2018.05.28

歴代名シリーズ編③MJが見せた“完璧すぎる”エンディング/プレーオフ特別企画30

90年代に6度の優勝をブルズにもたらしたジョーダン[写真]=Getty Images
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4月15日(現地時間14日)から、計16チームによる今シーズンの王座を懸けた激闘、「NBAプレーオフ2018」が幕を開けた。バスケットボールキングでは、プレーオフ出場チームやシリーズ勝敗予想に加え、これまでのプレーオフにおける名シーンや印象的なシリーズ、ゲームなども順次お届けしていく。

<プレーオフ特別企画30>
GREATEST SERIES IN NBA HISTORY ~歴代名シリーズを振り返る~③
1998年NBAファイナル
シカゴ・ブルズ×ユタ・ジャズ

“ラストダンス”最終章のブルズと前年のリベンジに燃えるジャズ

 1998年のNBAファイナルは、ブルズ対ジャズという、97年と同カードの対決となった。前年との違いは、ホームコート・アドバンテージがジャズ側にあること。シーズン成績は両チームともリーグトップの62勝20敗だったが、シーズン中の直接対決でジャズが2戦無敗だったため、ホームコート・アドバンテージを手にしていた。

 90年代2度目の3連覇を懸けて迎えた97-98シーズン。ブルズは開幕から“リーグ最強のNo.2”スコッティ・ピペン(元ブルズほか)をケガで欠き、開幕15試合を終えて8勝7敗。シーズン途中にはピペンがトレードを志願したり、フィル・ジャクソンHCがこのシーズン限りでブルズを去るというウワサが拡散するなど、集中力を乱されることが続く中、MJことマイケル・ジョーダン(元ブルズほか)を中心にまとまりを見せ、徐々に調子を上げていった。

ピペン不在時にブルズを攻防両面で支えたジョーダン[写真]=Getty Images

 ピペンのシーズン中の移籍が事実上なくなることが明らかになり、1月11日(同10日)にピペンが復帰すると、チームはさらに勢いを増し、終わってみればイーストトップとなる62勝20敗。1990年代最強と称されたブルズは“ラストダンス”としてこの年のプレーオフを迎え、カンファレンス・ファイナルでインディアナ・ペイサーズと第7戦まで戦ったものの、王者としての経験の違いを見せつけ、過去8年間で6度目となる頂上決戦の舞台へ。

 一方のジャズは、開幕から司令塔のジョン・ストックトン(元ジャズ)がケガのため欠場。大黒柱のカール・マローン(元ジャズほか)は健在だったものの、開幕11試合で5勝(6敗)しかできずにウエスタン・カンファレンス下位に沈んだ。

 しかし、そこから6連勝で波に乗ると、1敗をはさんでストックトンが待望の復帰を果たす。フルメンバーがそろったジャズは、その後1度も連敗することなく白星を量産し、ウエストトップの62勝20敗を記録。プレーオフでは1回戦でヒューストン・ロケッツに1勝2敗と王手をかけられるも、そこから2連勝で苦労の末に突破すると、ウエスト準決勝、ウエスト決勝を難なく制し、2年連続のファイナル進出。前年のファイナルでブルズに敗れた悔しさを晴らすべく、エンジン全開で頂上決戦を迎えた。

大黒柱マローンは、圧倒的な存在感でウエスト制覇へと導いた[写真]=Getty Images

■GAME1 ジャズ 88-85 ブルズ

延長にもつれ込むも、ホームのジャズがシリーズ先勝

 第1クォーターを17-17の同点で終えると、ホームのジャズが第2、3クォーターに50-42とブルズを上回るも、最終クォーターでブルズが粘り、79-79で追いつく。だが延長でジャズが9-6とブルズを制し、初戦を勝利で飾った。ジャズではストックトンが24得点8アシスト、マローンが21得点14リバウンド2ブロック、ブライオン・ラッセル(元ジャズほか)が15得点8リバウンドを奪取。ベンチ陣ではハワード・アイズリー(元ジャズほか)の8得点6アシストを筆頭に、計22得点を記録した。対するブルズは、ジョーダンが33得点、ピペンが21得点8リバウンド、ルーク・ロングリー(元ブルズほか)が10得点8リバウンドをマーク。試合後、ジョーダンは「第1戦に負けてしまったが、アウェーで行われた初戦を延長にまで持ち込んだことに価値がある」と語っており、シリーズ制覇に自信をのぞかせた。

