2018.07.24
4月15日(現地時間14日)から、計16チームによる今シーズンの王座を懸けた激闘、「NBAプレーオフ2018」が幕を開けた。バスケットボールキングでは、プレーオフ出場チームやシリーズ勝敗予想に加え、これまでのプレーオフにおける名シーンや印象的なシリーズ、ゲームなども順次お届けしていく。
<プレーオフ特別企画22>
BEST SHOT IN 2000’s ダーク・ノビツキーが見せた執念のドライブ
2000年から09年にかけて、プレーオフではいくつものスーパーショットが生まれた。コービー・ブライアント(元ロサンゼルス・レイカーズ)やレブロン・ジェームズ(クリーブランド・キャバリアーズ)、ドウェイン・ウェイド(マイアミ・ヒート)、アレン・アイバーソン(元フィラデルフィア・セブンティシクサーズほか)といったスーパースターたちが、大舞台で勝利を呼び込む貴重なショットを決めてきた。
また、ポール・ピアース(元ボストン・セルティックスほか)やマヌ・ジノビリ(サンアントニオ・スパーズ)、チャウンシー・ビラップス(元デトロイト・ピストンズほか)、ヒドゥ・ターコグル(元オーランド・マジックほか)、ロバート・オーリー(元レイカーズほか)といった強心臓の持ち主たちが、勝利を決定づける重要な一発を沈めたことを覚えている人もいるだろう。
そんな中、2000年代のプレーオフにおけるベストショットとして選んだのは、ダラス・マーベリックスのフランチャイズプレーヤー、ダーク・ノビツキーの3ポイントプレー。06年のウエスタン・カンファレンス・セミファイナル(対スパーズ)第7戦。延長に持ち込んだノビツキーのドライブである。
このシリーズは、05年の覇者スパーズに対して、ノビツキー率いるマブスが4試合終了時点で3勝1敗と王手をかけた。しかし、続く第5戦では残り約2分間、スパーズが1点差を守り切って辛勝。翌第6戦でも、終盤にフリースローを決めたスパーズが勝利し逆王手。ディフェンディング・チャンピオンの意地を見せつけ、スパーズは最終戦をホームで迎えた。
この第7戦で、試合の大部分をリードしていたのはマブスだった。ノビツキー、ジェイソン・テリー(現ミルウォーキー・バックス)、ジョシュ・ハワード(元マブスほか)、ジェリー・スタックハウス(元ピストンズほか)を中心に、マブスは試合を進めていく。
しかし、スパーズはティム・ダンカン(元スパーズ)、トニー・パーカー、ジノビリを中心に反撃。第4クォーター残り32.9秒に、ジノビリの3ポイントシュートが決まって104-101と3点リードに成功。試合巧者のスパーズは、マブスを土俵際まで追い詰めた。
残り時間は約30秒。マブスがボールを託したのは、もちろん大黒柱ノビツキーだった。ノビツキーと聞いて真っ先に思い浮かぶのは、やはり華麗なアウトサイドシュートだろう。それでもこの頃のノビツキーは、ドライブやポストプレーでも得点を奪うことのできる万能型スコアラーへと変貌していた。スパーズとのシリーズでは平均11.4本のフリースローを獲得し、10.4本を決めていた(成功率91.3パーセント)。
シリーズ最終戦。勝てばカンファレンス・ファイナル進出、負ければシーズン終了という場面で、ノビツキーが選んだのはドライブだった。ノビツキーはこのプレーについて、のちにこう振り返っている。
「第6戦と似たような状況だった。僕らにはあまり時間が残っていなかったから、僕は3ポイントシュートを打たされてしまい、ゲームオーバーになった。でもこの時はまだ多くの時間があったから、リングに近い位置でなるべくクリーンなショットを狙うようにと、ドライブを選択したんだ。ボールがどのようにしてリングを通過したのかはわからない。マヌ(・ジノビリ)が僕の手をたたいたからね。(入ってくれて)ラッキーだった」。
ノビツキーはリングに向かって突進し、後ろからジノビリに手をつかまれる中、ノビツキーの手から放たれたショットはリングに転がり込み、3ポイントプレーのチャンスを得た。ノビツキーはアウェーの大ブーイングを浴びる中、いつもの綺麗なフォームでフリースローを当然のごとく決め切った。マブスは土壇場で同点に追いつき、試合は延長へ突入。
するとマブスは、延長で吹っ切れたかのように得点を量産し、最終スコア119-111で見事な勝利を飾り、03年以来、フランチャイズ史上3度目となるカンファレンス・ファイナル進出を決めた。
ノビツキー率いるマブスは、これまでのプレーオフでスパーズに2度も敗れてきた。01年はウエスト準決勝で1勝4敗、03年のウエスト決勝は2勝4敗でシーズンを終えており、苦い思いを経験してきた。
そのマブスにとって、打倒スパーズを成し遂げるターニングポイントとなったのは、1999年のスパーズ初優勝時に先発ポイントガードを務めていたエイブリー・ジョンゾン(元スパーズほか)が指揮官に就任したことだろう。04-05シーズンにアシスタントコーチに就任すると、シーズン途中にヘッドコーチへと昇格し、16勝2敗という驚異的な成績を残した。翌05-06シーズンには、タフでフィジカルなディフェンスを遂行するチームへと進化させたのである。
