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『B MY HERO!』
4月15日(現地時間14日)から、計16チームによる今シーズンの王座を懸けた激闘、「NBAプレーオフ2018」が幕を開けた。バスケットボールキングでは、プレーオフ出場チームやシリーズ勝敗予想に加え、これまでのプレーオフにおける名シーンや印象的なシリーズ、ゲームなども順次お届けしていく。
<プレーオフ特別企画23>
GREATEST SERIES IN NBA HISTORY ~歴代名シリーズを振り返る~②
1995年ウエスタン・カンファレンス・セミファイナル
ヒューストン・ロケッツ×フェニックス・サンズ
2017-18シーズン。ジェームズ・ハーデン率いるヒューストン・ロケッツは、フランチャイズ史上トップとなる65勝17敗を挙げ、優勝候補の一角としてプレーオフに臨んでいる。
そのロケッツが前回優勝したのは1995年。94年の初優勝と合わせ、2連覇を成し遂げていた。この年のNBAファイナルでは、オーランド・マジックをスウィープ(4戦無敗)で下していたものの、ディフェンディング・チャンピオンとして迎えた94-95シーズンは、苦難の連続だった。
開幕9連勝と好スタートを切り、順調に貯金を増やしていったのだが、1月中旬以降の11試合のうち、5試合で90得点未満、うち2試合で80得点未満と、得点力不足に陥っていた。当時リーグ最高級のビッグマン、アキーム・オラジュワン(元ロケッツほか)を擁していたものの、連覇を狙うには黄信号が灯っていたのである。
そこでロケッツは大型トレードを断行。95年2月15日(同14日)、先発パワーフォワードのオーティス・ソープ(元ロケッツほか)とドラフト指名権などを放出し、ポートランド・トレイルブレイザーズからオールスター選手のクライド・ドレクスラー(元ブレイザーズほか)とシューターのトレイシー・マレー(元ワシントン・ブレッツほか)を獲得。ディフェンディング・チャンピオンが主力選手を入れ替えたことで、リーグを驚かせた。
201センチのシューティングガード、ドレクスラーはオラジュワンとヒューストン大でチームメートだったため仲が良く、互いに「いつか同じチームでプレーしたいね」と話していたが、ここにきてそれが実現。インサイドにオラジュワン、ペリメーターにドレクスラーという、リーグ最高級のデュオがヒューストンに誕生した瞬間だった。
しかし、得点力をアップさせた代償として、ロケッツはリバウンド力を失い、ドレクスラー加入後も苦戦。2月末から5連敗を喫し、レギュラーシーズンを3連敗で終了。47勝35敗、ウエスタン・カンファレンス6位という低位置でプレーオフに臨んだ。
リーグ2位の60勝を挙げたユタ・ジャズとの1回戦。ロケッツは自慢のオフェンス力が爆発。第2戦ではチーム全体で19本の3ポイントシュートを成功させ、4選手が21得点以上を挙げて140得点。1勝2敗で王手をかけられた第4戦では、ドレクスラーが41得点、オラジュワンが40得点と両輪が大暴れを見せて快勝。第5戦でもオラジュワンが33得点、ドレクスラーが31得点の大活躍でジャズを粉砕し、ウエスト準決勝へ。
そこでロケッツを待ち構えていたのは、ウエスト第2シードのサンズ。1回戦でブレイザーズをスウィープで片付け、打倒ロケッツを果たすべく、闘志を燃やしていた。
というのも、両チームは前年のプレーオフ、ウエスト準決勝で対決しており、第3戦からロケッツが3連勝するも、サンズが第6戦に勝利し、最終戦でロケッツに軍配。そのため、サンズは前年の雪辱を果たすべく、初戦からエンジン全開で立ち向かってきた。
■GAME1 サンズ 130-108 ロケッツ
サンズのホーム、アメリカ・ウエスト・アリーナで迎えた初戦。第2クォーターで43-27とロケッツを圧倒したサンズが先勝。チャールズ・バークリー(元サンズほか)が26得点11リバウンド、ベテランのAC・グリーン(元ロサンゼルス・レイカーズほか)が25得点15リバウンド、KJことケビン・ジョンソン(元サンズほか)が21得点13アシストを奪うなど、計6選手が2ケタ得点をマーク。サンズはチーム全体でフィールドゴール成功率60.5パーセントを残したことに加え、リバウンド数で48-29とロケッツを圧倒した。
■GAME2 サンズ 118-94 ロケッツ
