新型コロナウイルスの感染拡大を防止すべく、世界最高峰のエンターテインメント、NBAは3月13日(現地時間12日、日付は以下同)より2019-20レギュラーシーズンを中断することを余儀なくされた。6月に入り、7月31日からフロリダ州オーランドで22チームが参戦し、シーズンを再開することが決まった中、65試合前後を消化した各チームならびにその主要選手たちを振り返っていきたい。
※データは日本時間3月12日終了時点、%=パーセント、評価は上から順にS、A、B、C、D、Eの6段階
2019-20シーズンNBA通信簿チーム編28 メンフィス・グリズリーズ
ウェスタン・カンファレンス(サウスウェスト・ディビジョン)
総合評価:S
■ここまでの戦績
今季戦績:32勝33敗(勝率49.2%/ウェスト8位)
ホーム戦績:18勝15敗(勝率54.5%)
アウェー戦績:14勝18敗(勝率43.8%)
■主要チームスタッツ(カッコ内はリーグ順位)
平均得点:112.6(13位)
平均失点:113.7(20位)
平均リバウンド:46.7本(6位)
平均アシスト:27.0本(3位)
平均スティール:8.0本(12位)
平均ブロック:5.6本(7位)
オフェンシブ・レーティング:108.9(20位)
ディフェンシブ・レーティング:109.9(15位)
■主要スタッツリーダー
平均出場時間:ジャ・モラント(30.0分)
平均得点:ジャ・モラント(17.6得点)
平均リバウンド:ヨナス・バランチュナス(11.2本)
平均アシスト:ジャ・モラント(6.9本)
平均スティール:ディアンソニー・メルトン(1.3本)
平均ブロック:ジャレン・ジャクソンJr.(1.6本)
■主な開幕後の選手またはコーチの動き
加入:ジャスティス・ウィンズロウ、ゴーギー・ジェン、アンソニー・トリバー(10日間契約)
退団:アンドレ・イグダーラ、ジェイ・クラウダー、ディオン・ウェイターズ
低迷必至という下馬評を覆し、強豪ぞろいのウェストで8位の座を堅持
昨季途中にマルク・ガソルをトロント・ラプターズ、昨季終了後にマイク・コンリーをユタ・ジャズへトレードしたことで、グリズリーズは過去10年以上に渡ってチームを支えてきた2枚看板が退団。
すると昨年のドラフト全体2位でジャ・モラントを指名し、トレードでブランドン・クラークを獲得。新たな指揮官にテイラー・ジェンキンズHC(ヘッドコーチ)を招へいすると、フリーエージェント(FA)でタイアス・ジョーンズとマルコ・グードリッチ、トレードでジェイ・クラウダー(現マイアミ・ヒート)、ディアンソニー・メルトン、ジョシュ・ジャクソンらを獲得。ドワイト・ハワード(現ロサンゼルス・レイカーズ)とアンドレ・イグダーラ(現ヒート)は一度もプレーせずに退団することとなり、若手中心のロースターで今季に臨んだ。
強豪ぞろいのウェストにおいて、モラント、ディロン・ブルックス、クラウダー、ジャレン・ジャクソンJr.にヨナス・バランチュナスという先発陣はインパクトに欠け、開幕前の予想はもちろんウェスト下位。そのため、開幕9試合で2勝7敗と大きく負け越し、11月を終えて5勝13敗だったこのチームの戦績を驚く者はほとんどいなかった。
ところが、12月に入るとチームがかみ合い始め、5試合で4勝を挙げるなど8勝8敗と大健闘。1月にはロサンゼルス・クリッパーズやヒューストン・ロケッツ、デンバー・ナゲッツといったリーグ上位チームをも下し、ジャズと並んでウェストトップタイの11勝4敗をマーク。
1か月間における平均得点でも、1月はフランチャイズ史上ベストとなる平均118.9得点(リーグ3位)を残し、リーグ上位を保持するアシスト数でも平均28.6本という高数字をたたき出し、プレーオフ出場圏内へと浮上。ブルックス、ジャクソンJr.、モラント、バランチュナスの4選手が平均16得点以上を挙げるというバランスの良いオフェンスが奏功した。
「誰もグリズリーズが8位にいると考えてはいなかったはずだ。僕らは『君たちには時間がある。(低迷しても)気にするんじゃない。まだ若いじゃないか』といったことを言われてきた。でも僕らはそんなこと気にしたりはしない。若いかどうかは関係ないんだ。これはバスケットボール。僕らは競い合うことが大好きだから、『このチーム相手に勝ちたいなら、ガチで打ち負かしてみろよ』って感じさ。不調な夜もあるだろうけど、このチームはハードにプレーし続けるよ」。