冷静沈着なストックトンがジャズを統括し、大事なシリーズ初戦を制した[写真]=Getty Images

■GAME2 ブルズ 93-88 ジャズ

オフェンシブ・リバウンドでつなげたブルズが勝利

 第1戦と同様にロースコアな展開が続く中、第4クォーターに抜け出したブルズが勝利し、シリーズ戦績を1勝1敗のタイへ。ジョーダンが37得点、ピペンが21得点、トニー・クーコッチ(元ブルズほか)が13得点9リバウンドを記録したものの、チーム全体でフィールドゴール成功率42.5パーセントとオフェンスに苦しんだ。それでも、デニス・ロッドマン(元ブルズほか)とクーコッチの各5本を筆頭に18本のオフェンシブ・リバウンドをもぎ取り、セカンドチャンスを増やしてスコアを伸ばしていった。敗れたジャズでは、ジェフ・ホーナセック(元ジャズほか)が20得点、マローンが16得点12リバウンド3ブロック、ラッセルが11得点、ベンチからシャンドン・アンダーソン(元ジャズほか)が12得点を記録したが、ホーム2連勝ならず。

リーグベストのディフェンダーと称されたピペンは、オフェンス面でも21得点と活躍[写真]=Getty Images

■GAME3 ブルズ 96-54 ジャズ

窒息ディフェンスでジャズを封殺したブルズが2連勝!

 ホームに戻ったブルズがディフェンスのプレッシャーを一気に引き上げ、ジャズのオフェンスをシャットアウト。ブルズの窒息ディフェンスの前にジャズはターンオーバーを連発してしまい、第2クォーター以降はわずか40得点しかできず、NBAファイナル(プレーオフも含む)史上最少得点に抑え込まれて大敗。ジャズはこの試合で26本ものターンオーバーを犯し、フィールドゴール成功率はわずか30.0パーセントと完全に沈黙。マローンが11投中8本のショットを決めて22得点を挙げるも、その他の選手たちは9得点以上挙げることができなかった。「これほどまでに、我々のオフェンスに対して見事な対応を見せてきたチームは初めてだった」と語ったジェリー・スローンHCのコメントは、ジャズの選手たちの率直な気持ちでもあった。

ブルズが誇るディフェンスの前に、ジャズはショットミスを連発していった[写真]=Getty Images

■GAME4 ブルズ 86-82 ジャズ

ロッドマンのフリースローでブルズが逃げ切り、3連覇へ王手!

 ジョーダンが34得点8リバウンド、ピペンが5本の3ポイントシュート成功を含む28得点に9リバウンド5アシストを記録したものの、他の選手たちはジャズのハードなディフェンスの前に沈黙。ジャズはマローンの21得点を筆頭に7選手が7得点以上を挙げて、シリーズ戦績を2勝2敗の五分に戻すべくブルズを追い詰めた。しかしロッドマンがブルズを救ってみせた。30分のプレータイムで7本のオフェンシブ・リバウンドを含む14リバウンドに加え、終盤の大事な場面で決めた4本を含む6本のフリースローを決めて、勝利へと導いた。

 この日の試合後、ジョーダンは「この男(ロッドマン)のことを理解することはできないだろう。ある日はプロレスラー、ある日はディフェンダーになるからね。だがビッグゲームになると、彼はバスケットボールというゲームをいつでもプレーできる準備ができている。彼は逆境において、とても秀でているんだ」と語り、ロッドマンを称賛。普段は退屈そうにフリースローを放つロッドマンがこの日はきっちりと決めてみせた。ブルズが誇る“奇人”が、ブルズにシリーズ3勝目をもたらしたことは間違いない。

リバウンドやディフェンスなどで活躍しただけでなく、重要なフリースローも沈めたロッドマン[写真]=Getty Images

■GAME5 ジャズ 83-81 ブルズ

39得点の大爆発を見せたマローンがホームの3連覇祝福を阻止!

 早くも窮地に追い込まれたジャズに対し、ホームで3連覇を飾るチャンスを得たブルズ。前半を終えて36-30とブルズがリードし、第2戦から4連勝でシリーズを制するのかと思われたやさき、マローンが全力で3連覇に待ったをかけた。この日のマローンはロッドマンが相手だろうとお構いなしにショットを沈めていき、シリーズ最多の39得点。27投中17本のショットを成功、フリースローを6投中5本決めて、ブルズのディフェンダー陣を粉砕。9リバウンド5アシストもマークするなど大車輪の活躍で勝利に大きく貢献。ベンチからはベテランのアントワン・カー(元アトランタ・ホークスほか)が要所でジャンパーを沈めるなど12得点で援護。

 一方のブルズでは、絶好調のクーコッチがチームトップの30得点。フィールドゴール13投中11本、そのうち3ポイントシュートを6投中4本も決めるスコアリングマシンと化し、ジャズを攻め立てた。ジョーダンは28得点を挙げるも、26投中9本しかショットを決めることができずに苦戦。ピペンは11リバウンド11アシスト3スティールを挙げたものの、16本放ったショットのうち14本が空を切ってしまい、わずか6得点に終わった。

この日のマローンはアンストッパブルなスコアリングマシンとして得点を量産[写真]=Getty Images

■GAME6 ブルズ 87-86 ジャズ

ジョーダンが激闘に終止符を打ち、ブルズが90年代2度目の3連覇達成!

