「いつも彼から学んできたし、彼のアプローチには感心してきた」とボーゲル
4月20日(現地時間19日、日付は以下同)から『ESPN』で配信がスタートした“The Last Dance”は、1997-98シーズンのシカゴ・ブルズを追跡した珠玉のドキュメンタリー。マイケル・ジョーダンやスコッティ・ピペン(共に元ブルズほか)、デニス・ロッドマン(元デトロイト・ピストンズほか)というビッグ3のエピソードを交えた映像が世界中のバスケットボールファンを虜にしている。
そんな中、このシーズン開幕前にジェリー・クラウスGM(ゼネラルマネジャー)から「ブルズで指揮を執るのは今季限り」と通達され、チームを率いたフィル・ジャクソンHC(ヘッドコーチ)に対して現役NBAコーチ陣が絶賛している。
4月28日に『ESPN』へ掲載された記事の中で、フランク・ボーゲルHC(ロサンゼルス・レイカーズ)は「私はいつも彼から学んできたし、彼のアプローチには感心してきた。彼こそがNBAのコーチにおけるG.O.A.T.だと見ている」と言及。
NBAチームを率いた指揮官として、ジャクソンHCは13度のファイナル出場を果たし、11度のチャンピオンに輝いた。これはいずれもNBA史上最多の記録であり、通算20シーズンで1,155勝485敗(勝率70.4パーセント)、プレーオフにも毎年出場しており、229勝104敗(勝率68.8パーセント)という申し分ない実績を残してきた。
通算勝率はいずれもNBA歴代3位に入っており、プレーオフ通算勝利数(229勝)は2位のパット・ライリー(現マイアミ・ヒート球団社長/171勝)を大きく引き離して歴代トップに君臨。ジャクソンHCは90年代にブルズで2度の3連覇を達成し、2000年から02年にかけてレイカーズで3連覇、さらには09、10年にはレイカーズを2連覇へと導いた名将である。
スーパースターと友好な関係を構築し、リーグ最強チームを作り上げた名将
“禅マスター”という異名があるように、チーム練習の際に瞑想を持ち込んだり、選手たち1人1人へ本を読むようにと一冊ずつ渡したりと、独特な雰囲気を醸し出すヘッドコーチとしても知られたジャクソンHCに対して、批判がなかったわけではない。
その多くは選手に恵まれていたことだった。ブルズ時代にはジョーダン、ピペン、ロッドマン(あるいはホーレス・グラント)、レイカーズではシャックことシャキール・オニール(元レイカーズほか)、コービー・ブライアント(元レイカーズ)といったスーパースターがおり、彼らがいたからこそ優勝できたと指摘する者もいた。
だがその一方で、これだけ個性が強いスーパースターたちを束ねてリーグ最強のチームへと引き上げることができたのも、ジャクソンHCが誇る人心掌握術があればこそだった。ジョーダン、ピペン、ロッドマンという強烈な個性を持つ3選手にそれぞれ理解を示し、歴代最強チームの1つと評される次元にまで昇華させ、シャックとコービーをチームプレーヤーへと転身させた要因の1つに、ジャクソンHCの存在があったことは疑いようのない事実だからだ。
ジョーダンが「フィルがいなくなるのならば俺も出ていく」、シャックが「フィルは俺にとって最高のコーチ」と口にしたことがあったように、ジャクソンHCがスーパースターの信頼を勝ち取り、友好な関係を構築してきたことも見逃せない。
ロサンゼルス・クリッパーズの指揮官を務めるドック・リバースHCは“The Last Dance”で契約最終年にジャクソンHCがこなしたことをこう称えている。
「あと1年で解雇されると(シーズン開幕前に)言われるなんて想像できるかい? で、正しい目的意識を持って選手たちへ教えていくなんて想像できるか? ロースターにいる選手たちへそれぞれの役割を与えて、指導していけだって? 私には耐えられないし、平穏ではいられないね。でも彼にはそれができたんだ」。
ジャクソンHCがGreatest coach Of All Time(史上最高のコーチ)と決まったわけではないものの、これまでに残してきた実績と現在のコーチたちに与えている影響力を考えると、少なくともG.O.A.T.論の中心に入ることは間違いない。