B1の2019-20シーズンが開幕して約1カ月。まだ序盤戦にすぎない段階ではあるが、この選手に関しては過去の3シーズンも含めて期限付移籍の最たる成功例と言って差し支えないのではないか。アルバルク東京から滋賀レイクスターズに加わった齋藤拓実。学生時代は大学ナンバーワンガードとも呼ばれながら、A東京では日本代表候補に名を連ねた経験を持つ2人のポイントガードの陰に隠れ、その出場機会は限られていた。
しかしながら、少ない出場機会で垣間見せていたそのポテンシャルに滋賀が着目し、期限付移籍での獲得にこぎつけた。ショーン・デニスヘッドコーチは齋藤の高い能力を買い、スターターに抜擢。第6節までの10試合すべてにスターター出場した齋藤は、2ケタ得点を6度マークするなど1試合平均10.0得点を挙げ、アシストも同6.0本とチームの牽引車としてフル回転している。
迎えた11月2日の第7節、アウェーでの横浜ビー・コルセアーズ戦。齋藤はこの試合でも14得点でチームの勝利に大きく貢献。特に第4クォーターに挙げた7得点は、ビハインドからの反撃を目論む横浜を意気消沈させるには十分なものだった。「第3クォーターがあまりいい形ではなかったが、第4クォーターに気持ちを切り替えて、いくつかグッドプレーをしてくれたことでチームが逃げきることができた。現状で私が求めていることはしっかりやってくれている」とデニスHCもこの日の出来には概ね良い評価を与えていた。
ただ、デニスHCの指摘にもあったように、この日は第3クォーターを中心にターンオーバーも散見されたということもあり、本人は決して納得していなかった。
「得点やアシストの部分で満足するのではなく、ミスしたことにフォーカスしないといけない。今日も後半にチームが崩れかけそうになったのは自分がきっかけで、それはスタートのポイントガードとして決してあってはならないこと。そこがまだこれからの課題になるのかなと思います」
とはいえ、A東京の2連覇をその一員として味わった齋藤は、デニスHCが「A東京が力を入れて彼を成長させてくれていたと感じる」と語ったように、チャンピオンチームで身につけてきた様々なスキルを新しいチームで活かせていることも実感している。
「システムは違うんですがディフェンスの基礎になる部分や、オフェンスならピック&ロールやピック&ポップを自分が使う時のスキル、周りが使っている時のスペーシングなどをたくさん学んできて、それはこのチームだから使えないということはなく、しっかり出せていると思います」
チャンピオンチームのエッセンスを滋賀に持ちこんでいる一方で、移籍したことで新たに得たものも齋藤にはある。ある程度約束された出場時間と、もう1つは滋賀が昨季から採り入れているメンタルトレーニングによる“気づき”だ。チームに合流して早々に、今季チームが指導を受けている原田隆史氏によるメンタル強化合宿に参加。そこでポジティブシンキングの重要性を認識したようだ。
「いいイメージができやすいということで、日誌みたいなものを書き始めました。以前にも書いたことはあったんですが、その時は正直何を書いていいのかが明確になっていなかった。でもメンタル合宿で原田先生に教わって『結構簡単なことでいいんだ』ということに気がついて、今はできる限り書いて、いいイメージを持つようにしてます。もちろんマイナスの部分や反省もあるんですが、ポジティブなことを書いてイメージすることで実際にポジティブになっていると思うので、少なからずいい効果があるのかなと思います」
チームはこの試合の時点でようやく3勝目と、齋藤の活躍が必ずしも結果に結びついているわけではない。しかし、その前の4連敗も全体的な試合内容は決して悪くなかっただけに、齋藤も今後に向けては感触をつかんでいる様子だ。
「試合を重ねる毎によくなっているということはこれまでも言われてきていたんです。ここ数試合は自分たちが崩れて接戦を勝ちきれないことが多かった。今日は点差が開いた展開でしたが、勝ったことはチームにとっていいことだと思うので、ここから勝ち癖をつけていけたらと思います。これから同じ地区や強いチームとの対戦もたくさんあるんですが、『まだ11試合しかしていない』(※取材時)とポジティブに考えてます」
齋藤の言う「強いチーム」には、ディフェンディングチャンピオンであるA東京ももちろん含まれる。来年3月にホームで組まれているA東京との対戦について問うと、齋藤はこう答えた。
「立川でやってみたいというのがあるので、そうなるとたぶんクォーターファイナルとかになりますよね。それは楽しみではあります」
チャンピオンシップ出場というチームの目標にもリンクするそのポジティブなイメージは、齋藤自身のさらなるステップアップによって現実味を帯びてくるに違いない。
文=吉川哲彦