3度の優勝、2度のシーズンMVP獲得経験を誇るNBAきっての超人気選手、ステフィン・カリー(ゴールデンステート・ウォリアーズ)。そのカリーが3連覇を懸けて挑む今季開幕を前に、2015年以来2度目の来日を果たす。
そこで、ここではキャリア10年目を迎えるカリーの、NBAにおけるこれまでのシーズンを、2回に分けて振り返ってみたい。
■カリーが誇る唯一無二の記録
シーズン最多3ポイント成功数:402本(2015-16シーズン)
1試合最多3ポイント成功数(レギュラーシーズン):13本(2016年)
1試合最多3ポイント成功数(ファイナル):9本(2018年)
通算3ポイント平均成功数:3.4本(250本以上放った選手として)
出場30分未満で30得点以上挙げた試合数:17回(1954-55シーズン以降最多)
■アメリカ代表における功績
FIBA世界選手権*金メダル:2回(2010,14年)
*=現FIBAワールドカップ
初のオールスター選出も、プレーオフでは1回戦敗退に
13年夏、ゴールデンステート・ウォリアーズは現在も主軸を務めるアンドレ・イグダーラを獲得し、より強力なロースターとなって13-14シーズンを迎えると、93-94シーズン以来初となる50勝以上(51勝)をマークし、ウエスタン・カンファレンス6位でプレーオフへ。
カリーはこのシーズンにオールスター初選出を果たすと、平均24.0得点に加えてキャリアハイの平均8.5アシストを記録するなど、チーム躍進の殊勲者として見事な活躍を見せた。
しかし、ロサンゼルス・クリッパーズとの1回戦を前に、先発センターのアンドリュー・ボーガット(元ミルウォーキー・バックスほか)がケガのため戦線離脱。カリー、クレイ・トンプソン、デイビッド・リー(元ウォリアーズほか)に加え、イグダーラやハリソン・バーンズ(現ダラス・マーベリックス)、ドレイモンド・グリーンが奮闘し、何とか第7戦までシリーズを長引かせるも、最後はクリッパーズの前に敗れてしまい、1回戦敗退に終わる。
するとウォリアーズは、マーク・ジャクソンHCを解任し、スティーブ・カーを新たな指揮官に任命。14年夏にはショーン・リビングストンとリアンドロ・バルボサ(元フェニックス・サンズほか)を獲得し、選手層に厚みを持たせることに成功する。
自身初のMVPシーズンを初優勝という最高の形で終える
迎えた14-15シーズン。カーHCはグリーンを先発パワーフォワードに据え、バーンズを先発スモールフォワードへと昇格、オールラウンダーのイグダーラをシックスマンに転向させた。スターターをカリー、トンプソン、バーンズ、グリーン、ボーガットで固定し、ベンチからリーやイグダーラ、リビングストン、バルボサがそれぞれの役割を遂行するローテーションが奏功し、ウォリアーズはシーズン序盤から破竹の16連勝と一気に貯金を増やし、リーグトップへ。その後も連勝を重ねたウォリアーズは、3月中旬からも12連勝を達成。終わってみれば、リーグトップの67勝(15敗)を挙げ、プレーオフ全体のホームコート・アドバンテージも手に入れた。
経験不足という理由から、優勝候補の本命に推されることはなかったものの、ウォリアーズは初のシーズンMVPに輝いたカリーを中心に抜群のチームケミストリーが構築されており、プレーオフのシリーズも順調に突破していく。ニューオリンズ・ペリカンズ(1回戦)をスウィープで下すと、メンフィス・グリズリーズ(ウエスト準決勝)を4勝2敗、ヒューストン・ロケッツ(ウエスト決勝)を4勝1敗で下し、1975年以来となるNBAファイナルへ駒を進めた。
