2017.12.26

枝折コーチとチームメートから支えられ、最後の舞台で精神的支柱となった豊浦の田中壱歩

豊浦の精神的支柱として活躍した田中[写真]=兼子慎一郎
大学時代より取材活動を開始し、『中学・高校バスケットボール』編集部を経て独立。メインフィールドである育成世代から国内バスケット全体を見つめる"永遠のバスケ素人"。

 12月25日、東京体育館で「ウインターカップ2017 平成29年度 第70回全国高等学校バスケットボール選手権大会」の男子2回戦が開催。県立豊浦高校(山口県)は帝京長岡高校(新潟県)との試合に65-84で敗れた。

 インターハイ4強の帝京長岡を相手に、豊浦は40分の試合時間の中で32分は完璧に近い戦いぶりだったが、3連続3ポイントシュートで逆転されたことをきっかけに、自らのオフェンスのリズムを見失ってしまった。「もうちょっとディフェンスの変化をつけるべきだったのかなとも思いますが、よく頑張りました」と、豊浦の枝折康孝コーチは試合を総括する。

 豊浦の司令塔を務める2年生キャプテンの喜志永修斗はこの試合31得点。得点、コントロール、リーダーシップと素晴らしい活躍を見せたが、枝折コーチは精神的なチームの柱は田中壱歩だと強調する。

帝京長岡戦では、21得点9リバウンド3アシスト4スティールと、コート上でもすばらしい数字を残した田中[写真]=兼子慎一郎

 田中はインターハイまでキャプテンを務めていた3年生だ。2014年のジュニアオールスターで山口県男子がベスト4に入った時の主力。大きな自信を持って豊浦に入学したが、その鼻っ柱はあっという間に打ち砕かれたという。

「先生がめちゃめちゃ怖くて、心が折れそうになりました。でも先輩たちが『頑張ろう』って声をかけて励ましてくれました」

 昨年のウインターカップ予選からはキャプテンに就任。ここでもチームメイトに大きく助けられたと田中は言う。

「どうやってみんなを引っ張って行けばいいか全然分からなかったし、自分がやらなきゃという思いが強すぎて空回りすることもあったんですけれど、副キャプテンの二見くん(健太)やみんなに支えられて、練習に対する思いや考え方も変わったと思います」

 枝折コーチいわく、田中は元来やんちゃな人柄。それが高校3年間で大きく変わった。

 「『学ぶ姿勢とか感謝する気持ちを持ち続けていれば、10年後20年後にいい人間になるよ』と話をしてきました。けじめのある、メリハリのきいた選手に育ってくれたなと思います。今日もベンチで『やってきたことをやろうや』とチームメイトに言葉をかけたり、好プレーには『おっしゃー!』という鼓舞するような声を挙げてくれました」

 残り時間2分。点差は10点ほど。まだまだ逆転の可能性がある中で、田中は一人涙を流していたという。

 「まだまだ早いよって感じでしたけどね」と枝折コーチは笑いながら、「でも、それだけやってきたことや思いが強かったんだなと。試合途中で泣くのは指揮官としてはダメと言うけれど、教員としてはそれだけ気持ちを持って戦ってきた田中に感謝したいです」

 田中もその大きな”気持ち”の正体を語ってくれた。

 「先輩も後輩も同級生も、本当にみんなに支えられてきたので、この大会にかける思いは本当にでかくて…。ずっとみんなのおかげでバスケができました。本当にみんなのことが大好きで…もっとバスケを一緒にしたいです…」

 取材中、田中は何度も何度も涙で言葉を詰まらせた。声が奮えるのは決まって、仲間や先輩たちに支えられたという話題のとき。枝折コーチが伝えたかった感謝の気持ちは3年の年月を経て、田中の魂の中心にしっかりと根を張っている。

文=青木美帆

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