2017.03.05
長くキャリアを重ねてきたからこそ見える情景がある。かたやbjリーグの隆盛と衰退を、かたやNBLの“プレー至上主義”を目にしてきた。同じバスケットボールにして、そこには2つの文化があり、それが一体化して2人が交わった今、新しい世界が広がろうとしている。bjリーグの“生き字引”清水太志郎、日本代表としてNBLをけん引してきた広瀬健太。年齢は4つ違い、プレースタイルも異なるが、互いをリスペクトする。だからこそ良い“化学反応”が起こる。チームを先導する2人が、サンロッカーズ渋谷を、日本バスケットボール界を語り尽くした。
インタビュー=安田勇斗
写真=新井賢一、Bリーグ
――まずはお互いがどんなプレーヤーかご紹介ください。
清水 健太はチームの中心選手です。3番のポジション(スモールフォワード)ですけど、体が強いし、中に行けて外のシュートもある。僕がポイントガードとしていろいろなプレーを作る上で、最初の選択肢になるプレーヤーですね。
広瀬 太志郎さんは、周りの選手をうまく活かしてくれる、チームを先導してくれるプレーヤーです。コートに入るとパスが回るし、チームの安定感も増す。細かいところに気づいて、自分が欲しい時にパスをくれたり、味方に得意なプレーをさせてくれます。自分が、というより周りの選手がどうすれば気持ち良くプレーできるか、そこを考えてくれる選手ですね。
――コート外ではいかがですか?
清水 何回かご飯に行きましたけど、いつもバスケットの話ばっかりで、アツい男だなと。内に秘めてあまり表には出さないんですけど、バスケットの話になるとバババってしゃべるんですよ。みんなが思っている以上にアツい男ですね。
広瀬 いやいや(笑)、アツいというか、長くバスケットをやっているので負けたくないというか。どうすればチームが良くなるかという話をすると、太志郎さんがいいアドバイスをくれるので、つい本音が出ちゃうというか(笑)。
――逆に清水選手はどんな性格ですか?
広瀬 日本人ではチーム内最年長ですけど、若い選手とも外国籍選手ともフレンドリーで、チームの和を作ってくれています。経験豊富な選手なので、太志郎さんが言うとみんなも納得するという雰囲気がありますね。その一方でチームが勝っている時は、自分が納得いかなくても雰囲気を見てそれを抑えるところもあります。
清水 年を取るとともに、そういうのを身につけました(笑)。
広瀬 (笑)。例えば試合になかなか使ってもらえなくても、自分の感情は抑えて他の出場機会が少ない選手や、ミスをした選手に声を掛けたり。ベテランらしい、そういう振る舞いにはすごく助けられています。
清水 ヘッドコーチがいても、遠慮せずに言う時は言いますけど、確かに抑えるところもありますね。
広瀬 あと結構後輩をからかったり、逆にからかわれたり(笑)。
清水 からかうのは満原(優樹)だけですけど。それを健太が後ろで見てほくそえんでます(笑)。
――趣味などはありますか?
広瀬 落語が好きですし、ラジオも好きですし、本を読むのも好きです。SNSで自分から何かを発信するというより、自分で見聞きすることの方が好きですね。
――落語は実際に聞きに行くんですか?
広瀬 子どもが生まれてからはあまり行ってないですけど、去年までは2、3週間に一回は行ってました。オフの月曜日とかに。
――アスリートで、その若さで落語好きはあまり多くないかと思います。
広瀬 パナソニック(トライアンズ/現和歌山トライアンズ)時代に好きになって、今栃木(ブレックス)にいる渡邉(裕規)は僕よりももっと好きなんですよ(笑)。たまたま同時期に興味を持ち始めて、彼に寄席や独演会に行くことを勧められて、実際に行ってみてハマりました。一度、伊藤(駿)を連れて行ったんですけど、あいつはハマらなかったみたいです(笑)。
清水 ハハハ(笑)。
広瀬 この人ならハズレはないだろうっていう師匠が出る会をピンポイントで選んで行ったんですけどね。結構豪華なメンツで自信を持って連れて行ったんですけど、笑ってるのは僕だけでした(笑)。
※編集部注 後日伊藤に確認したところ、実は落語にハマったそうで以降も動画サイトなどで聞いているとのこと
――清水選手の趣味は?
清水 僕は温泉とか釣りとかですね。
広瀬 2人ともおじさんですね(笑)。
清水 (笑)。お風呂が大好きで、毎日3回か4回は入るんですよ。今日も13時集合だったので午前中に2回入りました。朝8時に入って、12時ぐらいにもう1回入って。
――一度にどれぐらい入ってるんですか?
