東京2020パラリンピックの会場となる武蔵野の森総合スポーツプラザにおいて5月10日から12日にかけて行なわれる『天皇杯 第47回日本車いすバスケットボール選手権大会』。ここでは、令和になって初めて行われる今大会で注目したい5人の選手をピックアップした。伸び盛りの若手や優勝のカギを握る主力など多士済々がそろった。ぜひともチェックしてほしい!
文・写真=斎藤寿子
「古豪復活のカギ握る若きボールハンドラー」パラ神奈川SC・古澤拓也
3月の長谷川杯で準優勝、4月の東日本第二次予選会では優勝して天皇杯の切符を獲得したパラ神奈川スポーツクラブ。チームの大黒柱は、日本代表でも存在感をふくらましつつある23歳、若き司令塔の古澤拓也だ。
2017年のU23世界選手権では、キャプテン、エースとしてチームをけん引。ベスト4進出に導き、個人でも「オールスタ5」に輝いた。
古澤自身も「絶対に誰にも負けない」と自信を持つボールハンドリングの技術は、日本国内で随一。さらに3Pも武器の一つである古澤は、司令塔として試合をコントロールし、自らもチーム一のポイントゲッターとして得点シーンに絡む。
そのマルチな才能が爆発したのは、昨年の千葉ホークス戦だ。この試合、古澤は73得点中28得点を挙げ、アシストも8を数えた。いずれも両チーム最多の数字。得意の3Pこそ1本だったが、それを除くフィールドゴールの成功率は実に71%を誇った。
しかし、その前の初戦、敗れたワールドバスケットボールクラブ戦では、3Pを含むフィールドゴールの成功率はわずか19%にまで落ち込み、1ケタの9得点に抑えられている。3Pに限っては、7本中一度もネットを揺らすことはできなかった。結果、チームは前半こそリードしたものの、後半に逆転を許し、そのまま敗れた。
昨年は日本代表として、世界選手権やアジアパラ競技大会に出場し、世界のトップステージを経験した古澤。そこで吸収したものは大きく、心技体すべてにおいてレベルアップしていることは間違いない。
パラ神奈川が、最後に優勝した1997年以来の決勝のステージに上がり、22年ぶりの日本一奪還を実現させられるかどうかは、古澤にかかっている。
「エース不在のチームのカギ握る司令塔」NO EXCUSE・湯浅剛
近年、最も悔し涙を流してきたのが、NO EXCUSE(東京)だ。初めて決勝に進出した2007年以降、準優勝5回と、あと一歩のところで日本一の座を逃してきた。特に、世界トップクラスのスキルを持つ香西宏昭が加入してからは、黄金時代を築いている宮城MAXの牙城を崩す最大有力候補として、激しい攻防戦を繰り広げてきた。17年はわずか3点差、そして18年は延長戦の末に敗れた。
その最大の功労者であるエース香西は、今大会は不在となる。ドイツリーグでの決勝ラウンドが重なったのだ。
そんな中、チーム浮上のカギを握るのが、キャプテンであり司令塔の湯浅剛だ。昨年は、ハイポインターの森谷幸生とともに「ベスト5」に輝き、準優勝に大きく貢献。さらなる飛躍が期待されている選手の一人だ。
シューターとしてだけでなく、ゲームコントロールにも長けた香西が不在の中、湯浅がいかに司令塔としての力を発揮することができるか注目される。
チームには、森谷や橘貴啓といった国内トップクラスのシューターや、リバウンドに強い千脇貢、さらには米国でプレーし巧みな技を持つ新加入の三元大輔、今年に入って著しい成長を見せている仙座北斗、そして経験豊富なベテラン勢など、タレントはそろっている。
彼らの力を融合させることで香西の穴を埋め、いかに自分たちに流れを引き寄せることができるかが湯浅の最大の役割となる。さらに湯浅が得点シーンに絡む頻度が多ければ多いほど、チームの攻撃力は増す。
いずれにしても、攻守にわたっていかに湯浅がリーダーシップをとれるかがカギを握ることは間違いない。
「成長著しい現役大学生」埼玉ライオンズ・赤石竜我
昨年、日本の車いすバスケットボール界で、最も成長著しい姿を見せていたのは、今年4月に日本体育大学に入学したばかりの18歳、赤石竜我だろう。
2017年U23世界選手権ベスト4メンバーの赤石は、昨年はA代表の強化指定選手入りを果たし、10月のアジアパラ競技大会で、ついにA代表デビューした。
