“準備はいいか?”JBA審判グループに聞く!(後編)『新ルール変更点について』

いよいよ開幕が迫ったBリーグ。今シーズンは新ルールが採用される [写真]=B.LEAGUE

 今シーズンのBリーグ開幕テーマは次のようにある。

「準備はいいか?」
盛り上がる準備はできているか? 興奮する、熱狂する準備はできているか? 10月2日に、B.LEAGUEがいよいよ開幕します。皆さまに感謝を込めて、ワクワクするような時間を届けられるようにという想いが込められています。(Bリーグ発表より抜粋)

 なるほど! 興奮する、熱狂するにも準備が必要なことは間違ない!そこで今回はBリーグ開幕が待ちきれない皆さまに、正しく興奮と熱狂するには重要な要素である、新ルール変更点について、JBA審判グループのお2人にインタビューした。後編はルールの変更点について具体的な内容を聞いていく。

取材・文=井口基史

取材協力

上田篤拓(日本バスケットボール協会 審判グループ シニア・テクニカル・エキスパート)
静岡県出身。bjリーグのプロレフェリー時代にはNBAレフェリーを目指し、日本人としては初となるNBAサマーリーグにてレフェリングを経験した。現在はJBA審判グループ シニア・テクニカル・エキスパートと国際バスケットボール連盟(FIBA)レフェリーインストラクターを務める。

高森英樹(日本バスケットボール協会 審判グループ アシスタントマネージャー)
神奈川県出身。新潟アルビレックスBBにて通訳~強化部まで13シーズンに渡り従事。現在はプロチーム所属経験を活かし、JBA審判グループにて審判派遣、研修などの運営を担当し、コートの外から全カテゴリーのバスケットボールを支える。

Bリーグ・Wリーグで採用される新ルール、5つのポイント

――Bリーグ2020-21シーズンから新ルールが採用されるとうかがいました。まずそれでは新ルール変更点について、まず主旨やスケジュールを教えてください。
高森
 新ルール変更は【国際バスケットボール連盟(FIBA)テクニカルコミッション提案】⇒【FIBAセントラルボード承認】という流れで決定しますが、今回は【2020年3月にFIBAセントラルボードで承認】⇒【10月1日以降FIBA大会にて施行]となり、代表選手が活動するBリーグ・Wリーグは開幕から、天皇杯と皇后杯では1次ラウンドから採用していきますが、その他のカテゴリーは2021年4月採用することをJBAの理事会で承認しています。

――それでは具体的な変更点に入る前に、Bリーグの大きな変更として、アジア特別枠・帰化選手が外国籍選手と同時にプレーできることになりました。この点がレフェリーから見て、どのような影響があると感じているか教えてください。
上田
 国際競争の中では、フィジカルとコンタクトの面で得られるものは多いと思います。ただ違う母国語を持つ、3カ国以上の選手がコートにいる可能性がありますので、英語が共通語になると思いますが、お互いにコミュニケーションの歩み寄りは必要と思います。時には感情的にもなりますので、笛が鳴る前後のコミュニケーションにコート上の全員でチャレンジする姿勢が当然必要だと思います。ただ違う母国語を持って集まる事はバスケだけが特別ではありませんので、技術的にも文化的にも成長するという気持ちを持って歩み寄れば、チームにも日本にとってもプラスになると思います。

――それではそれぞれ聞きたいと思います。上田さんよろしくお願いいたします!

1.「怪我と介助」について
上田
 ゲーム中に許可なくコートに入ってしまうメンバーを防ぐため、交代しなければいけないシーンを明確化しました。これまでのルール同様の部分では、怪我をした可能性のある選手が15秒を超えてプレーを継続する意思を示せない場合は、いったん交代してベンチに下がる必要があります。そして、今回新たに加えられた「介助」という部分では、例えばシューズが脱げてしまい、ベンチメンバーがコート内で拾って渡した。またテーピングが取れてしまい、トレーナーが素早くコート内でテープ巻き直した。コンタクトレンズが外れてしまい、ベンチメンバーがコート内で介助して付け直した。これらのアクションは全て交代しなければなりませんので、選手・スタッフには注意が必要です。

