2週間後に、男子日本代表の未来を占うビッグゲームが控える。FIBAバスケットボールワールドカップ2019 アジア地区 1次予選のオーストラリア戦(2018年6月29日)とチャイニーズ・タイペイ戦(7月2日)だ。ここで連敗を喫すると2次予選に進めず、早々にW杯本大会の出場を逃すことになる。
そのため6月上旬からの合宿ではコンディションを上げるため、そして戦術を確認するため、ハードな練習が続いた。午前午後の2部練習を続けている中で迎えた6月15日の韓国代表との強化試合は、体力的に厳しいところもあっただろう。代表常連組の篠山竜青(川崎ブレイブサンダース)も「今が一番キツい」と明かす。
韓国戦は、今年4月に帰化したニック・ファジーカス(川崎)、NCAAでの2シーズン目を終え凱旋帰国した八村塁(ゴンザガ大学)の代表デビュー戦となった。インサイドに強い2人の実力者を加え、選手層は厚みを増した。しかし、新戦力加入による連係面には一抹の不安もあった。そして連日の練習による疲労も心配された。
ところがふたを開けてみると、ファジーカスが28得点13リバウンド、八村も17得点7リバウンドと堂々たる活躍を見せ、最終スコア88-80で快勝。レギュラー格の田中大貴(アルバルク東京)の欠場に加え、エースの比江島慎(シーホース三河)、富樫勇樹(千葉ジェッツ)らが疲労からかやや迫力を欠いたものの、チームとしては「過去最強の日本代表」を印象づけた。
篠山は勝因として「リバウンド」と「イージーな形での得点」を挙げた。「ディフェンスリバウンドを取ってそのままファストブレイクを仕掛けたり、オフェンスリバウンドから簡単にセカンドチャンスを決めたり、今まであまりなかった形の得点が格段に増えた」。実際、ファジーカスと八村が高さという持ち味を存分に発揮できたことは大きかった。
特にファジーカスはデビュー戦にしてMVP級の大活躍を見せるなど、強烈なインパクトを残したが、それは少なからず盟友であるポイントガード、篠山のサポートがあってのことだろう。両者は2012年から6シーズンにわたって、川崎のチームメートとして一緒にプレーしている。練習でも試合でも「簡単な英語か、簡単な日本語」で綿密にコミュニケーションを取り、プレーの微修正を図っている。そうして培われたものがあり、篠山はファジーカスの動き出しや動き方、ボールが欲しい場所やタイミング、すべてを熟知している。
例えば第3ピリオド残り4分51秒で、ファジーカスがバスケット・カウントを決めた場面。左ハイポストから少し下がった位置でボールを受けたファジーカスは、ドリブルしながらバックランで相手を押しこむのではく、篠山とのパス交換でマークをずらし、ターンして相手のファウルを受けながらシュートを決めた。篠山によると「あれは川崎でもよくやるプレー」だという。
韓国戦では28得点13リバウンドと圧倒的な数字を残したが、篠山は「いつもどおり」と評する。今シーズンのBリーグレギュラーシーズンでは1試合平均25.3得点10.9リバウンドなので確かに「いつもどおり」ではある。しかしそうは言っても、日本代表でのデビュー戦だ。初めて一緒にプレーする選手も少なくないし、クラブとのプレースタイルの違いもある。
だが、篠山によるとファジーカスの本領発揮はこれからだという。「ニックがああやってゴールを決め続けるとマークが集中する。でも、そこからパスをさばけるのがニックのすごさ。数人がマークについても、ノーマークの味方を見つけてパスが出せるし、そうなるとシューターが活きてくる。ニックの活躍によって、チーム力はこれからさらに上がる」
篠山自身は韓国戦で4本のフリースローを決めて4得点。ファウルがかさんだ上に、ボールロストしたシーンもあり、「自分のプレーには納得がいかないところもある」。「Bリーグのガード陣とはタイプが違って、後ろからボールを狙ってきたり、ファウルすれすれのディフェンスもあったりして苦労した。今度(6月17日韓国代表との再戦)はしっかり対応する」
現代表にはファジーカスだけでなく、同じく同僚でシューターの辻直人もいる。川崎で司令塔を担う篠山は2人のクセは知り尽くしているし、2人を絡めたオフェンスの形は幾とおりもある。ユニットとしてのコンビネーションは完成形にあり、これを代表に落としこんだ上で八村や比江島、田中などとの連係を構築できれば強力な武器となるだろう。
大一番を前に戦力は整いつつある。ケミストリー構築やコンディション調整のための時間もある。あとは国を背負う気構えだ。韓国戦を経て、篠山は改めて強調する。「代表戦では向かっていく気持ちを出さないといけない。もっともっと強気で戦う」。本番は2週間後。W杯出場へ向けて、新生日本代表の進撃が始まる。
文=安田勇斗