しかも、大会の山場の一つだった韓国戦では12人中5番目に多い14分半の出場時間を得るなど、重要な戦力として存在を示していた。
現在、強化指定選手の中で最年少だが、チーム一のムードメーカーでもあり、いたるところで彼の叫ぶ声が聞こえてくる。それは、ライオンズの中でも同じ。特に劣勢の時、チームを鼓舞する赤石の存在は大きい。
最大の武器は、スピードを生かしたディフェンスで、今や国内屈指の守備力を持つ。
さらに最近では攻撃力にも注力し、積極的にアウトサイドからシュートを放ったり、インサイドにアタックする姿勢も見られる。赤石の得点が伸びれば、ライオンズの優勝の可能性はさらに広がることは間違いない。
また、中井健豪ヘッドコーチからはガードとしての役割も求められており、「まだまだ力不足」」としながらも、徐々に周囲を見ることができるようになってきた。プレーの幅が広がる中、チームでの存在感はますます大きくなっている。
「試練の1年を乗り越えて」千葉ホークス・植木隆人
昨年、宮城MAXが大会新となる10連覇を達成。それ以前に9連覇を成し遂げていたのが、千葉ホークスだ。しかし、2007年の優勝を最後に王座をMAXに譲り続けてきた。
「古豪復活」のカギを握るのは、チーム随一のシューター、植木隆人だ。スピードとアウトサイドからのシュートを武器とする植木は、勢いに乗ると止まらない。相手にとっては絶対に乗せてはいけない選手だ。
そんな植木にとって、18年は苦しい1年となった。天皇杯でチームは初戦敗退を喫し7位に終わり、植木自身も14年以降、入り続けてきた強化指定選手の選考から落選。東京パラリンピック出場を目指す彼にとって、厳しい試練の年となった。
だが、植木はそこで立ち止まらなかった。一念発起し、以前から関心のあった米国の車いすバスケットボールリーグに参戦したのだ。
代表クラスでは、どちらかというとハイポインターをいかすプレーを求められることが多い植木だが、千葉ホークスでは一転、チーム最大の得点源としての期待が大きく、それぞれの役割は異なる。そのなかで、米国でプレーするにあたり、植木が優先したのは千葉ホークスでの役割だった。
「もちろん代表につながる強化指定に戻りたいという気持ちはありましたが、それよりもまずは千葉ホークスが勝つために自分がどうすればいいのかを考えながら、米国ではプレーしていました。それがおのずと代表へのアピールにもなると思っていたんです」
今年、植木は強化指定に復帰した。次は、天皇杯で千葉ホークスの復活の狼煙を上げる番だ。
「11連覇達成に不可欠な存在」宮城MAX・藤井郁美
初めて日本選手権に女子が参加した2017年、チームの優勝に大きく貢献し、女子としては第一号となる「ベスト5」に輝いたのが、藤井郁美だ。翌18年も「ベスト5」に選出された藤井。現在、女子日本代表のキャプテンを務め、エースでもある。
彼女の武器は、アウトサイドからのミドルシュートだ。チームには高さがあり、インサイドに強い2人のセンター陣、藤本怜央や土子大輔がいる。相手のマークが2人に集中したところを、アウトサイドから藤井のシュートがさく裂するシーンは少なくない。
彼女のシュートの確率が高まれば、今度はディフェンスが外に張り出さざるを得なくなり、センター陣へのケアが薄くなる。彼女の存在は、相手にすれば非常に厄介だ。
昨年、延長戦にもつれ込んだNO EXCUSE(東京)との決勝戦では、延長戦でチーム最多の9得点を挙げ、試合を通しても土子に次ぐ19得点をたたき出した。フィールドゴール成功率は64%を誇り、大会新記録となる10連覇の偉業達成に大きく貢献した。
藤井は、根っからのバスケ好きだ。小学3年の時にミニバスをはじめ、中学校ではバスケ部に入部。3年時にはキャプテンを務め、神奈川県大会ベスト4に進出した経歴を持つ。病気が発症し、走れなくなってからも、車いすバスケで日本代表のエースとして活躍してきた。
ふだんからは想像がつかないほど、コートの中では負けん気の強さを発揮する藤井。宮城MAXの11連覇達成へのカギは、今大会も藤井が握っている。