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4月15日(現地時間14日)から、計16チームによる今シーズンの王座を懸けた激闘、「NBAプレーオフ2018」が幕を開ける。そこでバスケットボールキングでは、プレーオフ出場チームやシリーズ勝敗予想に加え、これまでのプレーオフにおける名シーンや印象的なシリーズ、ゲームなども順次お届けしていく。
<プレーオフ特別企画⑥>
GREATEST SERIES IN NBA HISTORY ~歴代名シリーズを振り返る~①
2001年イースタン・カンファレンス・セミファイナル
フィラデルフィア・セブンティシクサーズ×トロント・ラプターズ
2000-01シーズン。イースタン・カンファレンスではA.I.ことアレン・アイバーソン(元シクサーズほか)率いるシクサーズが開幕10連勝を飾り、勢いそのままにイーストを独走。シーズン途中には当時リーグ屈指のディフェンシブ・ビッグマンだったディケンベ・ムトンボ(元シクサーズほか)をトレードで獲得し、イーストトップとなる56勝26敗でシーズンを終える。
2000年にチーム史上初のプレーオフ進出を果たしたラプターズは、得点源の1人だったトレイシー・マグレディ(元オーランド・マジックほか)が移籍した中、ビンス・カーター(現サクラメント・キングス)を中心に開幕を迎えるも、シーズン序盤は連勝と連敗を繰り返してしまう。そこでチームはロースター改革に着手。クリス・チャイルズ、ジェローム・ウィリアムズ、キオン・クラーク(いずれも元ラプターズほか)らを加えたことで、タフなディフェンスを遂行するチームへと変貌。シーズン最後の14試合で11勝と一気に貯金を増やし、イースト5位の47勝35敗をマークした。
シクサーズはインディアナ・ペイサーズとのファーストラウンドを3勝1敗で突破。ラプターズはニューヨーク・ニックス相手に1勝2敗から2連勝してシリーズ突破し、カンファレンス・セミファイナルを迎えた。
■GAME1 ラプターズ 96-93 シクサーズ
シクサーズのホーム、ファースト・ユニオン・センターで迎えた初戦。アイバーソンがゲームハイの36得点に加え、8リバウンド4アシスト7スティールをマークしてシクサーズをけん引。シクサーズは第1クォーター中盤まではリードを奪う場面もあったが、そこからは終始ラプターズが主導権を握り、初戦を制した。35得点7アシストを記録したカーターに加え、ベンチからベテランシューターのデル・カリー(元シャーロット・ホーネッツほか)が4本の長距離砲を含む20得点と大当たりを見せるなど、計5選手が2ケタ得点を挙げた。試合終盤、シクサーズはアイバーソンの得点で1点差まで追い上げるも、カーターがフリースロー2本を確実に決めて逃げ切りに成功した。
■GAME2 シクサーズ 97-92 ラプターズ
初戦に勝利したラプターズは、カーターが10得点を挙げるなど31-21とし、第1クォーターに10点差をつける。だが、この日はシクサーズ、特にアイバーソンが黙っていなかった。第2クォーターだけで20得点をマークしたアイバーソンの活躍もあり、シクサーズが同クォーターを28-16でリードし、49-47で前半を終える。両チームとも第3クォーターを24-24の同点で終え、最終クォーターに突入すると、アイバーソンがまたも爆発。このクォーターだけで19得点を量産し、終わってみればプレーオフ歴代11位タイとなる54得点を挙げ、シリーズをタイに戻す。
試合を終えたアイバーソンは「いつだって、俺を止めることができる唯一の人間は俺自身だと感じている。そして俺にとって唯一関心があるのは勝つことだ。もし俺のショットが不発でも、チームが勝つならばそれでいい」と誇らしげに語った。
■GAME3 ラプターズ 102-78 シクサーズ
豪快極まりない超絶ダンクのイメージが定着していたカーターは、“ダンクだけの選手”と思われることを拒み続け、よりオールラウンドなプレーができる選手を目指し、アウトサイドシュートにも磨きをかけてきた。その成果が表れたのがこの試合だった。なんと前半だけで8本もの3ポイントシュートをネットに突き刺し、前半だけで34得点と大爆発。カーターの活躍もあり、ラプターズは58-41とし、前半でシクサーズから大量リードを奪った。後半に入ってもラプターズの猛攻は続き、カーターは試合をとおして50得点、当時歴代最多タイとなる9本の3ポイントシュートを決めてみせた。アイバーソンは8アシストを記録したものの、22投中7本しかショットを決められず、23得点に終わる。
