12月6日。NBAのレジェンド、トニー・パーカー(元サンアントニオ・スパーズほか)とBリーグのクラブにおけるユース部門の関係者数名が都内某所に集まった。今回、パーカーはNBAのプロモーションで来日したのだが、来年に開校するトニー・パーカー・アデクアット・アカデミー(以降、TPAA)のことをもっと知ってもらいたいという希望のもと、若手育成に関する意見交換会が行われた。ここでは、その模様をお届けしていきたい。
文=秋山裕之
取材協力:World Service Sports
パーカーがアカデミー開校の理由を明かす「若い世代を育てようと思ったから」
この場に集まった日本の関係者は、株式会社 ERUTLUC代表取締役の鈴木良和氏(日本バスケットボール協会 技術委員会 指導者養成部会 部会員)、アルバルク東京の塩野竜太氏(チームオペレーション アカデミーマネージャー アカデミーコーチ)、千葉ジェッツふなばしの佐藤博紀氏(バスケットボール本部 アカデミー部 部長)、名古屋ダイヤモンドドルフィンズの片岡秀一氏(育成担当 ユース・スクール コーチ/日本バスケットボール協会 技術委員会 指導者養成部会 部会員)、横浜ビー・コルセアーズの白澤卓氏(アカデミー事業部 ディレクター兼ユースチーム ヘッドコーチ)と大木瀬音氏(アカデミー事業部)、後藤岳人氏(G pt basket代表)。
パーカーと日本のユース世代の指導者たちを結び付けた鴨志田聡氏(NBA/FIBA公認代理人)が「来年、パーカーがフランスでアカデミーを開校します。Bリーグが始まってから、アンダーのカテゴリーにおける教育がスタートしたばかりで、学生がすぐに向こうへ行くことは難しいかもしれませんが、このミーティングをきっかけに、少しずつでも取り組みを大きくしていく。ゆくゆくはそういうふうにできればと思ってますので、クラブ側のご要望、何ができるのかとか、こうしてほしい、といったことを意見交換のような形でできればと思います」と切り出し、意見交換会がスタート。
まずはパーカーがTPAAというアカデミー開校の理由をこのように説明した。
「どうして僕が自分のお金を投資してアカデミーを始めようと思ったかというと、若い世代を育てようと思ったから。フランスで2番目に大きいリオンという街でこのスクールを作るんだけど、僕はオーナーとしてリオンでチームを持っています。男子と女子のチームがあって、バスケットボールスクールという側面があるだけじゃなくて、どちらかというとインターナショナルスクールという形でバスケットもやりながら、その子たちがバスケ以外でもちゃんと仕事を選べるように、教育の場の施設という役割も果たしている。現実的な話をすると、ここに来る子どもたちは95パーセントがプロのバスケ選手にはなれないですけど、その子たちがバスケ選手になれなかったとしても、ちゃんとした仕事に就けるように教育を施してあげるというものです。なんでインターナショナルなスクールにしようと思ったかというと、それは自分がこうやって日本に来たり、中国へ行ったり、NBAでプレーして、ヨーロッパに行ったりと、自分がインターナショナルな経験があるので、そういう子どもたちがインターナショナルな機会を得られるようになればいいなと思って、そういう形にしたんだ」。
「入校する基準は特に設けていない。行きたいというパッション(情熱)があれば、全然来てもらって構わないです」とパーカーが語ったアカデミーの特徴とは?
パーカーが自身のアカデミーへの思いを語ると、日本の育成関係者との質疑応答へ。
最初は「フランスはナショナルチームの強化など、すごく成功していると感じます。同時に、現状の育成システムに何か不足しているものがあると感じていらっしゃるから、TPAAという新しいプロジェクトを立ち上げたのでしょうか? 解決したいという問題があるとすれば、どのようなことでしょうか?」という片岡氏による質問。
この質問に対して、パーカーは「特にフランスの育成システムに問題があるとは思っていないんです」と否定し、「どちらかと言うと上積み。より良くしていきたいなと思ったから、こういうことを始めたわけです。これはスクールという側面よりも、キャンパス(大学)のような環境にして、いい選手、いい人間を育てようと思ったから、こういうのを始めました。実際に(フランス出身の)選手がNBAで10人くらいいますけど、そういった意味でも、フランスのバスケにおける教育システムは全然、悪いとは思っていません」と答えた。
そうなると、やはり気になってくるのは日本からパーカーのアカデミーへ留学することができるのか、という点。それについて、パーカーは「もう全然、ウェルカムというか、来てもいいですよ。僕はそのために(ここへ)来ているようなものですので。(フランス人との)ハーフであろうと、純然たる日本人の子でも全然いいですよ。そうやって違う環境で学ぶ機会を得ることはいいことなので、全然いいですよ」と、インターナショナルな経験を積んできたパーカーらしい言葉を残していた。
Bリーグのクラブのユースチームにも、選手がアメリカやカナダの高校へ行って経験を積んでいる中、「もちろん、アメリカはバスケの国ですけど、いろんな選択肢を持っておくのはいいことだと思います」とパーカーが口にし、自身のアカデミーのウェブサイト(https://tpadequatacademy.com/en/)を紹介。
