをそのままに、川崎でも伸び伸びとしたプレーを見せ、神奈川ダービー圧勝の立役者となった。
試合後の取材に応じたファジーカスは「辻(直人)選手が(ケガで)いないのはきついですが、ちょっとずつチームで解決できるようになってきています。代表チームの活躍は自分に自信を与えてくれたし、今日の試合でも多くのシュートを決められたので、また自信になりました」とカザフスタン戦を1つのきっかけに自信を取り戻したことを明かした。また、ともにインサイドを支えるマクリンとの連携についての質問については、通訳を介さず聞き取ると「シーズン前は練習が(一緒に)できない……。今は毎日練習ができる。今はバーノンと俺、一緒にいる。モアタイムトゥギャザー。もっと(関係性は)良くなると思う」と流暢な日本語で回答し、より一層の活躍を誓って笑顔を見せた。
インサイドの連携についてチームの司令塔の篠山は「コートバランスは少しずつ改善できているので、ニックは本来の形に近い感じでやれていると思う。バーノンがもっともっとやれる選手なのだが、彼が我慢をして対応している部分もある」と述べると、続いて「バーノンの良さをもっともっと出していくと、相手のディフェンダーもニックにつくのか、バーノンにつくのかで悩むと思う」と語り、マクリンの強靭なフィジカルを活かしたインサイドからの攻撃と、ファジーカスのアウトサイドの正確なシュートのコンビネーションについて、さらなる関係性の向上を期待した。
ファージーカスの帰化により、他のチームにはない大きなアドバンテージを得たことで、シーズン開幕当初は優勝候補筆頭に名前が挙がることも多かった川崎だが、ここまで12勝8敗、勝率6割で中地区2位と、まだその力を存分に発揮するには至っていない。ファジーカスのコンディション不良、日本代表への選手輩出、チーム環境の変化など様々な要因があるのだろうが、徐々に本来の姿を取り戻しつつある。早くもシーズンの3分の1が終わったところだが、チームケミストリーが整いはじめた川崎は、ここからが本領発揮となりそうだ。たゆまぬ努力でリーグ有数のシュート力と、日本語力も身に着けるファジーカス。彼の活躍とさらなる飛躍が今シーズンも川崎に勢いをもたらすことは間違いない。
文=村上成