■GAME4 シクサーズ 84-79 ラプターズ
シクサーズはカーターをはじめ、ラプターズの選手たちに対して鉄壁ディフェンスを敷き、タフショットを誘発。ラプターズのフィールドゴール成功率をわずか33.3パーセントに抑え込んでみせた。ラプターズは試合残り2分46秒にチャイルズが3ポイントシュートを決めて78-78の同点に持ち込むも、直後のポゼッションでアイバーソンが値千金の3ポイントシュートをヒットさせて勝負あり。この試合のシクサーズは、アイバーソンが30得点、アーロン・マッキー(元シクサーズほか)が18得点、ムトンボが13得点17リバウンド4ブロックを記録。カーターは25得点を挙げるも、放った27本のショットのうち、19本が空を切るなど絶不調だった。
■GAME5 シクサーズ 121-88 ラプターズ
試合前、シーズンMVPを受賞したアイバーソンが序盤から絶好調。前半だけで29得点、試合全体で8本の3ポイントシュート成功を含む52得点の大暴れで、ラプターズに一度もリードを許さずに完勝し、シリーズ突破に王手をかけた。マッキーが19得点9アシスト、ムトンボが14得点を挙げた中、伏兵ジュメイン・ジョーンズ(元シクサーズほか)もチームに勢いを与えた。ジョージ・リンチ(元シクサーズほか)の負傷離脱によって、この試合から先発に昇格したジョーンズは、自らのアシストで先取点となったアイバーソンの得点を演出すると、マッキーのアシストから3ポイントシュートを含む5連続得点をマーク。試合をとおして9得点4リバウンド3アシストだったが、数字以上の働きで勝利に貢献。
試合後、「俺には今日、バスケットが海のように(広く)見えたんだ」と語ったアイバーソン。キャリア全体で見ても、1試合8本の3ポイントシュート成功はこの日のみ。プレーオフという大舞台で最大限のパフォーマンスを残してみせた。一方カーターは、「(第6戦に向けて)俺は準備できている」とだけ言い残し、会場を後にした。
■GAME6 ラプターズ 101-89 シクサーズ
後がないラプターズが第1クォーター序盤からリードを広げ、シクサーズに一度もリードを許さないゲーム展開に持ち込み、リーズを3勝3敗のタイとし、シリーズ突破に逆王手をかけた。カーターがゲームハイの39得点を挙げ、アントニオ・デイビスとモーリス・ピーターソン(共に元ラプターズほか)がそれぞれ17得点、アルビン・ウィリアムズが15得点とエースを援護射撃。アイバーソンには常にタイトなディフェンスを見せ、24投中18本のショットをミスさせることに成功。第3クォーター終盤に2点差まで詰め寄られた場面では、カーターからパスを受けたピーターソンの3ポイントシュートが決まり、再びリードを広げてシクサーズの反撃を許さなかった。
■GAME7 シクサーズ 88-87 ラプターズ
“Win or Go Home(勝つか家に帰るか)”の最終戦。アイバーソンはこの日も不調で、27本放ったショットのほとんどがリムに嫌われ、成功わずか8本の計21得点。それでも、ゲームハイの16アシストでチームメートの得点を演出した。シクサーズはエース不調のピンチにチームメートがステップアップし、マッキーが22得点、ジョーンズが16得点、エリック・スノウ(元シクサーズほか)が13得点、ムトンボが10得点をマーク。対するラプターズも、カーターが18投中6本のショットしか決められない中、フリースローを8本沈めて20得点。デイビスが23得点、チャールズ・オークリー(元ニックスほか)とチャイルズが11得点を挙げて応戦し、後半は6点差以内の攻防が続く。
第3クォーター残り2分30秒、カーターが3点プレーを決めてラプターズが逆転(65-64)。するとシクサーズはムトンボ、アイバーソン、スノウのフリースローでリードを奪い返す。その後は両チームの意地がぶつかり合い、5点差以内の僅差でゲームは終盤へ。残り2分56秒でマッキーのショットが決まり、シクサーズが88-82と6点リード。その後デイビスが加点し、カーターのパスを受けたカリーが3ポイントシュートを決めて1点差まで詰め寄った。その後アイバーソン、スノウが放ったショットが落ち、ラプターズは最後のチャンスを迎える。
