富山グラウジーズの松脇圭志は、B1第22節までの37試合すべてに出場し、うち29試合でスターターを務めている。平均出場時間は20分16秒と、今シーズンの新人選手では常にトップ3入りしてきた。ハードな守備を持ち味とするが、自ら「武器」と呼ぶ3ポイントシュートも、試行錯誤しつつアジャストを図る。
特別指定選手時代は出場2分のみ、今季開幕からスターター
杉本天昇から電話があった。杉本が群馬クレインサンダーズの特別指定選手として2月上旬、B2の試合に出ていた際、左膝前十字靭帯断裂などの大ケガを負った後だ。松脇にとって杉本は、土浦日本大学高校、日本大学の1年後輩にあたる。杉本から松脇のプレーや、富山に関する話を振られるわけでもなく、「天昇がどういう人かは分かっているので、構ってあげました」と松脇は苦笑交じりに述べる。「電話では元気そうでしたが、実際は元気ではないと思います。励ましの言葉をかけたとかはありません。あいつもケガしたばかりで、そんなん言っても意味はないと思いましたので」。
新型コロナウイルスの影響で大学バスケは始動が遅れ、実戦機会も限られた。特別指定でBリーグに臨む後輩たちについて、松脇は「大変なことが多いと思います。Bリーグでは外国籍選手が2人出場していて、僕の中では『コートが小さく見える』など大変でした」と、1年前の自分自身に思いを馳せた。コロナの影響で昨年2月にリーグが中断され、昨年3月に1節のみ開催されたものの、残りのシーズンは中止。松脇が特別指定選手として出場したのは3月の1試合、三遠ネオフェニックス戦の終了前、約2分のみだった。
富山と選手契約した松脇にとって、チームのヘッドコーチがドナルド・ベックから浜口炎に交代したことも奏功したと言える。「ベックコーチが、僕に話しかけてくることはあまりなく、自分の思いを言えないということもありました。炎さんはバスケのこと、私生活のことなど気さくにしゃべってくれます」。今季開幕からほぼ2カ月、松脇はスターターとして平均約24分の出場時間を得ていた。浜口ヘッドコーチは、松脇に対し「ガードだけでなく4番(パワーフォワード)に対するマークも任せられる」と、主に守備面の期待をかけている。
昨年12月上旬から松脇のプレータイムが減り始め、同中旬から1カ月以上、スターターを外れた。松脇は「シュートが入らなくなっていたので、自分の中で(ベンチスタートは)当たり前かなと。自分の実力不足と感じていました」と振り返る。松脇が3ポイントシュートを複数回成功させた試合は、開幕以降12試合中7試合と多かった。13試合目、サンロッカーズ渋谷に敗れたあたりから、連発という目立つ結果が減っている。
「周りには得点できる選手が多く、僕はそれほど得点に特化する選手でもありません。3ポイントシュートを躊躇するようになった、というメンタルの部分が大きいと思います。パスを回した方がいいかなとか、チームプレーを考えてしまい、すぐシュートすることはなくなりました」
渋谷戦は、富山の同僚、ジョシュア・スミスが大ケガから復帰し4戦目にあたる。チームの強みであるインサイド攻撃が固まりつつあった頃だろう。ただし、新人といえども富山は松脇にとって加入後間もないチームではない。1年近くプレーを共にしてきた先輩たちが「思い切ってシュートしろ」と声をかけてくれる。「チームの関係性は元々よかった。炎さんも、シュート数を増やせと言ってくれます」と積極性を取り戻していく。
1月24日の信州戦、2月10日の横浜ビー・コルセアーズ戦でそれぞれ、松脇は3ポイントシュートを3回成功して見せた。「ここ数試合、いいパフォーマンスができたと思います。それを忘れず続けていければいいですね」。優れたディフェンダーは、シューターとしての姿もプロの舞台で見せていく。
文=横田直