第1クォーターで35-19、第2クォーターを26-21としたサンズが前半を終えて21点の大量リードを奪い、そのまま攻撃の手を緩めずにロケッツを制圧。バークリーが30得点9リバウンド、KJが29得点12アシストと、両輪がサンズを2連勝へと導いた。ロケッツはオラジュワンが25得点、ロバート・オーリー(元レイカーズほか)が20得点8リバウンド5アシスト、ドレクスラーが15得点5リバウンド7アシストを残すも、この試合でもリバウンド数で34-45と大差がつき、主導権を握れずに連敗。
■GAME3 ロケッツ 118-85 サンズ
ロケッツのホーム、ザ・サミットに会場を移したこの試合。ロケッツが息を吹き返し、全クォーターでサンズを上回る得点を奪い、33点差をつけるブロウアウトを見せた。この試合でロケッツは47-35とリバウンド数でサンズを圧倒し、チーム全体でフィールドゴール成功率53.5パーセントを残したオフェンスが光った。オラジュワンが36得点11リバウンド、ドレクスラーが23得点9リバウンド8アシスト3スティール、オーリーが17得点7リバウンドの活躍を見せた。一方のサンズでは、左膝が悲鳴を上げるなどコンディション不良に陥ったバークリーが、10本放ったショットをすべてミスしてしまい、わずか5得点に終わった。
■GAME4 サンズ 114-110 ロケッツ
前半を終えて64-54とリードしていたロケッツだったが、第3クォーターにサンズが37-24と波に乗り逆転し、アウェーでロケッツから逃げ切ることに成功。3勝1敗とし、圧倒的に有利な展開へと持ち込んだ。KJが24投中18本のショットを沈めるなど43得点に6リバウンド9アシスト3スティールという大車輪の活躍でサンズをけん引。バークリーは26得点9リバウンド、ウェズリー・パーソン(元クリーブランド・キャバリアーズほか)が16得点、グリーンが14得点12リバウンドと続いた。ロケッツではオラジュワンが38得点8リバウンド4アシスト5ブロック、ドレクスラーが22得点5リバウンド6アシスト、オーリーが17リバウンド6アシストと活躍したが、ホームで痛い黒星を喫し、窮地に追い込まれてしまう。
■GAME5 ロケッツ 103-97 サンズ
シリーズ初の延長にもつれたこの試合。ホームのサンズはバークリーとグリーンが共に20リバウンドを挙げるなど、リバウンド数で68-49と圧倒。両チームともフィールドゴール成功率が4割を下回る展開の中、シリーズに決着をつけるべく、サンズはKJが28得点8リバウンド8アシスト2ブロック、バークリーが17得点、パーソンが15得点と奮闘したものの、ロケッツに惜敗。そのロケッツではオラジュワンが31得点16リバウンド、ケニー・スミス(元ロケッツほか)が5本の3ポイントシュート成功を含む21得点に7リバウンド7アシスト、オーリーが11得点11リバウンド5アシスト。ベンチからマリオ・エリー(元ロケッツほか)とチャッキー・ブラウン(元キャブスほか)が共に15得点をマークし、連覇への夢をつなげた。
■GAME6 ロケッツ 116-103 サンズ
この試合、サンズはシリーズに決着をつけるべく、バークリーがこのシリーズベストとなる34得点に14リバウンド3スティールと奮闘。KJが14得点10アシストを挙げるなど、計5選手が2ケタ得点を記録したのだが、ホームのロケッツが第4クォーターで29-19と突き放し、3勝3敗のタイに持ち込んだ。オラジュワンが30得点8リバウンド10アシスト2スティール5ブロックと八面六臂の活躍を見せたほか、ドレクスラーが20得点8リバウンド、ベンチからサム・キャセール(元ミルウォーキー・バックスほか)が16得点4アシストをたたき出すなどチーム一丸となってサンズを下した。
■GAME7 ロケッツ 115-114 サンズ
運命の最終戦。主導権を握っていたのはホームのサンズだった。前半を終えて51-41と10点をリード。第3クォーター残り5分25秒の時点でも、68-59とリードしていた。しかし、ロケッツは大黒柱オラジュワンをベンチで休ませる中、ドレクスラーを中心に22-11のランを見せ、81-79と逆転。ロケッツは2点リードでこのクォーターを終えた。
ルディ・トムジャノビッチHCはオラジュワンに対して、コートへ戻すかどうか、一度も聞かなかったという。「第4クォーターに望みをつなげたんだ。彼らは僕らに対して、ここまで優位に立っていたけれど、(最後に)僕が決着をつけることができると思っていた」とオラジュワンは当時を振り返っている。
