4月末にスタートする「B.LEAGUE CHAMPIONSHIP」に向けて各クラブがラストスパートをかけ、つばぜり合いを毎節のように繰り広げている。それは名古屋ダイヤモンドドルフィンズも同様だ。激しい戦いが続く今、メンバー一人ひとりに今シーズンの戦い、そしてチャンピオンシップへの思いを聞いた。
取材・文=三上太
写真=名古屋ダイヤモンドドルフィンズ
#0小林遥太「司令塔の一翼は泥臭いプレーでチームに勇気を与える」
開幕以来、名古屋ダイヤモンドドルフィンズの”司令塔”を担ってきたのは小林遥太である。滋賀レイクスターズから移籍してきたばかりだが、ケガで出遅れていた笹山貴哉の穴をきっちりと埋め、シーズン前のアーリーカップの優勝を皮切りに、シーズン序盤にはチームを9連勝に導くなど、その役割を十分に果たしてきた。
しかし本人も「強豪のチームに負けたときは自分の不甲斐なさを感じました」と認めるとおり、千葉ジェッツや栃木ブレックスなどB.LEAGUE全体を見ても勝率1位、2位をひた走るチームには完敗を喫している。
「名古屋Dは若くて、能力の高い選手がいっぱいいるんですけど、僕自身がそういった選手とあまりやったことがなかったので、一つ上のレベルをいっているというか、たとえばパスでも、もっと高く出せるところを無難にちょっと低いパスを出して、結果的に彼らが取りにくいという場面があったんです。その経験から若くて能力のある彼らをもっともっと生かせるよう、自分としても努力しなければいけないなと思っています」
その言葉どおり、小林は練習からチャレンジを繰り返している。チームメイトがより取りやすく、しかしディフェンスにとっては取りにくいところへパスを出しているのだ。もちろん失敗することもある。しかし失敗をすることで感覚が磨かれ、試合での成功につなげていく。
1月下旬からはスタメンの座を笹山に譲り渡したが、バックアップであってもやることは変わらない。むしろスタメンで苦しんだことが短い時間で結果を求められるバックアップになって生きてきて、チームによりよい影響を与えられる。
しかも小林は元々、笹山のようなオフェンスでタクトを振るうようなタイプではない。自身も「僕はディフェンスをしてナンボの選手」だと認めている。
「ディフェンスをして、数字に表れなくても、ルーズボールなど一つのボールを取って仲間の攻撃につなげて、勢いを与えられたら……そんな勇気を与えられるようなプレーを目指しているんです」
異なるタイプの”司令塔”が生み出す音が和音になったとき、名古屋Dのハーモニーはより美しくなる。
#2マーキース・カミングス「120%のパフォーマンスを発揮するチームリーダー」
今シーズンから名古屋ダイヤモンドドルフィンズの一員となったマーキース・カミングスは、シーズンが深まるにつれてチームがひとつになっていくのを感じている。
「チームが始動した当初はお互いを探り合っていました。どういうことが好きで、どういうプレーができるのか……お互いがどういう人間で、どういうプレーヤーかを考えていたんですけど、今はチームが一丸となってプレーできていると思います。オフコートでもすごく仲がいいし、ヒルトン(・アームストロング)が来たときでもすぐにみんなで受け入れて、あっという間に一丸となるチームに成長できている気がします」
そうしたチームの成長があって、カミングス自身も一定の役割を果たしている。目に見える点としてはチームトップの得点力だが、コートに立てばフロアリーダーとしての存在感も示している。
「日本に来てすぐに気が付いたのは、なんとなく……自分でいうのもおかしな話かもしれないけど、リーダー的な存在として扱われているように感じて、自分がコートでやることにみんながついてきてくれているように感じるんです。だから自分としてはコートに立つたびに、最初から100%の力を出し切って、ゲームのトーンをセットしようとしています」
生まれ持ったリーダーとしての資質があるのかもしれない。プロになって6年、それ以前もリーダーになることを求められてきたカミングスにとって、名古屋Dの選手としては1年目の”ルーキー”であるが、そのポジションを素直に受け入れることができている。むしろ「心地よい」とさえ感じて、チームを得点面から引っ張ることができている。
だからこそ、やるべきことはこれからも変わらない。自分のすべてを出し切って、チャンピオンシップを目指すこと、ただ一点である。そしてひとたびチャンピオンシップのコートに立てば、もう一段階ギアを上げるだけだ。
「チャンピオンシップに入ったらすべてを出し切って……いや、自分が持っているもの以上のものを出して、優勝を目指したいと思います」
カミングスの120%がチームをさらなる高みへと導いてくれる。
#3満田丈太郎「葛藤のシーズンがさらにこの男を成長させる」
移籍1年目となる今シーズンは満田丈太郎にとって”葛藤のシーズン”と言っていい。昨シーズンまで在籍していた横浜ビー・コルセアーズではスターティングメンバーに名を連ねていたが、名古屋ダイヤモンドドルフィンズでは出場したすべての試合がベンチスタート(3月10日現在)。むろんベンチスタートにはベンチスタートとしての重要な役割があるが、そこで自分の役割が果たせたかといえば、やはり納得はいかない。
無理のないことでもある。チームには攻守それぞれに”ルール”がある。満田を今苦しめているのは、名古屋Dとしてのディフェンスだ。移籍1年目にそれまでとは異なるディフェンスのルールにフィットすることはけっして簡単ではない。
「ディフェンスに関しては今でも迷うところはあります。でもそれはコツコツと練習の中からクリアしていかないといけない課題でもあります」
