2023.03.14

【さくら杯】皇后杯7連覇中のカクテルに生まれている新戦力の卵たち

「さくら杯」で優勝を勝ち取ったカクテル (青)[写真]=斎藤寿子
新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年よりスポーツ専門ウェブサイトで記事を執筆。車いすバスケットボールの取材は11年より国内外で精力的に活動を開始。パラリンピックは12年ロンドンから3大会連続、世界選手権は14年仁川、18年ハンブルク、アジアパラ競技大会も14年仁川、18年ジャカルタの各大会をカバーした。

 3月11~12日、パラアリーナでは「さくら杯女子車いすバスケットボール大会」が開催された。今大会は女子車いすバスケットボールの普及・発展、競技力向上を目指し、JWBF(日本車いすバスケットボール連盟)女子委員会が初めて開催。今後は毎年春に行われている「あじさい杯」と並んで、女子クラブチームの主要大会となる予定だ。その記念すべき第1回大会には5チームが出場し、総当たりでのリーグ戦が行われた。その結果、皇后杯7連覇中のカクテル(近畿)が、同じ3勝0敗1分で並んだWing(関東)に得失点差で上回り、優勝に輝いた。今回は、そのカクテルに台頭してきた若手の存在に注目した。

チーム力アップを促す10代2人の飛躍的成長

 男子と比べて競技人口が少ない女子は、ぎりぎりの人数で活動しているクラブチームがほとんどで、常に選手層の課題がつきまとう。特にローポインターの選手が1人でも欠場すれば、コート上の5人の持ち点の合計が14.0点以内というルールに則ったユニットを組むことができずに出場を見送るチームもあるというのが現状だ。そこで女子委員会では試合条件のハードルを下げ、女子クラブチームの活動の活性化につなげようと、今大会では持ち点の合計を17.0点以内とした。

 その独自ルールを活用し、5カ月後の皇后杯に向けて“勝つイメージ”をチームに植え付けたのが前回の皇后杯で準優勝だったWingだ。東京2020パラリンピック日本代表の石川理恵(2.5)がケガで欠場し、本来のユニットを組むことができなかったこともあったのだろう。4点台のハイポインター3人を擁した布陣で挑み、高さと速さを兼ね備えたバスケットを展開した。

 そのWingにも負けなかったのが、現在女子日本代表のキャプテンを務める北田千尋(4.5)をはじめ、網本麻里(4.5)、清水千浪(3.0)、柳本あまね(2.5)と4人の強化指定選手を擁するカクテルだった。チームのキャプテンを務める北間優衣(1.0)が「どの試合も入りが悪かった」と課題を挙げたとおり、初戦となったWingとの試合も第1クォーターの前半5分は網本のフリースロー1本にとどまり1-8とリードを広げられた。それでも柳本の3ポイントシュートで勢いに乗ると、12-15と3点差にまで迫り第1クォーターを終了。続く第2クォーターで逆転すると、第4クォーターの後半に再びリードを許したものの、最後は50-50のドローとした。

 正規の14.0点以内というルールに則りながら、3人のハイポインターを擁したWingと互角に渡り合ったのはさすがのひと言に尽きた。なかでも強さが垣間見えたのは、網本、清水、柳本の代表クラス3人に、高校2年生の西村葵(2.0)、中学2年生の小島瑠莉(2.0)の10代2人を擁したユニットで臨んだ第3クォーターだった。終盤に網本を同じクラス4.5の北田に代えただけで小島と西村を起用し続け、10分間、同じ布陣で戦ったのだ。その3クォーターのスコアは14-16。若手2人が着実に戦力となり、先発のユニットに次ぐセカンドユニットが形となりつつあることが証明されたと言っていいだろう。岩野博ヘッドコーチも彼女らの成長ぶりに頼もしさを感じている。

