現在、11大会連続でパラリンピックに出場している車いすバスケ男子日本代表。しかし、08年北京大会で史上最高位タイの7位となって以降、12年ロンドン、16年リオデジャネイロと2大会連続で決勝トーナメント進出を逃し、いずれも9位に甘んじている。その一方でチームは着実に強化を図り、そして今、確実に世界に近づいていることも事実だ。2020年東京パラリンピックで史上初のメダル獲得を目指す男子日本代表の現状を探る。
文=斎藤寿子
「9位」の裏側に見えた日本の進化
リオデジャネイロパラリンピック以降、及川晋平ヘッドコーチの下、日本が磨きをかけてきたのが「トランジションバスケ」だ。攻守の切り替えを速くすることによって、得点が生まれやすい3Pラインの内側での攻防を制することが狙い。つまり、高さで上回る相手をいかにゴールから遠ざけ、逆にいかに日本が相手よりも早くゴールに近づくことができるか、がカギを握るとされている。
そのトランジションバスケが、世界に十分通用することはすでに証明済みだ。17年の国際親善試合「三菱電機WORLD CHALLENGE CUP」(MWCC)では、初戦でアジア・オセアニア王者の豪州相手に負けたとはいえ、わずか1点差と善戦。その1年後、18年のMWCCでは豪州に予選、決勝で勝利。予選ではドイツ、カナダをも破り、全勝での完全優勝に輝いた。
そして、日本の強さが本物であることを世界に知らしめたのは、18年の世界選手権。欧州王者のトルコに大接戦の末、67-62で勝利を挙げ、グループリーグ1位通過を果たしたのだ。しかし、決勝トーナメント1回戦でリオパラ銀メダルのスペインに2点差で惜しくも敗れ、結果は9位。またも、“呪縛”から解かれることはなかった。
しかし、決して停滞してはいない。世界選手権でポイントとなった、トルコ、スペイン、オランダ(9、10位決定戦)とは、いずれもリオパラの予選でも対戦している。実はリオで初戦から3連敗を喫し、早くも決勝トーナメント進出が閉ざされた、その時の相手が奇しくもこの3カ国だったのだ。
リオでは敗れたトルコとオランダからは勝利を挙げ、同じ負けとはいえリオでは2ケタ差だったスペインにはわずか2点差にまで迫った。もはや今、世界にとって日本は簡単に勝てる相手ではなくなっている。
2大エース依存からの脱却が戦力アップを進める
強さの要因の一つには、選手層の厚さが挙げられる。これまで“2大エース”と言われてきた香西宏昭、藤本怜央。彼らの実力は今も健在で、チームにとって不可欠な存在であることに変わりはない。しかし、以前のような彼らに頼り切るチームではもはやない。鳥海連志や古澤拓也、川原凜など17年U23世界選手権でベスト4に進出した若手が次々と頭角を現し、さらに高さのあるセンター秋田啓も台頭。チーム内競争の激化が、戦力アップを生み出している。
17年世界選手権アジア・オセアニア予選3位、18年世界選手権9位、18年アジアパラ競技大会準優勝――リオ以降、公式戦では一度も掲げた目標を達成してはいない。しかし、及川HCが常に掲げてきた成長の歩みは一度も止めてはいないこともまた事実だ。
1年半後に迫った“本番”でメダルという結果を残すため、今年はさらに進化した「トランジションバスケ」が見られるに違いない。