――なるほど。助けようと思い、ベンチ選手やスタッフがコートに簡単に入ってしまうと、ベストプレーヤーをやむをえず交代せざるえない可能性があるってことですね。

2.「アクト・オブ・シューティング」について
上田 ショットモーションの動作について、今回はルールブックの文言を調整し、大きく2つのタイプに分けられていることがわかりやすく定義されました。ひとつは、ボールを持ってピボットを踏んでいる状態からのジャンプショットなど、いわゆる「止まった状態」からのショットなどのタイプ。このタイプに関して、審判がショットの動作が始まったと判断するポイントは、ボールを持っているプレーヤーがショットのために上方に向けての動きを始めた時点(アップモーション)になります。もうひとつが、ドライブなどでステップを踏みながら「一連の流れの中」でショットを放つタイプ。こちらのタイプでは、ショットが一連の動きの中で完結する中で、ショットのためにボールを持った時点でショットの動作が始まったと判断する、2つのタイプが明確に定義されました。このようなプレーはゲームでは常に起こっているタイプのショットですので、今回はルールや実際の判定の中身に変更があったということではなく、定義の明確化が行われたということになります。

――ということは、これによりシュートファウルだったかスローインなのかは分かりやすくなるかもしれないですね。

3.「シリンダー」について
上田 これまでも運用されてきたディフェンスのシリンダーの定義が、オフェンス側にも加えられました。例えば自分の体の範囲を著しく超えて出てくる肘や肩などが、シリンダーを超えて出ていると該当しますが、これまでもそのようなシーンでのコンタクトには判定が起きていましたので、こちらも判定が変わるような新ルールではなく、定義されたことにより分かりやすくなったと思います。また、このオフェンスのシリンダーが定義されたことによって、ディフェンス側が無理にオフェンスのシリンダー内に入ることで起きるコンタクトはディフェンスにその責任があるとし、特にボールを持っているオフェンスがパスやドリブル、ショット、ピボットなどをよりスムーズに行えるゲームを目的としています。

――たしかにオフェンスのシリンダーの定義もあればプレーヤーも余計なファウルを誘うプレーや肘を張り出すなどのプレーはしなくなりそうですね。

4.「ダブルファウル」について
上田 昔からバスケに携わっていた方や、ルールに詳しい方だと昔に戻ったという理解で良いと思います。パーソナルファウルはパーソナルファウル、アンスポーツマンライクファウルはアンスポーツマンライクファウル同士など同じカテゴリーのファウルが同時に起きた時にダブルファウルが判定されるというルールに戻り、シンプルになりました。

――パーソナルファウルとアンスポーツマンライクファウルの場合はカテゴリーが異なる場合はダブルファウルにならないためそれぞれの処置が行われるということですね。

5.「アンスポーツマンライクファウル」について
上田 いわいるワンマン速攻になりかけているが、まだボールをコントロールしていないシーンで、後ろや横からファウルをしてしまったケースで明らかに進路を妨害した場合はアンスポーツマンライクファウルが宣せられるケースがあります。これまでは同様の場合でも、速攻にいこうとしているチームがボールをコントロールしていることがアンスポーツマンライクファウルの条件のひとつでした。今回の変更によって、速攻にいくようなシーンではコントロールの有り無しにかかわらず、審判はその状況を把握してアンスポーツマンライクファウルが宣せられるケースができました。

――これによりまだボールは持ってないけど、明らかに得点になりそうなシーンではアンスポーツマンライクファウルが宣せられる可能性があるということですね。

新ルール変更点について理解した上で、新シーズンを迎えたい [写真]=B.LEAGUE

ルールをより理解することでゲームはさらに楽しめる!