そこでパーカーへ「日本の選手育成は、世界のレベルで競争して成長させていくことが大事だと思うので、今回そういうご縁もつながって、日本の選手がパーカーさんのアカデミーで育つ環境になるんだったら、すごくいい機会だなと思っています。では具体的に、そういう可能性がある選手がいるとして、選手のレベル的にはどうなのでしょうか。あと行ったとしたら、どういうレベルのゲーム経験ができますか。パーカーさんのアカデミーで競争しているレベルとは、スペインとかの強豪とやり合うレベルでしょうか。それとも、フランスにおける単独(国内)リーグでしょうか」という質問になり、自身のアカデミーについてパーカーはこのように答えた。
「1つ目の質問に対する答えとしましては、入校する基準とかは特に設けていない。(アカデミーへ)行きたい、というパッション(情熱)があれば、全然来てもらって構わないです。ただ、来てもらって、やっぱりその選手がいい選手でなければ、当然といえば当然ですけど、プロのレベルではプレーできないかもしれません。さっきも言ったとおり、そうじゃないとしても、自分たちの学校では教育とかも含めてケアをすることは可能です」。
そして2つ目の質問に対する答えとして、「僕のチームは(NBAに次いで)世界で2番目に大きいユーロリーグに加盟しているので、一番高いレベルとしては、そこでプレーする可能性もあります。でもそこでプレーするレベルではなかったとしても、その子に合ったレベルのチームへ入れてあげるので問題ないと思います。その選手がよければバルセロナとかレアルマドリード(いずれもスペイン)で。さっきも言ったように、その選手が高いレベルではなかったとしても、その子に適したセカンドキャリア、オプションを見つけられるように教育をしてあげます」とパーカー。
「アカデミーに来る子どもたちには、複数の国の子たちと接して文化の違いとかを感じてもらって、“バスケ馬鹿”にならないようになってもらいたいというのが僕の夢」
育成年代において、最も大切なのは「パッション(気持ち)」と語ったパーカーは、フランスのほかのアカデミーとの違いについて、TPAAが持つ多様性、インターナショナルスクールの要素を強調していた。
「一番の違いは、インターナショナルスクール的な要素が強いこと。スポーツでもバスケだけじゃなくてサッカーやテニス、eSportsといった選手の育成という側面もありますけど、僕のアカデミーとアデクアットという会社は12年契約をしていまして、インターナショナルスクールとしての機能も果たしている」。
そして「うちのアカデミーに来る子どもたちには、ヨルダンやインドだとか、複数の国の子たちと接していろんな経験をしてもらい、文化の違いとかを感じてもらって、バスケだけのいわゆる“バスケ馬鹿”にならないようになってもらいたい、っていうのが僕の夢です。もし皆さんの(クラブに所属している)選手へ違った文化でバスケをさせたいというのであれば、もっと教えてほしい」とパーカー。
Bリーグ関係者から「例えばそのアカデミーへ留学し、学校に伺ってチームとして強化試合をすることは可能ですか」と聞かれて、「それは全然問題ないです。いいアイデアだと思います。いろいろと関係性を築いていければいいと思います。そうすることによって、我々の学校についても分かってくれると思うんで」と好意的に受け止めており、近い将来、実現する可能性を感じさせた。
さらに、「日本でも、今回のように来日されてクリニックとかキャンプをやる計画はありますか。その際にはどういう条件をチームで整えておけばいいのでしょうか。パーカーさんのアカデミーとして、(日本で)キャンプのようなものを開催できますか?」という問いについても、パーカーはポジティブな見解を示していた。
「もちろん、日本でも喜んでやらせていただきたいですね。僕らもこうやって皆さんと関係性を築いていければと思います。体育館があればできるでしょう。参加者集めに関しては、たくさん来てもらったらいいですね。もし来るとしたら、自分のコーチとかスタッフも一緒に連れて、クリニックなどをします」と語り、参加者との写真撮影にも丁寧に応じて意見交換会は終了。
「オリンピックで再来日するので、戻ってくるのをとても楽しみにしています」
意見交換を終えたパーカーは「日本のユース事情が分かって勉強になった。我々(TPAA)がその部分の成長を助けられると思う。今度はTPAAの事業として、日本にも来れたらうれしい」と鴨志田氏へ話していたという。
「非常に人間性がしっかりしていて驚いたのですが、『ありがとう』と感謝する気持ちを常に表すところが印象的でした」と来日時のパーカーについて教えてくれた鴨志田氏は「2020東京オリンピックで再来日するので、また日本に戻ってくるのをとても楽しみにしています」とパーカーが発したことも付け加えてくれた。
戦力充実のフランス代表は、FIBAランキング5位と世界上位の強豪国。すでにオリンピック出場を決めており、来夏は優勝候補の一角として金メダルを狙う。パーカーも会場で選手たちへ惜しみないエールを送ることだろう。
オリンピックまであと1年を切った中で、パーカーのアカデミーがどこまで成長を遂げるのか。それと同時に、日本のユース世代がどこまで拡大することができるのか。とても楽しみであると同時に、今後も引き続き追いかけていきたい。