2月19日に『HoopsHype』へ掲載された記事の中でジャクソンJr.がそう話していたように、グリズリーズの躍進は今季最大のサプライズと言っても過言ではない。2月からシーズン中断までの16試合を8勝8敗で終えたものの、ウェスト8位でシーズン再開を迎えられるのだから御の字だろう。
3.5ゲーム差でポートランド・トレイルブレイザーズ、ニューオーリンズ・ペリカンズ、サクラメント・キングス、さらにはサンアントニオ・スパーズとフェニックス・サンズが6.0ゲーム差以内で迫っているものの、7月31日から始まるレギュラーシーズン8試合で大きく勝ち越すことができれば、過去2シーズンにたどり着くことができなかったプレーオフ進出も現実となるため、グリズリーズは意気揚々とオーランドへ乗り込むに違いない。
“20歳のデュオ”モラントとジャクソンJr.を中心に3年ぶりの大舞台へ
昨季ケガに泣いたブルックスが今季はフル出場してチーム3位の平均15.7得点、昨季途中加入したバランチュナスが平均14.9得点11.2リバウンドの平均ダブルダブル、クラークが主にベンチスタートながら平均12.0得点5.8リバウンドにフィールドゴール成功率62.3パーセント、メルトンがモラントの控えを堅実に務めるなど、グリズリーズにはうれしい誤算が続いた。
だがこのチームを率いるのは若干20歳のデュオ、モラントとジャクソンJr.だ。特にモラントについてはプレシーズン期間中にジェンキンズHCが「彼が持つスピードと身体能力は間違いなく目立っている。だが私にとって、パサーとしての彼が持つゲームセンスも同様に際立っていると思うね。彼はチームメートたちがコートのどこにいるのかを把握しているし、トラブルに陥った時にパスで打開する際、どこへパスをさばけばいいのかも分かってるんだ」と『The Athletic』へ絶賛。
2ウェイ契約2年目を迎えた渡邊雄太も、3月14日に八村塁(ワシントン・ウィザーズ)、馬場雄大(Gリーグ/テキサス・レジェンズ)と行ったインスタライブの中でモラントについてこう話していた。
「ゲームを支配する力がハンパないんで。彼が乗り出した時って、もう止められないし、その判断力とかもすごすぎて。『えっ、そこからそういうプレーできるのか!』って。当然、判断力を実現できる身体能力があるんですけど、その選択肢の多さとポイントポイントで選択する正確さがすごすぎて。八村塁ではなく、モラントがルーキー・オブ・ザ・イヤーです」。
ラッセル・ウェストブルック(ロケッツ)に大きな影響を受けたというモラントは、190セチ79キロに驚異的な身体能力を持つポイントガード。長いキャリアを持つベテランさえも驚くような変幻自在のボールハンドリングスキルと絶妙な緩急をつけてディフェンダーをすり抜け、チームメートへの得点機会を演出しつつ、自らもフィニッシュまで持ち込む力がある。
シーズン中断直後に「俺はビデオゲームだと本当にダメだ」と自虐的なツイートをし、「いつでも(コートで)プレーする準備はできている」と宣言していたモラントは、4月4日に『Sports Center』とのインタビューに応じ、「俺は多分、自分のハイライトを100回は観た。自分で実況できるかもしれないくらいにね。でも俺は映像を観て自分のミスを見つけるようにして、向上できるところを模索しているんだ」と口にしており、プレーできない期間もバスケット漬けだったようだ。
グリズリーズは年明け以降にビッグマンのゴーギー・ジェン、万能戦士のジャスティス・ウィンズロウを獲得するも、後者は背中のケガのためまだ出場していない。4月末に『NBA.com』へ復帰できるまで回復したと明かしたものの、6月20日に新型コロナウイルスの感染リスクを危惧しており、「シーズンを再開させることが最高のアイデアだとは思わない」と発言していたことから、今季中の合流は微妙か。
とはいえ、シーズン再開に向けてグリズリーズは10日間契約で及第点の働きを見せたベテランのアンソニー・トリバーと今季終了まで契約する見込みで、本契約を結ぶ15名と、2ウェイ契約を結ぶ2選手も参戦できる可能性が高いため、渡邊がグリズリーズのユニフォームを身にまとってプレーする姿を見ることもできそうだ。
先日、マネジメント会社をとおして「シーズン中断から約3ヶ月が経ちましたが、チームトレーナーのアドバイスを基に室内トレーニングでも工夫しながら今できることに集中した甲斐もあり、同中断前よりも肉体的に改善できた部分も多くありました。メンフィス・グリズリーズの一員としてまずはプレーオフ進出を目指して頑張っていきたいと思っておりますので、引き続き応援よろしくお願いします」とコメントした渡邊の奮戦にも期待したい。