重要なバックアッププレーヤーに成長した西村[写真]=斎藤寿子

「2人とも(2月の)大阪カップで海外勢を見て刺激を受けたようで、高い意識を持って、より一層練習にも取り組むようになりました。おかげでさらにスピードも上がり、リアクションも良くなっています。試合経験が少ないのでトランジションの速さやスライドするタイミングはまだまだですが、しっかりと走れるようになってきているのでディフェンス面では問題ありません。オフェンスでもシュートの飛距離が伸び、チャンスにはしっかりと打ち切れるようになっていますので、先は明るいと感じています」

 これまで固定された7人を主力としてきたカクテルにとって、小島と西村がそろって起用できる程のレベルにまで達し始めてきたことは大きい。長い間課題としてきた選手層においても、他を圧倒する強さを印象付けた大会だった。

絶え間ない努力で小島は順調に実力を伸ばしている[写真]=斎藤寿子

アスリートとしての素質の高さを持つ新人・藤原芽花

 そしてもう一人、カクテルに新たに加わった期待の若手がいる。21歳の現役大学生、藤原芽花(1.0)だ。今年4月にJWBFに登録し、来年度から本格的に始動する。今大会では短い時間ではあったが、全4試合に出場。緊張しながらも、先輩たちからの呼びかけに時折笑顔を見せながら必死にプレーする姿があった。

 車いすバスケットボールの競技歴は1年と浅く、現段階では戦力には至ってはいない。しかし、彼女の経歴を見れば、その素質の高さは一目瞭然だ。もともとスポーツが好きで、運動神経が抜群だった藤原。小学1年から始めたサッカーでは、5・6年の時には選抜された選手たちにより良いトレーニング環境を与える強化育成の場であるJFAトレセン制度の京都女子(U-12)に抜擢。6年時にはキャプテンも務めるほどの実力を持っていた。

 その時の活躍が買われ、奈良県に新しくできた女子サッカーチームから1期生としてスカウトを受け、中学校を越境留学。ただ一人、県外出身者だったにもかかわらず、キャプテンに選ばれたことからも、藤原の実力の高さと人柄の良さがうかがい知れる。

これまでサッカーやハンドボールをプレーしてきた藤原 [写真]=斎藤寿子

 卒業後は京都に戻り、洛北高校に進学。全国大会常連の強豪ハンドボール部に所属した。ケガが多く、なかなか試合に出場する機会に恵まれなかったが、3年時にはインターハイに出場し、チームはベスト8進出。2カ月前に腰の手術をした藤原も、懸命なリハビリで大会に間に合わせて初戦の残り5分でコートに立ち、プレーした。

 心理士になるための勉強がしたいと進学した佛教大学でもハンドボール部に入部し、いつの間にかクラブ活動中心の大学生活となっていたという。そんななか、突然病魔に襲われたのは2021年、大学2年の夏のことだった。半年間におよぶ検査入院をしたが、原因は不明で手足に障がいを負った藤原は車いす生活となった。それでもスポーツへの情熱が消えることはなかった。退院後、車いすテニス、車いすソフトボール、車いすハンドボールと、いくつかのパラスポーツをやってみた。その中で、藤原が最終的に選んだのは車いすバスケットボールだった。

「練習に参加させてもらったり、大会にもスタッフとして同行させてもらったりする中で、何よりカクテルというチームに入りたいという気持ちが強くなったことが一番の理由です。みんな高みを目指しながらも殺伐としていなくて、和気あいあいとしている雰囲気がいいなと。そして日本代表の選手たちが私のような初心者に対しても本気でぶつかってきてくれるんです。最高の環境だと思いました」

全力でスポーツに取り組んできた藤原はカクテルに巡り合う [写真]=斎藤寿子

 実戦デビューとなった今大会は借り物のバスケ車でのプレーだったが、すでに藤原の体にフィットするようにカスタマイズされた自前のバスケ車を発注済みで、それができあがれば動きも大きく変わるはずだ。いずれにしても、全てがこれからの藤原には無限大の可能性が詰まっている。

 もともとアスリート気質の藤原。車いすバスケもやるからには当然トップを目指す。いつか必ずカクテルの先輩たちと同じように、日本代表としてパラリンピック出場を目指すステージに上がるつもりだ。

取材・文・写真=斎藤寿子

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