「うれしいというよりかは、楽しみなほうが大きいですね。シンプルにあの舞台でプレーできることが楽しみです」
これまで当たり前のように戦ってきた“あの舞台”。シーホース三河の金丸晃輔は、2017-18シーズン以来3年ぶりにチャンピオンシップ(CS)に戻る高揚感を素直に言葉にした。
三河は前日に西地区2位を争う大阪エヴェッサとの直接対決に敗れ、CSクォーターファイナルのホーム開催を逃したが、「CSはディフェンスの強度も全然違うし、会場の雰囲気もレギュラーシーズンより盛り上がるだろうし、(アウェー会場の)プレッシャーの含めて楽しめると思います」と話す表情は明るかった。
チーム全員で、共に頂点へ
Bリーグ開幕以降、初のタイトル獲得を目指す三河。鍵になるのは「全員で戦うこと」だと金丸は強調する。「ケガ人がいて、万全ではないのは事実なんですけど、だからこそそこを全員でカバーしてやっていかないといけない。(ここ数試合で)ベンチメンバーを含めて全員でやれば勝てることを証明できたので、それはプラスに捉えています」と金丸はコメントの中で何度も「チーム全員」と繰り返した。
金丸の言うとおり、三河は今、相次ぐケガ人で緊急事態に見舞われている。最終戦ではカイル・コリンズワース、根來新之助が欠場。シェーン・ウィティングトンはベンチ入りしているものの4月25日以降コートに立っていない。島根スサノオマジック戦で負傷したダバンテ・ガードナーは手負いのままプレーを続けている。
だが、コンディションに不安を抱える一方で、島根戦からの8連戦で若手選手がステップアップしたことは収穫だ。これまでは大事なところで金丸、ガードナーに託しがちだったが、若手が積極的に自らリングに向かう場面が明らかに増えている。
例えば、全試合に先発出場しシーズンをとおして目まぐるしい成長を遂げたシェーファーアヴィ幸樹は、インサイドが手薄な状況で「自分がやってやるんだという意識が生まれ」、今まさに急速な進化の真っ只中にいる。
また、昨シーズンは全試合でスターターを務めながら、今シーズンはプレータイムに恵まれていなかった熊谷航も、「起きてしまったことはしょうがないので、その中でどう勝つかを一人一人が考えなければいけない。チームの総合力が問われている」と持ち前のアグレッシブさを発揮し、5月1日の三遠戦でキャリアハイを更新。加えて、ケガの影響でコンディションが上がっていなかった川村卓也が、最終戦で3ポイントシュート3本を含む15得点6アシストと完全復活したこともCSに向けて明るい材料だ。
CSを前にして、柏木真介の言葉を借りれば「チームとして金丸、ガードナーをうまく利用できる」ようになってきたのは、禍を転じて福と為したと言えるかもしれない。もちろん真に福と為せるかは、ここからの戦いにかかっている。
50-40-90は「来シーズン、がんばります」
「チーム全員」とはいうものの、エース・金丸の活躍は不可欠であり、相手チームにとって脅威であることは言うまでもない。
実は、レギュラーシーズンの最終戦となったこの日、金丸には3つの個人記録達成がかかっていた。大阪との第1戦を終えた時点で、金丸のフィールドゴール成功率は49.4パーセント、3ポイントシュートは46.7パーセント、フリースローは90.2パーセント。3ポイントは狩野祐介(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)の47.5パーセント、フリースローは古川孝敏(秋田ノーザンハピネッツ)の91.0パーセントに次いで、ともにリーグランキング2位につけていた。
加えてもう一つ、NBAでも8人しか達成したことがないトップシューターの証「50-40-90」クラブ入り(同一シーズンでフィールドゴール50パーセント、3ポイントシュート40パーセント、フリースロー90パーセントを達成すること)まであとフィールドゴール0.6パーセントと、偉業達成の可能性が残っていた。第3クォーターに金丸が3Pシュートを立て続けに沈めたときには、記者席の動きはにわかに慌ただしくなった。
「マジか!それ、できたら良かったなあ。もし知ってたら、もっと置きにいってたかもしれないです(笑)」
試合後に「50-40-90」まであと一歩だったと話を向けると、個人の数字に無頓着な金丸にはめずらしく悔しさを全面に表した。そして、一呼吸置くと、「でも、今シーズンは3ポイントシュートのアテンプト(を増やすこと)を目標にしていたので、あれだけ本数打って3ポイントが4割、フリースローも9割超えているので上出来じゃないですか」と自身のパフォーマンスに合格点を与えた。
「50-40-90は、来シーズン期待していますね」と取材を締めると、「はい、またがんばります」と力強く返した金丸。来シーズンの偉業挑戦の前に、まずはチーム全員で初めての頂点を獲りにいく。
文=山田智子