サンズはこの試合、KJの1オン1に頼らざるをえなかった。バークリーが18得点23リバウンド5アシストを挙げたものの、膝の痛みが限界に達し、オフェンスでけん引することが困難だったからだ。そこでスミスとの1オン1をメインにし、サンズは得点を伸ばしていった。また、この試合の第4クォーターだけで16得点したオラジュワンに対しては、ダブルチーム、そして残り2分間はトリプルチームを敷くなど徹底してガードした。
ゲームは残り約45秒、スミスのフリースロー2本が決まってロケッツが110-109と1点をリード。すると残り21.6秒、ファウルを受けたKJがフリースローラインへ。
この日のKJは、ここまで20本すべてのフリースローを決めるなど絶好調だった。しかし、21投目を当然のごとく決めるも、22投目となった2投目を痛恨のミス。リバウンドを奪ったロケッツが、残り20.4秒でタイムアウトを要求。
110-110の同点で迎えた終盤。ロケッツはハーフコート付近でボールを受け取ったオーリーが、左コーナーにいたエリーへロングパスを通す。リング下にはオラジュワンとダニー・シェイズ(元デンバー・ナゲッツほか)がいた。
「(エリーに)ジャンパーを打たせるか、アキームにダンクを許すかのどちらかだった」と振り返ったシェイズ。この場面でシェイズはエリーにジャンパーを打たせることを選択。
するとエリーは土壇場で見事な3ポイントシュートをネットに沈め、113-110と、残り7.1秒でロケッツに3点リードをもたらした。「俺は重要なショットを決めたんだ。まぁそれは冗談だけどね」とエリーは語ったが、サンズの息の根を止めるのに十分なほど、強烈なインパクトを残したことは間違いない。ショットを決めた後、エリーが見せた投げキッスは“Kiss of Death”として、プレーオフ史に残る劇的な瞬間として語り継がれている。
これが事実上の決勝弾となったこの試合。ロケッツが1点差で逃げ切り、ウエスト決勝へと駒を進めた。
エリーがショットを放った場面について、のちにこう振り返っている。
「ロバートができるかぎり早くパスを回したことで、ダニー・エインジ(元ボストン・セルティックスほか)がマークから外れて、アキームへダブルチームに行ったんだ。まるでホーレス・グラントのマークを外れて、ジョン・パクソン(共に元シカゴ・ブルズほか)に3ポイントシュートを打たせてしまった1993年のファイナル第6戦と同じような感じだった。彼がまた同じことをしてしまうなんて、信じられなかった。だから俺は『オーケー。じゃあ俺が見せてやるよ』って感じさ。手からボールが離れた瞬間、いい感触だったんだ」。
この試合で22投中21本のフリースローを決めるなど、ゲームハイの46得点に10アシストと、驚異のパフォーマンスを見せたKJだが、シリーズを終えて「ベストなチームがこのシリーズに勝ったということ。言い訳なんてできない。彼らは僕らに対して3連勝したんだ。そのうち2回がアウェーだったにもかかわらずね」と肩を落とした。
満身創痍だったバークリーは「100パーセントやり終えたと言うつもりはない。だが、これが俺のラストゲームと言うことになるだろう。そのときが来たんだ。俺のスキルがこれ以上、上達することはない。むしろ落ちていくようにしか思えないんだ」と引退宣言に近いコメントを残し、2年連続でロケッツに敗れた悔しさを語った(のちに引退を撤回)。
サンズはこのシーズン、208センチのオールラウンダー、ダニー・マニング(元ロサンゼルス・クリッパーズほか)を獲得し、戦力増強に成功したものの、シーズン絶望となるケガのため戦線離脱していた。また、シーズン中はチーム3位の平均15.6得点を挙げていたダン・マーリー(元サンズほか)がシリーズをとおして精彩を欠き、平均わずか6.1得点に終わったことも、敗因の1つとなった。
それでも、KJが称賛したように、このシリーズはロケッツを称えるべきだろう。バーノン・マックスウェルとカール・エレーラ(共に元ロケッツほか)という主力2人を欠いた中、オラジュワンを中心に驚異的な粘りを見せて、サンズをねじ伏せたことは見事というほかない。