 ホームに戻ったジャズは、序盤からマローンが快調に飛ばして得点を量産。また、ホーナセックにストックトン、ベンチからはカーが加点し、ハーフタイムの時点でジャズが49-45とリード。第3クォーター終了時点でも、66-61とし、ジャズがブルズに5点差をつける。

この日もマローンは好調をキープ。31得点のハイスコアをマークした[写真]=Getty Images

 ブルズはジョーダンがほぼフル出場でオフェンス面の負担を背負っていた。ピペンは背中の痛みが悪化してしまい、前半途中にロッカールームで治療を受けるほどだった。その後ピペンはコートに戻るも、本来のスピーディーな動きは影を潜め、苦痛に顔を歪めながら何とかプレー。クーコッチやロン・ハーパー(元ブルズほか)らがカバーしようとするも、ピペンの穴は想像以上に大きく、ほとんどジョーダンに頼りきりという状況に陥ってしまう。

 だが、「ゲーム7にもつれると、ホームのジャズが優位だ」「第7戦までにピペンのコンディションが回復する可能性は低い」といったさまざまな状況をふまえ、ジョーダンが決意を固めた。疲れを見せる場面もあったが、第4クォーター突入後もジョーダンはマッチアップ相手のラッセルやホーナセックらの前からフェイドアウェイ・ジャンパーやレイアップ、プルアップ・ジャンパーを放ち、それらがリムを潜り抜けていく。

満身創痍の中、献身的なプレーで貢献したピペン[写真]=Getty Images

 とはいえ、ホームのジャズも黙ってはいなかった。試合時間残り41.9秒、マローンからのパスを受け取ったストックトンが値千金の3ポインターを決めてジャズが3点のリードを奪う。

 それでも、「私は自分自身のことを疑ったりはしなかった。我々にはこの試合に勝利するチャンスがあるとわかっていたんだ」と試合後に語ったジョーダンが、シリーズを締めにかかる。

 まずはドライブからレイアップを決めて、残り37.1秒に1点差まで詰め寄る。その直後のディフェンスでは、左ローポスト付近でボールを受け取ったマローンに対し、後ろから忍び寄り、スティールを奪ったのである。

 「カール(・マローン)は私が近づいてきていることに気付いていなかった。だから私はカールからボールを奪い取ることができたんだ」と試合後に振り返ったジョーダンは、残り約20秒でボールを手にした。

 その後、ジョーダンはタイムアウトを要求せず、自らボールを運んでいった。「ボールを手に取り、残り時間を見たら18.5秒だった。でもタイムアウトは取らないほうがいいと思った。ジャズにディフェンス陣形をセットアップさせる機会を与えてしまうから」とジョーダン。自らの手でシリーズに決着をつけるべく、“最後の仕上げ”に入っていく。

 ジョーダンはトップ・オブ・ザ・キーやや左側から、ラッセルとの1オン1に持ち込んだ。そこからジョーダンはクロスオーバーでラッセルをかわし、フリースローライン付近からプルアップ・ジャンパーを放った——。

 世界中のバスケットボールファンが見守る中、綺麗な放物線を描いたジョーダンの美しいジャンパーは、まるで吸い込まれるかのようにリングを通過。ジョーダンは「Do or Die(やるかやられるか)の状況さ。(打った瞬間に)いい感触だったんだ。そして決めることができたよ」と語り、その感触をかみしめるかのように、フォロースルーで右腕を伸ばし続けた。

 ジャズは最後のオフェンスで、ストックトンのショットを選択したものの、惜しくもリングに嫌われてしまった。ジョーダンによる“完璧すぎるエンディング”により、長く、タフなシリーズは幕を下ろし、ブルズが90年代後期の3連覇を達成。

 ジョーダンは6度目の優勝を両手で表し、天に向かって大きく突き出した。ジョーダンは6度目のNBAチャンピオン、そして前人未到となる6度目のファイナルMVPを獲得したのである。

自身6度目の優勝が決定し、空高く舞い上がったジョーダン[写真]=Getty Images

 「これはマイケル・ジョーダンという男が重要なシリーズにおける危機的な場面で見せた、ベストなパフォーマンスだったと私は思う。かつてこれほどまでにすばらしいパフォーマンスを見せてきた選手はいない」とジャクソンHCは評し、ジョーダンに最大級の賛辞を送った。