――新ルール変更点がある事を理解してゲームを観ると、もっと楽しめますね。ルール以外の面で、レフェリーがBリーグで特に取り組んでいる点や、コロナ対策など、あれば教えてください。
高森
 今回の新ルール変更点についてはJBA公式サイトにも情報を掲載しています。また、5on5、3x3それぞれ、競技規則全文のPDF、プレー・コーリングガイドライン、ルールテスト(問題PDF、オンライン練習テスト)などのコンテンツを掲載しています。プレー・コーリングガイドラインはルールを読んだことのない方にもできるだけわかりやすくルールに基づく判定基準を文字と映像で解説している資料ですので、ぜひご覧いただければと思います。
http://www.japanbasketball.jp/referee/rule2020

日本バスケットボール協会が発行する『2020 バスケットボール競技規則(ルールブック)』


上田 こういうレフェリー活動を知ってもらえる機会は多くありませんので、ぜひ彼らの1週間の過ごし方についても、選手同様に知ってもらえると、より私たちの活動の理解が深まると思います。

――そうですね。定期的にリスペクト文化醸成とリーグを愛してもらうために取り組みたいのでJBA審判グループからのおかわりという事で、引き続き取り上げさせてください。

高森 頑張っているから多少のことは許してくださいね、という意味では決してなく、プロアスリートと一緒にコートを走りながら試合の中で非常に多くの役割を担っている点や、週末2試合こなして月曜日から仕事に行くというタフさなど、プロフェッショナルにプロのコートを創るために準備している事などは、ファンの方々にも知っていただけると嬉しいですね。

――そういう取り組みの中から選手だけでなくレフェリーやテーブルオフィシャルでも東京2020オリンピックを目標にしている方もいらっしゃると思うのですが。
上田
 東京2020オリンピックでレフェリーするにはまずFIBAレフェリーのライセンスが必要になります。ホワイト:アジア限定/グリーン:女子のトップカテゴリー/ブラック:男女のトップカテゴリーという3種類あり、国内にはホワイト2名/グリーン3名/ブラック8名のライセンス保持者がおり、オリンピックではグリーンとブラックのライセンスを持つ10名にノミネートされる権利があります。当然厳しい競争と評価で判断されますが、これまでの国際大会を見ていると各国多くて2名くらいまでを選出という傾向が見受けられ、開催国だから配慮されることはありませんが、この2名の枠をFIBAから与えられるように頑張ってほしいとサポートしています。

高森 テーブルオフィシャル(TO)もFIBA大会ではFIBAライセンスが必要になり、テストを受け、ライセンス付与された方々がプール登録され、英語によるコミュニケーションの部分などを考慮しながら本大会で割り当てられていくという流れになります。

上田 プレーヤーとコーチ、レフェリーの事は語られますが、これだけではプロのゲームは成立しません。テーブルオフィシャルの皆さんは忘れてはいけない家族のような存在です。

様々な人々によってゲームが支えられていることを忘れてはいけない [写真]=B.LEAGUE


――まだまだ聞きたりない気もしますが、それは次回にとっておきつつ、Bリーグ開幕を楽しみにしているファン・ブースターへもメッセージをお願いします。
高森
 ルールブックを手にする機会は少ないと思いますが、JBA公式サイトで公開している情報もたくさんありますので、こういう機会にぜひ触れて頂きたいと思います。またBリーグ・Wリーグにヨーロッパのコーチが増えてきていますが、ルールはバスケットボールにおける世界共通言語だと思いますので、プレーヤーやコーチだけでなく、ファンのみなさんにも分かり易くお伝えできるようにこれからも取り組んでいきたいと思います。

上田 こうやって開幕できる環境にたどり着いたのは、すべてのファン、そして関係者の皆さまの努力のおかげですので、まずすべての関係者に感謝したいです。リーグ中止から再開までの期間で、バスケをする事ができない、観る事ができない時間を体験し、改めて当り前じゃないと実感しましたし、もっとバスケを大切にしたいと思いました。レフェリーもテーブルオフィシャルも皆さんと同じバスケを愛する仲間ですので、ぜひ会場で温かい声をかけてもらえると嬉しいです。シーズンをぜひ楽しんでほしいです。

――開幕前に新ルール変更点についてのインタビューだったが、その前にリーグを支える方々の環境などを知らないと、ルールも語れないなという貴重な機会だった。定期的に取り組むべき大切なテーマと実感したので、ぜひファン・ブースターの皆さんにもこのテーマへのサポートをお願いしたいなと思います。

『準備はいいか?』オーYES! NOW井口さんis READY!

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