4月15日(現地時間14日)から、計16チームによる今シーズンの王座を懸けた激闘、「NBAプレーオフ2018」が幕を開けた。バスケットボールキングでは、プレーオフ出場チームやシリーズ勝敗予想に加え、これまでのプレーオフにおける名シーンや印象的なシリーズ、ゲームなども順次お届けしていく。
<プレーオフ特別企画26>
BEST GAME IN 2000’s
2007年イースタン・カンファレンス・セミファイナル第5戦
クリーブランド・キャバリアーズ×デトロイト・ピストンズ
2勝2敗で迎えた“負けられない”一戦
2007年のイースタン・カンファレンス・ファイナルは、03年からカンファレンス・ファイナルに連続出場し、04年にはNBAチャンピオン、05年にはファイナル出場を果たした百戦錬磨のピストンズと、前年にプレーオフへ初出場したレブロン・ジェームズ率いるキャブスが激突。
前年のプレーオフではカンファレンス・セミファイナルで対決した両チーム。この時はピストンズが2連勝するも、キャブスが3連勝で王手。その後なんとかピストンズが2連勝し、4勝3敗でシリーズを制していた。
07年のシリーズでは、ピストンズが初戦からレブロンを徹底マーク。常にレブロンの周囲に2、3人のディフェンダーが群がるプランを遂行し、最初の2戦を平均わずか14.5得点、フィールドゴール成功率35.3パーセントに抑え込み、80得点未満というロースコアの展開に持ち込み2連勝。
ところが、キャブスのホームに場所を移した第3、4戦はレブロンが復調。第3戦で32得点、第4戦では25得点をマークし、キャブスがシリーズを2勝2敗のタイに持ち込んだ。4戦までを終えて、得失点差はわずか4.0点という接戦。勝利したチームが王手をかけることとなる第5戦は、シリーズ最大の見どころとなった。
■GAME5 キャバリアーズ 109-107 ピストンズ
4Q終盤からレブロンが覚醒し、ピストンズを奈落の底へ突き落とす
前半から一進一退のシーソーゲームを展開
ピストンズのホーム、ザ・パレス・オブ・オーバーンヒルズで迎えた第5戦は、戦前の予想どおり、同点16度、リードチェンジ22度という白熱した展開となり、2度のオーバータイムまでもつれる大激戦を繰り広げた。
試合時間58分間のうち、約36分間リードを保っていたのはピストンズ。リチャード・ハミルトンが26得点5アシスト、チャウンシー・ビラップスが21得点7リバウンド4アシスト、クリス・ウェバーが20得点7リバウンド、ラシード・ウォーレス(いずれも元ピストンズほか)が17得点8リバウンドを挙げるなどバランスよく得点を奪った。
ただし、ゲームはリードが入れ替わるシーンの連続だった。第1クォーター、ピストンズが一時7点のリードを奪うも、キャブスがすぐさま反撃。すると今度はハミルトンらが加点して29-23。ピストンズが6点をリード。
第2クォーターに入ると、キャブスはアンダーソン・バレージョやドリュー・グッデン(共に元キャブスほか)の得点が決まり、徐々に点差を詰めていく。そして残り2分43秒、レブロンのパスを受けたバレージョがショットを決めて47-46とし、キャブスがついに逆転。その後、両チームが逆転を繰り返し、前半はピストンズが52-51の1点リードで折り返す。
レブロンの超絶スコアリングショー開演
後半に入ると、序盤はビラップスとテイショーン・プリンス(元ピストンズほか)が加点し、ピストンズがリードを8点に広げる。するとキャブスはジドルナス・イルガウスカス(元キャブスほか)とレブロンの得点などで追い上げ、残り3分42秒にバレージョの得点が決まり、65-65の同点に追いつく。その後は両チーム譲らずの展開で70-70のタイスコアで最終クォーターへ。
第4クォーター。キャブスが2、3点リードという状況を続ける中、ピストンズは残り4分53秒にハミルトンのフリースローで逆転に成功すると、一気にゲームを締めにかかった。ウォーレス、ハミルトンが得点を重ね、残り3分15秒で88-81。7点リードを奪ったのである。
もちろん、7点リードというのはセイフティリードとは言えないのだが、会場はピストンズのホーム。経験値では圧倒的にピストンズが勝っており、キャブス劣勢という状況だったのは間違いない。そんな中、突如としてスイッチが入った男がいた。それがレブロンだ。
まずはプリンスをはじめ、ハミルトンやビラップス、ハンターといったディフェンダーを蹴散らし、ペイント内に跳び込んでレイアップを決めると、グッデンのフリースロー1本をはさんで今度は3ポイントシュートをヒット。さらにレブロンは、ドライブから強烈なダンクをたたき込み、残り31.4秒にキャブスが89-88と逆転。