04年オフにスティーブ・ナッシュ(元フェニックス・サンズほか)、05年オフにはマイケル・フィンリー(元マブスほか)というスター選手がマブスを退団し、ノビツキーは名実ともにチームを背負う大黒柱となった。そして自ら得点機会をクリエイトできる選手となり、リーグを代表するプレーヤーへと進化していく過程にいたのである。
ノビツキーはシリーズ終了後、「僕らは、今度こそ(スパーズに)勝利する時なんだと信じていた」と語っている。それはつまり、自身とチームの成長を肌で感じ、かつてないほどの自信を身に付けていたということだった。
連覇を目指す前年覇者と、覇権奪取に挑む挑戦者。当時のスパーズとマブスは、まさにこの言葉があてはまるほど、リーグを代表するチームだった。そしてスパーズをけん引するダンカンはシリーズ平均32.3得点11.7リバウンド3.7アシスト2.6ブロック、マブスの大黒柱ノビツキーは同27.1得点13.3リバウンド2.7アシスト1.4スティールを記録し、互いにベストを尽くし合った。
そして最終戦の延長までもつれた大激戦を終えた後、印象的だったことがある。普段は口数の少ないダンカンが「私がこれまでプレーしてきた中で、ベストシリーズだ。両チームが全てを出し尽くした」と最大級の賛辞をマブスへ送り、ノビツキーも「信じられないくらいすばらしいシリーズだった。間違いなく特別なシリーズだ」と相手へのリスペクトを口にしていたことだった。互いにベストを尽くし合い、最後の最後まで戦い抜いた男たちの口から発せられた言葉には、プレーオフという大舞台でプレーする選手として、理想形に近い感情が込められていたと言っていいだろう。
この年、マブスはウエスト決勝でナッシュ率いるサンズを4勝2敗で振り切り、フランチャイズ史上初となるNBAファイナル進出を果たした。結果はヒートに2連勝から4連敗という悔しい負け方を経験し、翌06-07シーズンはリーグトップの67勝を挙げながらプレーオフ1回戦敗退という屈辱的な終わり方をしてしまい、ノビツキーとマブスの初優勝は11年までお預けとなった。
そのため、ノビツキーがこのシリーズ最終戦で決めた3ポイントプレーは、優勝に直結したものではなく、かといってその後数年の王朝時代をもたらしたものでもない。
それでも、普段は落ち着きがあり、どちらかというと優雅かつ華麗なプレーが印象的なノビツキーががむしゃらにリムへアタックを仕掛け、シリーズの勝敗がかかった重要な場面で3ポイントプレーを決め切ったシーンは、試合に絶大な影響を与える“真の決定力”がノビツキーに芽生えた瞬間に思えた。ダンカンとのやり取りを見ていても、それが伝わってきたと感じた人もいたはず。
あれから約3年が経過した09年。『NBA.com』に1本の動画が投稿された。タイトルは“Dirk Nowitzki’s Favorite Playoff Moment”。そこでノビツキーがセレクトしたシーンは、06年のスパーズとのシリーズ最終戦に見せた3ポイントプレーだった。
「これまでのプレーオフで、スパーズに一度も勝ったことがなかった。けれども、この年は第7戦を彼らのホームコートで戦い、勝利することができた。とてもすばらしい気分だった」とノビツキーは振り返っている。
決死のドライブを見せてから約12年が経過し、今季でキャリア20シーズン目を終えたノビツキー。来季もプレーすると示唆しているレジェンドは、通算得点で歴代6位(3万1,187得点)、通算出場試合数で歴代5位(1,471試合)、通算出場時間で歴代3位(5万573分)といった、とてつもない実績をいくつも残している。
将来の殿堂入りがほぼ確実なノビツキーにとって、おそらくキャリア最大のハイライトは、11年の優勝とファイナルMVP獲得だろう。だが、ここで紹介した3ポイントプレーはノビツキー自身にとって、今でもお気に入りリストの上位にあるに違いない。
WOWOW NBA解説 陸川章が語る「ダーク・ノビツキーが見せた執念のドライブ」
「ノビツキーがマーベリックスの真のエースであると、自他共に認めさせたビッグプレーでした。また、本人にとってライバルであるティム・ダンカン、そしてスパーズという大きな壁を打ち破ったことが(そこから時間はかかりましたが)NBAチャンピオンになるという確信に変わった瞬間だったと思います。2006年日本開催のFIBAバスケットボール世界選手権でドイツが残り時間数秒で同点の時にファウルゲームを仕掛け、フリースローを決められても、ノビツキーが1on1できっちり決め返すシーンを何度も見て、チームも本人も必ず得点できるという自信と信頼のなせる技だと思いました。これも06年プレーオフでの経験が大いに活きていると感じました。来シーズンが21シーズン目となるレジェンドの活躍をこれからも注目していきましょう」。
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