レブロン・ジェームズ(現ロサンゼルス・レイカーズ)擁するクリーブランド・キャバリアーズとのファイナルは、初戦から2試合連続で延長戦にもつれ込む熱戦。キャブスはチーム3番手のケビン・ラブをプレーオフ1回戦途中に肩の負傷で失い、2番手のカイリー・アービング(現ボストン・セルティックス)を第1戦の延長戦途中に左膝負傷により戦線離脱するという劣勢の中、レブロンを中心にロースコアの展開へと持ち込み、第3戦を終えて2勝1敗とリード。
カリーはマシュー・デラベドーバ(現バックス)を中心とするキャブスの粘り強いディフェンスに苦しみ、第2戦はフィールドゴール23投中成功わずか5本の計19得点に終わるも、第3戦の後半から徐々に復調。第4クォーターだけで17得点を稼ぎ出し、シリーズ巻き返しの予兆を感じさせた。
するとウォリアーズは第4戦でスターターを変更。カーHCはボーガットをベンチスタートに下げ、イグダーラを先発に抜てき。カリー、トンプソン、バーンズ、イグダーラ、グリーンというスモールラインナップを採用し、速い展開に持ち込んだ。この作戦が奏功し、第4、5戦でそれぞれ13点差以上を付けて一気に3勝2敗と優勝に王手。
第6戦も第1クォーターと第3クォーターで10点以上も上回る得点力を見せ付け、最後は8点差でキャブスを撃破。ウォリアーズは実に40年ぶりとなる優勝を勝ち取った。ファイナルMVPこそシリーズの流れを大きく変えたイグダーラの手に渡ったものの、ウォリアーズ優勝は、チームトップのシリーズ平均42.5分26.0得点6.3アシストをマークしたカリーなしにはありえなかった。
優勝後の会見で、カリーは「NBA入りしてから6年。ようやくチャンピオントロフィーを手にすることができた。本当に信じられない経験さ」と喜びを語ると、こう続けた。
「チームメートたち1人1人が大好きだ。彼らはチームのために自己犠牲をいとわず、それぞれの役割を着実にこなし、この瞬間を楽しんでいる。コーチングスタッフたちもそう。彼らと共にチャンピオントロフィーを勝ち取ることができ、これまでの努力が報われたみたいでとてもうれしい」。
記録づくめのシーズンに、驚異的なパフォーマンスを披露
ディフェンディング・チャンピオンとして迎えた15-16シーズン。カリーは開幕からエンジン全開で超絶パフォーマンスを連発。チームも開幕から連勝街道を爆走し、これまでの記録(15連勝)を大きく上回る開幕24連勝を飾り、歴代トップに浮上。前シーズンに残した4連勝も合わせて28連勝とし、こちらは歴代2位にランクインした。
カリーも開幕6試合のうち5試合で30得点以上を挙げるなど絶好調。16年2月下旬には3試合連続で42得点以上、中でも2月28日(同27日)に行われたオクラホマシティ・サンダー戦では12本の3ポインターを含む46得点の大暴れ。延長戦終盤にはハーフコートを過ぎたあたりから迷うことなくロングスリーをネットに突き刺し、世界中に衝撃を与えたことを覚えている人もいるだろう。
シーズン全体で、カリーは13度の40得点以上に加え、3ポイント成功数402本に平均成功数5.1本という前代未聞の数字をたたき出し、文句なしのシーズンMVPとなった。また、フィールドゴール成功率50パーセント以上(50.4%)、3ポイントシュート成功率40パーセント以上(45.4%)、フリースロー成功率90パーセント以上(90.8%)を記録し、史上7人目の“50-40-90”クラブの仲間入りも成し遂げた。
一度も連敗なしに勝ち続けたウォリアーズは、終わってみれば73勝(9敗)。95-96シーズンにシカゴ・ブルズが残した72勝(10敗)を塗り変え、史上最多勝利数を更新してみせた。
最後の1勝に泣き夢のシーズンが終焉、ケガからの復活を誓う