清水 30分から1時間ぐらいです。サウナに入る時は2時間はいけます。大分(ヒートデビルズ/現愛媛オレンジバイキングス)にいた頃は、「温泉名人」を目指そうと思っていろいろなところに行きましたね。88カ所巡ると称号と手ぬぐいがもらえるんですよ。でも50何カ所で終わっちゃいました(笑)。
――話は変わりますが、清水選手はbjリーグのチームをわたり歩いてきました。今シーズン初めてNBL出身のチームに加入しましたが、NBLにはどんなイメージを持っていましたか?
清水 実は大学を卒業する時にNBLのチームから声を掛けてもらったんですけど破談になったんですよ。それもあって、自分の中でライバル心を持ってましたね、特に同期の選手には。でもバスケットボールが大好きなので、金曜日の試合などは趣味として見に行くこともありました。やっぱりうまいので勉強になりますし。プレーの部分で言うと、特にIQが違ったというか、当たり前のことを当たり前にできるすごさがありました。
――それは基礎技術がしっかりしているということですか?
清水 基礎技術もそうですし、判断力も全然違います。目に入って感じることに対してのリアクションが速い。たぶんペーパーテストだったら答えられると思うんですけど、それをコート上でできるかどうか。そこに決定的な違いを感じましたね。
――では実際にNBLのクラブに入ってみてどんなことを感じましたか?
清水 やっと同じステージに立てなと。同じ地区にはいないんですけど、別の地区にいる同期の選手を相手に、自分がどこまでできるか楽しみです。それと練習で言うと、環境が違いますね。ここは自前の体育館があって、ウェイトルームがあって、バスケットに集中できる環境が整ってます。で、周りには健太や満原のような日本代表選手もいて。そういうレベルの高い選手と一緒にプレーできるので、すごく刺激になるし質の高い練習ができています。
――逆に広瀬選手はbjリーグをどのように見ていましたか?
広瀬 あまり試合を見たことがないのではっきりしたイメージはないですけど、ブースターとの一体感や、試合の雰囲気作りなどは見習うべき点も多いと感じていました。プレー面で言うと、強いて言えばNBLの方がサイズだけは上回っていたと思います。でもスキルは変わらないですし、ストイックさや貪欲さはむしろbjリーグの方が強い印象があります。
――そのNBLとbjリーグが一つになり、今年9月にBリーグが開幕しました。
清水 ずっと議論されていましたけど、自分としてはリーグの考え方が違うから一緒になることはないと思っていたんですよ。だから一つになることは無理でも、交流戦や合同のカップ戦ができればと考えていました。両方にいいところがあって、NBLはプレーのレベルが高く、逆にbjは地域密着やプロクラブ経営などは秀でていたので、互いに学べるところがあるんじゃないかと。なので、一つになったことはうれしいですし、日本のバスケットボール界にとっても良いことだと思っています。
広瀬 僕もリーグが一つになることで、日本バスケットボール界が発展していくことはわかっていましたし、将来的にはそうならなきゃいけないと思っていました。ただ自分としては、開幕時にサンロッカーズがどのカテゴリーにいるかが心配でした(苦笑)。記念すべきBリーグ開幕の時にB2でスタートを切りたくなかったので、実際に今B1でプレーできてすごく喜びを感じています。
――無事にリーグが開幕しましたが、まだ伸ばせる部分はたくさんあります。より良いリーグにしていくためにどんな点を改善すべきだと思いますか?
清水 リーグが成長するために、まずは各クラブの経営を安定させることが大事だと思います。僕はbjリーグで経営的に苦しいチームに所属していたこともあって、給料の遅延なども経験してきました。この盛りあがるタイミングでリーグの足を引っ張ってほしくないし、選手としてもプレーに集中できる環境を維持してほしいですね。その上でもちろん、選手はプレーで返していくことが大切だと思っています。
広瀬 僕もプレーの質をもっと上げなきゃいけないと思っています。バスケットボールをいろいろな方に見てもらうためには、まずプレーのレベル向上が不可欠かなと。お客さんに来てもらうまでは、フロントや営業スタッフの力によるところも大きいですけど、実際に来てからは僕たちがどれだけできるかなので。試合を見た方々にすごい、面白い、また来たいと思ってもらえるプレーを見せないといけないと思っています。
――今シーズンからホームタウンが渋谷区になりました。どう感じていますか?