ディフェンスで奪ったボールを速い展開のオフェンスに結びつける。名古屋Dが目指すバスケットを体現しようとすれば、その起点となるディフェンスは欠かせない。そこでの迷いは出場機会の減少につながることも理解している。
それでも少しずつ光明が差し込んでいると満田は言う。
「練習や試合を見ているなかでバスケットボールの戦い方……強いチームの戦い方や練習、個人のスキルワークがすごく勉強できているので、個人的なスキルやバスケットIQはよくなっていると思います」
シーズン中に参加した「3×3(スリー・バイ・スリー)日本代表候補強化合宿」でそれを実感できたと満田は認める。5人制のバスケットボールとは競技性が異なるが、それでも大きな括りとして考えたときに体の使い方や相手との駆け引きなどが明らかにこれまでとは違ったのだ。
「こんなことができるようになっているんだと実感できたので、日々のコツコツを大事にして、この苦しいときを積み重ねていけば、チャンスが来たときにしっかりとそれをつかまえられると思うんです。だから今は焦らずという感じですかね」
葛藤の先には間違いなく光がある。満田にとっても、名古屋Dにとっても、明けない夜はない。
#5ヒルトン・アームストロング「チャンピオンシップ進出のためにやってきたラストピース
チームに加入して2カ月余り。ヒルトン・アームストロングは勝利のためにすべてを出し切ろうとしている。時間の長さではない。いかに濃く存在感を示すことができるか。NBA経験のある”縁の下の力持ち”はそんなことを表現したいのだろう。
B.LEAGUEではこれまで千葉ジェッツと琉球ゴールデンキングスでプレーをしてきた。昨シーズンのチャンピオンシップクォーターファイナルでは名古屋Dにシーズン終了を告げる琉球のビッグマンとして立ち塞がった。そのときのことを彼はこう振り返る。
「タフなゲームでした。チャンピオンシップの雰囲気がにじみ出ていた試合で、個人的にはJB(ジャスティン・バーレル)と対戦できて本当に楽しかったです。彼はフィジカルも強く、ジャンプ力もある。バスケットをよくわかっている選手なので、彼と対戦するのは大変でしたが、すごく楽しかったです。名古屋Dというチーム自体も展開が速いチームで、よくファストブレイクが出ていました。スピードもあり、彼らを守ることは非常に難しかったです」
そんなアームストロングの武器は何といってもディフェンスだ。211センチという高さを生かして相手のシュートを叩き落し、リングからこぼれたボールをしっかりと自分たちのものにする。そうした献身的なプレーに彼自身も誇りを持っている。
「主に僕の役割はディフェンスとリバウンドです。オフェンスではスクリーン。ピック&ロールに絡んで、よいポジションでボールを受けることができればもちろん得点を取りに行きますが、主にディフェンスとリバウンドで貢献したいと考えています。あとはコートを走ることかな」
それだけではない。アームストロングはスマートさも兼ね備えている。それが感じ取れたのはファンへのメッセージを聞いたときだ。
「ファンのためにもすべてを出し切ります。ファンのためにトロフィーを持って帰りたいので、このままサポートしてください」
そう言ったあと、彼はこう続けたのである。
「Do Red!」
名古屋Dのキャッチフレーズで締めくくるとは……。
昨シーズン、最後の最後で苦汁を飲まされた相手が、今シーズンはチームの勝利のために全力で戦ってくれる。頼もしきビッグマンである。
#6菊池真人「目に見えない献身さでチームの一員に」
人見知りを公言する菊池真人にとって、移籍はけっして簡単な決断ではない。しかしB.LEAGUEが発足して以来、2度目の移籍となった名古屋ダイヤモンドドルフィンズでは本人が思った以上にスムーズにチームになじんでいる。それは菊池自身がアクションを起こしたというより、彼の持つキャラクターがチームメイトを”イジり”に誘うのである。
「ストレッチをしているときに、特に安藤周人がちょっかいを出してくるんです。僕がストレッチポールを使っていたら、それを奪っていって、それで叩いてきたり……それを試合前のウォーミングアップでもやってくるんですよ」
笑いながらそう振り返ると「まぁ、僕もそうされることが嫌いではないので、すごく楽しくできています」と、さらに笑みを広げる。チャンピオンシップを含めると約8カ月にも及ぶ長いシーズンをシビアに戦うプロの世界において、菊池のような存在はチームを円滑に運営するうえで必要不可欠なのかもしれない。
もちろん彼の存在価値は”マスコット”的なものだけではない。プレータイムこそ、昨シーズン在籍していたサンロッカーズ渋谷のときより少なくなったが、平均得点と平均リバウンドはほぼ維持できている。
「得点に関してはほとんど3Pシュートだけの得点なんですけど、周りがしっかり攻めて、自分はノーマークで打たせてもらえているだけなんです。それをいい感じで決められているので、短いプレータイムでも点数に表れているのかなと思います。リバウンドはSR渋谷のときと変わらず、外国籍選手だろうが、日本代表の選手だろうが、負けないようにという気持ちでやっています」
ノーマークで迷わずシュートを放つことはチームのリズムを安定させる。一方でチームメイトのシュートには素早く反応し、フィジカルコンタクト必至のペイントエリアに飛び込む。そうした目に見えない献身さもまた菊池がチームメイトに受け入れられる大きな要素だったのだろう。
チームメイトにイジられながら、実はチームとして欠かせないみんなの”相棒”。チャンピオンシップに向けて、菊池の存在感はこれまで以上に必要になってくる。