2連覇を懸けて臨んだプレーオフ。ロケッツとの1回戦でカリーが膝を痛めてしまい、3試合を欠場したものの、チームは4勝1敗でシリーズ突破。ポートランド・トレイルブレイザーズとのウエスト準決勝も第3戦まで欠場したものの、復帰初戦となった第4戦では延長戦だけで17得点を奪う独壇場。計40得点を挙げてシリーズ突破に王手をかけると、第5戦でも29得点11アシストの活躍でブレイザーズを下す。
サンダーとのウエスト決勝は、1勝3敗と崖っぷちに追い込まれるも、第5戦から驚異の3連勝でシリーズをひっくり返し、2年連続のファイナル進出を決めた。第4戦まではいずれも30得点未満に終わっていたカリーだったが、その後の3試合すべてで30得点以上を奪い、シリーズ突破のキーポイントとなった。
ファイナルではキャブス相手に第3戦で初の黒星を喫するも、アウェーで迎えた第4戦で、カリーは7本の長距離砲をリングに放り込むなどシリーズベストの38得点を挙げて勝利へと導き、早々に2連覇へ王手をかけた。
しかし、第5戦でグリーンが出場停止になったこともあり、レブロンとカイリーが調子を上げていく。第6戦でカリーは30得点を奪うも、度重なるスイッチでレブロンからファウルを誘発されてしまい、まさかの6ファウルで退場。歯車が狂ってしまったウォリアーズは、ホームで行われた第7戦も大激戦の末に惜敗し、最後の最後で優勝を逃してしまう。
ファイナルを終えたカリーは、現地メディア『CBS Sports』へこう話していた。
「僕はこの夏、健康を取り戻す必要がある。でも、コートで何が起きたかを言い訳するつもりはない。僕はプレーする準備をしてコートに立った。良いゲームもあったし、悪いゲームも中にはあった。それだけさ。僕はより強くなって次のシーズンに戻ってみせる」。
オールラウンドな働きで2年ぶりの覇権奪回に成功
16年夏。ウォリアーズはバーンズとボーガットを失うも、リーグ最高級のスコアラー、ケビン・デュラントを獲得。そしてベテランのデイビッド・ウェスト(先月引退)とザザ・パチューリア(現デトロイト・ピストンズ)というビッグマンを加えた。
豪華戦力となったウォリアーズの16-17シーズンは、スター選手たちによる衝突など無関係で、上質なチームケミストリーを構築して勝ち続けた。11月上旬から12連勝を記録するなどリーグトップ争いを演じ、最終的には67勝15敗でプレーオフ全体のホームコート・アドバンテージを手にした。ウォリアーズは3シーズン連続で67勝以上を挙げた史上初のチームとなった。
前シーズンにあと1勝、あと4点に泣いたウォリアーズは、プレーオフで無類の強さを発揮し、強豪ぞろいのウエストを12戦無敗で勝ち上がる。3年連続となったキャブスとのファイナルでもカリーとデュラントを中心に圧倒すると、3連勝で一気に王手を懸ける。第4戦こそレブロンとカイリーに意地を見せつけられて敗れるも、第5戦ではカリーとデュラントの2人だけで73得点12リバウンド15アシストを挙げる猛攻でキャブスを下し、覇権奪回に成功。
シリーズ平均35.2得点とアンストッパブルなスコアラーと化したデュラントがファイナルMVPに輝いたものの、カリーも平均26.8得点8.0リバウンド9.4アシスト2.2スティールとオールラウンドな活躍を見せ、自身2度目の優勝に大きく貢献してみせた。
前回の優勝はアウェーで決めていたため、この年の優勝は熱狂的なファンが取り囲むオラクル・アリーナで初めて優勝を決めることとなったカリー。会見で「本当にすばらしいこと。ホームのファンの前で優勝を決めたことは、今後長い間、ずっと覚えていると思う」と語り、ベイエリアのファンと共に優勝を祝福した。
険しい試練を乗り越え、チーム史上初の連覇達成!