サンズに勝利したロケッツは、ウエスト決勝でサンアントニオ・スパーズを4勝2敗で下し、NBAファイナルではオーランド・マジックにスウィープで勝利して2連覇を達成。93年まで3連覇を果たしていたブルズのエース、マイケル・ジョーダン(元ブルズほか)が不在だったとはいえ、連覇したことは称賛に値する。
第6シードから勝ち上がったロケッツは、1回戦でリーグ2位の60勝を挙げたジャズ、ウエスト準決勝でリーグ3位の59勝をマークしたサンズ、ウエスト決勝ではリーグトップの62勝を残したスパーズを下し、ファイナルではイーストトップでリーグ4位の57勝を記録したマジックを倒したのだから、文句なしのチャンピオンと言っていいだろう。
なお、当時のロケッツが連覇できると確信したのは、1回戦でジャズを下したときだったという。オラジュワンは「僕らがユタを下したとき、僕は(連覇できると)信じることができた。カール・マローン(元ジャズほか)にジョン・ストックトン(元ジャズ)、ジェリー・スローンHCを軸に、彼らは60勝を挙げていた。彼らはまぎれもなく本物であり、優勝候補だった。だから彼らに勝利した後、僕はどんなことだって可能なんだと思った」と明かしていた。
ちなみに、この年のロケッツは、スパーズとのウエスト決勝第5戦から、オラジュワン、ドレクスラー、スミス、オーリーの布陣にエリーを加えた5人でスターターを形成。196センチのエリーをスモールフォワード、細身の208センチだったオーリーをパワーフォワードとして起用したのである。213センチのオラジュワンがいたとはいえ、スモールラインナップと言っても過言ではない。
しかし、オラジュワンにボールを入れてからオフェンスを展開するロケッツは、このラインナップにより破壊力が格段に増した。エリーとオーリーは共に3ポイントシュートを決めることができるため、オラジュワンがペイント内で自由にプレーできるスペースを与え、4選手が長距離砲を放つことで、相手チームのディフェンスは的を絞ることが困難になった。
その中で、エリーはタフなディフェンスと勝負強いショットで活躍した。オーリーは、“ストレッチ4”の先駆者として、攻防両面で見事なプレーを見せ、ロケッツの2連覇に大きく貢献。
“クラッチ・シティ”と称されたこの年のロケッツは、エリーが決めたこのショットだけでなく、多くの劇的ショットが生まれた。スパーズとの初戦ではオーリーが決勝ジャンパーをヒット。ファイナル初戦では第4クォーター終盤にスミスが延長に持ち込む3ポインターを決め、延長終盤にはオラジュワンが決勝点となるティップインに成功。ファイナル第3戦では、オーリーがオラジュワンのパスを受けて決勝3ポインターを決めるなど、いくつもの名場面を生んだ。
オラジュワンという絶対的リーダーを中心に連覇を遂げたロケッツ。「NBA史上最強チームはどこだ?」という話題にはほとんど入ることがなく、96年には大の苦手としていたシアトル・スーパーソニックスにスウィープで敗退してしまったものの、連覇したことで、NBAに確かな足跡を残したのである。
「チャンピオンのハートを見くびるな」——。トムジャノビッチHCが語ったこの言葉は、第6シードから勝ち上がったロケッツというすばらしいチームを端的に表していた。
WOWOW NBA担当 チーフプロデューサー早川 敬が語る「1995年ウエスタン・カンファレンス・セミファイナル ヒューストン・ロケッツ×フェニックス・サンズ」
「青春まっただ中の90年代、バスケとNBAにドハマりしていた僕は、流行りの洋楽にのせたスーパープレー集などのVHSを収集し、それこそ擦り切れるまで見ていました。『NBA SUPERSTARS2』は特に好きで、ドレクスラーはGuyの「Teddy’s Jam2」、バークリーはSteppenwolfの「Born to be wild」等々、バスケ遍歴だけでなく音楽遍歴にも多大な影響を受けました。その中でオラジュワンは、デイビッド・ロビンソン(元サンアントニオ・スパーズ)とパトリック・ユーイング(元ニューヨーク・ニックス)とまとめて、“THE CENTERS”という括りで扱われていて、ちょっと物悲しくなったものです。※その後初優勝した1994年に発売された『NBA SUPERSTARS3』ではSoulhatの「Bonecrusher」にのせてついにピンで扱われることになりました。そういえば、シーズン途中で主力を入れ変えたってなんだか今季のキャブスみたいですね」。