負けられないピストンズは、ビラップスがお返しとばかりに長距離砲をねじ込み、残り22.9秒でピストンズが再び2点リードを奪う。しかしこの日のレブロンが引き下がることはなかった。残り9.5秒にも右サイドからリムへ突進して再びダンクをさく裂し、ゲームは91-91で延長戦へ突入した。
アタックモードのレブロンに対処できなかったピストンズ
オーバータイムに入っても、レブロンの勢いは止まることを知らなかった。イルガウスカスのアシストから決めたダンクをはさみ、フリースローで着実に得点していった。さらに、ビラップスとジェイソン・マキシエル(元ピストンズほか)のダブルチームをかわし、右45度付近からプルアップジャンパーをヒット。残り33.7秒でキャブスは100-96と4点のリードを得た。
だがここからピストンズが意地の反撃を見せる。残り30秒にウォーレスがフリースローを2本、残り3.1秒にはレブロンのファウルで得たフリースローをビラップスが確実に決めて同点に追いついたのである。
2度目の延長は、レブロンが左サイドからステップバックジャンパーを決めてキャブスが先取点を挙げると、ピストンズはウェバー、ハミルトンの得点で2点をリード。すると、今度はレブロンがトップ・オブ・ザ・キーでビラップスをビハインド・ザ・バックのクロスオーバードリブルで交わしてプルアップジャンパーをリムに突き刺し、試合はまたもや同点に。
残り1分28秒、ウェバーの3ポイントプレーが決まり、ピストンズが3点をリードしたものの、そこからわずか14秒後、レブロンが2人のディフェンダーをあざ笑うかのように3ポイントシュートを放った。これが見事に決まり、キャブスはすぐさま同点に追いついた。
そこから、両チームの選手がショットミスを続け、残り11.4秒でキャブスがタイムアウト。そして最後のオフェンスを迎えた。トップ・オブ・ザ・キーでボールを受け取ったレブロンは、残り約5秒でリングへアタック開始。3選手の間をすり抜け、残り2.2秒に決勝点となるレイアップを決めて、長い激戦に終止符を打った。
レブロンがチーム最後の25得点を1人でたたき出す
この日レブロンがマークしたのは48得点。フィールドゴール33投中18本、3ポイントシュートを3投中2本、フリースローは14投中10本をリムに沈め、9リバウンド7アシスト2スティールも記録。
なにより恐ろしかったのは、第4クォーター終盤以降、キャブスが挙げた30得点のうち29得点、最後の25得点すべてを自らで決めてみせたのである。プレーオフ史上、ここまで独力といっていい超絶パフォーマンスはいまだかつてなかったのではないだろうか。
「やれることはやった。でも、止められなかった」とビラップスが語ったように、ピストンズのディフェンスは決して悪いものではなかった。レブロンに対し、チーム全体で包囲網を敷いていたにもかかわらず、最後まで対処できなかったのである。試合時間が過ぎていくにつれて、レブロンの右手から放たれるショットは、まるでリムに吸い込まれていくかのような錯覚に陥るほど、何度もネットを揺らしていった。
試合後、複数の現地メディアに対して「どうして驚かなきゃならないんだ? 俺はすばらしいムーブをいくつも決めていた。彼ら(ピストンズ)は間違いなくすばらしいディフェンス力を誇るチームだ。でも俺は、アタックしてやろうと決めていたんだ」とレブロンは語った。
ダンク、ジャンパー、レイアップ、フリースローといったあらゆる得点パターンを、レブロンは交互に使い分けていた。そしてキャブスはピストンズを下し、シリーズ突破に王手をかけた。「間違いなく重要な勝利だ。クリーブランドにとって、最大の勝利の1つ」(レブロン)という言葉のとおり、キャブスは貴重な1勝を挙げたのである。
キャブスは翌第6戦にも勝利し、この年にチーム史上初となるファイナル進出を果たした。レブロンがアタックしようと決心したこの試合は、キャブスのチーム史上、いやNBAのプレーオフ史上においても、最高級のパフォーマンスとして今後も永遠に語り継がれていくことだろう。
NBAアナリストでWOWOWの解説 佐々木クリスが語る「2007年イースタン・カンファレンス・ファイナル第5戦 クリーブランド・キャバリアーズ×デトロイト・ピストンズ」
「“現役最強”、その名を欲しいままにしてきたレブロン。かつて『勝負所ではパスを優先する彼はマイケル(・ジョーダン)よりマジック(・ジョンソン)』と偉人達に比較されてきた。しかし、このゲームを改めて振り返ると、そんな言葉を払拭し相手を打ち負かすためには手段を選ばない残忍さが浮かび上がる。必要に応じて得点もアシストも挙げ“正しい”プレー選択に胸を張る唯一無二の漢。今季プレーオフでも第4クォーターまたは延長戦において、残り5秒を切って勝ち越しのブザービーターをすでに2本も沈めているレブロン。キャリア合計5本は3本のジョーダンを上回り、現役最強に残された高みは史上最強しかない… 伝説は続く」。