2連覇を懸けた2度目の挑戦となった昨季(17-18)。ウォリアーズは主力の相次ぐケガに泣き、ベストメンバーでプレーすることがなかなかできなかった。中でもカリーは右足首のねんざと左膝の負傷により、31試合を欠場。チームもここ4シーズンでは最も勝ち星が少ない58勝24敗に終わり、ロケッツ(65勝17敗)に次ぐウエスト2位でフィニッシュ。
もっとも、コート上におけるカリーのパフォーマンスは、自己最高の成績となった一昨季(15-16シーズン)と比較してもそん色ないほど、輝かしいものだった。平均26.4得点5.1リバウンド、平均3ポイント成功数(4.2本)はいずれも一昨季に次ぐ成績をマークしており、その存在感は際立っていた。
18年3月下旬に左膝を痛めたカリーは、プレーオフの1回戦を欠場。チームは4勝1敗でスパーズを下し、ペリカンズとのウエスト準決勝初戦ではデュラントとトンプソンが計53得点、グリーンがトリプルダブル(16得点15リバウンド11アシスト)の大活躍で先勝した。
そしてペリカンズとのシリーズ第2戦で、カリーが約1か月ぶりに復帰。ベンチスタートではあったものの、第1クォーター残り4分20秒でコートに登場すると、そのわずか11秒後に左45度付近から挨拶がわりに3ポインターをヒット。世界中のファンへ強心臓ぶりを見せ付けたカリーは、第3クォーターだけで13得点を集中砲火させるなど、5本の長距離砲を含む計28得点をマークし、早速勝利に大きく貢献。
翌第3戦で1敗を喫するも、第4戦からウォリアーズはカリー、トンプソン、イグダーラ、デュラント、グリーンで構成する“死のラインナップ”でスターターを組んで2連勝を飾り、ペリカンズとのシリーズを制した。
ロケッツとのウエスト決勝は、第3戦を終えてウォリアーズが2勝1敗とリードしていたものの、第4戦からイグダーラが膝を痛めて戦線離脱。するとロケッツがロースコアの肉弾戦に持ち込み、2勝3敗とシリーズ敗退に王手をかけられてしまう。
ロケッツもクリス・ポールをハムストリングの負傷で欠く中、ウォリアーズは第3クォーターでオフェンスが爆発し、2戦連続で前半終了時の2ケタビハインドを覆して勝利。カリーはチームトップの得点を記録したわけではなかったものの、第6戦で29得点5リバウンド6アシスト3ブロック、第7戦では7本の3ポインターを含む27得点9リバウンド10アシスト4スティールとオールラウンドな数字を残し、勝利を演出。
4年連続となったキャブスとのファイナルでも、カリーは平均27.5得点6.0リバウンド6.8アシスト1.5スティールをマークし、自身初となる2連覇を達成。ファイナルMVPはデュラントが獲得したものの、第2戦ではファイナル新記録となる9本の3ポインターを決める大活躍でキャブスを引き離す最大の殊勲者となった。
自身3度目の優勝を勝ち取ったカリーは、30歳ながら通算3ポイント成功数(2,129本)で歴代7位に入っており、通算成功率43.6パーセントは現役トップを誇る。選手生命を脅かすケガさえなければ、近い将来、3ポイント成功数で歴代トップに浮上するに違いない。
世界有数のアスリートが見せるパフォーマンスは必見!
カリーという男は、3ポイントシュートを1本決めるだけで、会場どころか試合の雰囲気さえ変えてしまうほどの影響力を誇る。さらに、観客だけでなく選手をも虜にするほど華麗なパスや芸術的なフローターを繰り出し、周囲を惹きつけることができるため、NBAきっての人気選手なのは明らか。
また、華やかでインパクト大のプレーと魅力的な笑顔に目が行きがちだが、身体を張ってリバウンドを奪うシーンも決して少なくない。スティールをはじめとするディフェンス面でも、年々向上している。
「ベイエリアは僕にとってのホーム。ここにいたいという明白な理由がある場所なんだ」。
これは8月中旬にビル・シモンズとのポッドキャストで、ウォリアーズでずっとプレーしたいかと聞かれた際、カリーが即答した言葉である。
カリー自身の故郷はシャーロットではあるものの、NBAにおけるホームはドラフト指名されてルーキーシーズンからずっとプレーしているベイエリア(サンフランシスコ)にほかならない。
9月10日。カリーは3連覇を懸けて挑む今季開幕を前に、『2018 ステフィン・カリー アジアツアー powered by アンダーアーマー』で来日し、翌11日には六本木ヒルズアリーナで行われる『SC30 WIRED DIFFERENT TOKYO』に登場することとなる。
3年ぶりの来日となるカリーが、日本のファンヘどんなパフォーマンスを見せてくれるのか。世界を代表するアスリートの1人、ステフィン・カリーの一挙手一投足を見逃してはならない。