 ジャクソンHCの言葉どおり、ブルズ在籍時に放ったジョーダンの“ラストショット”は、これ以上ないほどのエンディングとして、人々の記憶に刻まれたと言っていいだろう。

選手たちが各々の結晶をコートに残した名勝負

 ファイナル終了後、ジョーダンは「ユタはとてもタフな相手だった。第5戦を終えて熱狂的なファンが待ち受けるユタに戻るのが嫌だった。ここのファンは、本当にすばらしいと思う」と相手チームへの敬意を表した。

 シリーズ平均得点は両チームとも90得点未満。現代と比較すると、3ポイントシュート試投数も少なく、シリーズ合計でジャズが放った本数は60本。今のロケッツならば、1試合で放ってもおかしくはないほどの本数である。

 それでも、両チームの選手たちは互いの身体をぶつけ合い、ショットを放とうとする選手には全力で腕を伸ばし、少しでもシュートコースを狂わせるディフェンスを展開。手に汗握る試合を何度も演じ、それが名勝負へと昇華していった。

 ジョーダンの“ラストショット”という最高の幕引きがあったとはいえ、このシリーズはそれ以外にも見どころは十分あった。

 コート中を駆け回り、身体を張ってジャズの選手からオフェンス・チャージングを何度も誘発したピペン。肉体と頭脳をフル稼働させてリバウンドに跳び込み、ルーズボールにダイブし、マローンら屈強なジャズの選手相手に奮闘したロッドマン。マローンとストックトンというリーグ最強コンビのピック&ロールを機能させないようにと、熱いディフェンスを見せたハーパーやスティーブ・カー(元ブルズほか)。3番手のスコアラーとして幅広いエリアからショットを決めたクーコッチなど、“ラストダンス”最終章で、ブルズの選手たちはまさに一丸となってシリーズを戦い抜いたのである。

 もちろんそれはジャズにも言えることで、マローンとストックトンだけではここまでの名勝負にはならなかった。玄人好みのショットとソリッドなディフェンスでジョーダンらに立ち向かったホーナセック。持ち前のフィジカルの強さを活かしてジョーダンとのマッチアップで奮闘したラッセル。まるでストックトンのコピーのようにゲームメークをこなし、正確なパスを配給したアイズリー。タフなディフェンスとアグレッシブなオフェンスで勢いをもたらしたアンダーソン。要所でジャンパーを決めたカーなど、シリーズに出場した両チームのロースター全員が、コート上に各々の選手としての結晶を残してみせた。

試合開始から終了のブザーが鳴り響くまで、両チームは毎分毎秒、身を粉にして戦い続けた[写真]=Getty Images

ジョーダンによるNBA史上最高のエンディング

 NBAファイナルに出場できるチームは、毎シーズンわずか2チームしか存在しない。ジャズは97、98年とも敗れてしまったため、優勝を勝ち取ることこそできなかったものの、ウエストを2年連続で制し、90年代最強と評されたブルズを最も苦しめたチームという印象を与えたに違いない。

 そして、シリーズ最終戦で45得点を奪い、ゲーム終盤には誰もが息をのむほどの超絶パフォーマンスを見せたジョーダンは、自身6度目の優勝を果たしたことで、NBA史上最高の選手だということを、世界中のバスケットボールファンに満場一致で納得させたと言っていいはずだ。

 ジョーダンの“ラストショット”から20年。「あれ以上、ドラマチックなシナリオを書ける人がいるとは思えない」とジャクソンHCが語っていたが、これまでの20年間、NBAではいくつものチームが優勝の美酒に酔い、いくつもの感動的なブザービーターや劇的な同点弾が生まれてきた。

 しかしながら、あの時にジョーダンが魅せた“完璧なエンディング”の域には、まだ誰も近づいていない。まさに史上最高のエンディングだった。

ジョーダンはこれ以上ないほどの完璧なエンディングで自身6度目の優勝を成し遂げた[写真]=Getty Images

WOWOW NBA チーフプロデューサー 内濱和敏が語る
「1998年NBAファイナル シカゴ・ブルズ×ユタ・ジャズ」

「MJがマローンからボールを奪い、ラッセルを交わしてシュートを決めた一連の流れは、NBA界のハイライトシーンだと思います。3連覇を2回、やはりMJは神様だと。WOWOW NBAファミリーになって頂いたロッドマンさんは『誰もがリスペクトしている存在ではあったが、決して彼に依存することはなく、個々が自分の役割に100%集中して、プライドをもってプレーしていたからこそ、偉業を成し遂げられた』と話してくれました。97年のファイナル第6戦終盤でカーにラストショットを任せたように、MJもみんなを信頼したからこそ、6回優勝というブルズ王朝時代に繋がったんですね。今のウォリアーズにそんな雰囲気を感じているのは私だけでしょうか」。

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