ラプターズのシリーズ突破を懸けた運命のプレーは、カーターの右腕に託された。タイムアウト明け、残り2.0秒の場面でボールを手に取ったカーターは、ポンプフェイクでディフェンダーを跳ばし、左45度からほぼノーマークでショットを放った。しかし、ホームに集まった大勢のシクサーズファンの思いが通じたのか、ボールはリムに嫌われゲームオーバー。シクサーズのカンファレンス・ファイナル進出が決まり、選手たちは抱き合って喜びを分かち合った。選手たちを見守ったファンがあふれんばかりの声援を送り、シクサーズの勝利を祝福した。
シリーズ終了後、第7戦が行われた01年5月21日(同20日)に、カーターがノースカロライナ大の卒業式に出席していたことが明らかとなり、カーターは批判を浴びることとなった。
現地メディア『CBC SPORTS』に対して、カーターは当時このように語っている。
「俺は(シリーズの最後まで)生き残った。ハードにプレーしてきた。必要とされることをやってきた。1本のショットを外しただけで失敗とみなされてしまうのか」。
カーターはこのシリーズで、平均44.6分に出場し、30.4得点6.0リバウンド5.6アシスト1.9スティール2.0ブロックをマーク。リバウンドとアシストを除くすべての項目でチームトップの成績を残してみせた。
アイバーソンが残した平均46.0分33.7得点4.4リバウンド6.9アシスト3.1スティールと比較しても、決して見劣りしないものである。それに、ラプターズが勝利した試合では、カーターの活躍が不可欠だったのは間違いない。
しかしながら、プレーオフという舞台は結果こそがすべて。いくらシーズン中に活躍しても、相手チームから執ようなマークを受けながらプレーオフでも活躍できなければ批判の対象になってしまう。だからこそ、プレーオフではいくつもの名場面が生まれるのだ。カーターはその後、ケガなどもあり、ラプターズの一員としてプレーオフの舞台に立つことは2度となかった。
04年12月にニュージャージー(現ブルックリン)・ネッツへ移籍したカーター。以降も複数のチームでプレーし、2010年にはオーランド・マジックの一員としてカンファレンス・ファイナルにも出場したが、NBAの舞台でチャンピオンシップを勝ち取るには至っていない。
今季でキャリア20シーズン目を迎え、41歳となった今でもプレーし続けるカーター。ここ数年はロールプレーヤーとしての役割を受け入れ、若手をはじめチームメートたちからの人望も厚いカーターだが、プレーオフにおける土壇場のショットをミスしたことで、カーターに対するネガティブなイメージを持つ人は今でも存在する。
プレーオフというのは、カーターのようなすばらしい人格者でさえネガティブなイメージに変えてしまうほど、厳しい舞台なのだ。
一方、このシリーズを制したシクサーズは、リンチやスノウだけでなく、アイバーソンもケガを抱えながら、満身創痍で戦い続けた。イースト決勝ではミルウォーキー・バックスを4勝3敗で下し、1983年以来初となるNBAファイナル進出を果たした。しかし、ロサンゼルス・レイカーズとの頂上決戦は、初戦を制したものの翌第2戦から4連敗を喫し、シクサーズのシーズンは終了した。
それでも、チームに1勝をもたらすべく、ケガを抱えながらも毎試合ハードにプレーし続けたシクサーズの選手たちの雄姿は、今も鮮明に覚えている人がいるに違いない。それほど、プレーオフで起こるプレーの数々は人々を感動させ、脳裏に焼き付かせるほど熱いものがある。
WOWOW NBA解説でおなじみの中原雄が語る「2001年シクサーズ×ラプターズ」
「このシリーズで真っ先に思い出すのはアイバーソンですね。低迷していたシクサーズをラリー・ブラウンHCの元、アイバーソンを中心に組み立てファイナルまでこぎつけました。チームの戦略として、もう一人のガードであるエリック・スノウをポイントガードに立て、アイバーソンをあえて2番のポジションにしたというのも大成功した要因だったと思います。まさにアイバーソンで蘇った年でしたね。しかし、彼がファーストオプションで(精神的にも)負担もかかり、そこまでだったというシリーズでもありました。ただ、アイバーソンがファイナルに行ったということが、小さなガードの選手に希望を与えたと思います」と振り返った。