清水 体育館に来てくださるメディアも多いですし、皆さんに興味を持っていただいているのはすごく感じています。そこにいかに溶けこめるか、サンロッカーズが渋谷に入りこんでいけるかが大事になってきますね。青学(青山学院大学)は健太の母校ですし、後輩なのか、お客さんも若い方とかいろいろな方が来てくださっているので、そこはいいことだと思います。
広瀬 今までは正直、どこがホームタウンか意識できていなかった部分もあります。それが、渋谷区が全面的に応援してくださっていることで、自分たちも渋谷をホームタウンだと感じられるようになってきました。僕は青学の体育館で練習していましたし、大学のリーグ戦も戦っていました。久しぶりにここでプレーしているんですけど、やっぱり装飾されていて、照明や演出も派手なので、母校に帰ってきたという感覚があまりなくて(苦笑)。外観などはあまり変わってないので外から見るとなつかしさを感じるんですけど、中に入ると違う場所に来た感じですね。
――ここまで10試合を戦って、チームの戦いぶりをどう見ていますか(2016年10月28日取材)?
清水 勝ち試合を外から見ていると、激しいディフェンスで相手のターンオーバーを誘発して、外からのシュートをしっかり決めている印象があって、逆に負ける試合は激しさが足りない。そこがはっきりしてるので、まずはディフェンスからしっかりやることが大事だと思いますし、そのクオリティを上げれば、もっと勝てるようになるかなと。ここまでの成績は順当で、例えば川崎(ブレイブサンダース)に負けた時はディフェンスでねじ伏せられたし、そこに差を感じました。個々というよりはチーム力ですね。相手が強くても粘り強くディフェンスし続ける、チームとしてのメンタルを高めていかないと勝てない。あとは細かいプレー。足の角度を変えるとか、アングルを変えるとか、ちょっとしたことでシュートエリアに持っていけますし、川崎はそれができていて、パスもしっかり回せていたので、自分たちも突き詰めていかないといけないですね。
広瀬 自分はチームとしても個人としても、全く満足できていません。安定感が欠けていて、チームとしてどうやって打開していくのか、そこでまだ答えが出せていない部分があります。太志郎さんにも相談させてもらったんですけど、プレーでもうちょっと自分が引っ張っていかないと厳しいのかなとも感じています。チームのコントロールはもう1人のキャプテンである伊藤や太志郎さんに任せて、自分はもうちょっとアグレッシブに行ってもいいのかなと。何かを打開するために、自分がエゴイストにプレーすることで違いを生みだせるんじゃないかと思い始めています。
清水 健太が煮えきらない感じでやってるな、と思っていたら相談に来たので、自分の考えを話しました。僕はガードの考え方として、エースはわがままでいいと、気持ち良くプレーしてほしいと伝えました。BT(テーブス)コーチが求めているものを全員で取り組む中でも、時にわがままが必要な場面があるんですよ。だからエゴイストでいいって。その代わり結果で示せよ、と。
――各チームがこのように高いモチベーションで上位進出を目指す一方、リーグ全体の盛りあがりは開幕をピークに下がってきた印象があります。人気に火をつけるには何が必要だと思いますか?
清水 これはbjの考え方かもしれないですけど、バスケ以外の活動、例えば学校訪問やイベント参加など、そういう機会を増やすのも一つの手だと思います。さっきも言ったとおりバスケットの質を上げることも大切ですし、そこに100パーセントの力を注ぎこんだ上で、そうした取り組みも必要かなと。選手がどうしたらお客さんが来てくれるかを考えてもいいと思いますし、スタッフとミーティングをしてもいいかもしれません。練習に差し支えないところで、できることはやっていければと思っています。
広瀬 僕は今までそういうことをあまり考えてこなかった方かもしれません。もっと若い時は勘違いしたところもあって、見ている人は関係ないって思ってましたし(苦笑)。今は応援してくれる方々からパワーをもらって良いプレーができているとわかっているんですけど、じゃあもっと来てもらうためにはどうすればいいかと考えると、やっぱり一番は勝つことかなと。で、バスケット界全体を盛りあげるとなると、日本代表が勝つことしかないと思っています。僕自身がプレー以外のことを考える余裕がないのかもしれないですけど(苦笑)。
――チームを、引いてはリーグを引っ張る立場として、これからバスケットボール界をどう変えていきたいですか?
清水 夢ではなく目標として、バスケットボール界全体の目標として東京オリンピックで結果を残したいですね。そのためにまずはアジアで一番になること。具体的に目標を立てて、そこを見据えて取り組んでいくのがいいと思います。それと、アンダーカテゴリーも強化していきたい。単発で合宿をやるのではなく計画的に強化して、日本のバスケットを強くしていきたいですね。それと同時に、バスケットをメジャースポーツにしていくために、Bリーグを盛りあげていきたいと思っています。
広瀬 今バスケットをやっている子どもに憧れの選手を聞いたら、10人中9人か10人はNBAの選手を挙げると思うんです。でも、例えばサッカーだったら本田(圭佑)選手や香川(真司)選手の名前が出てくる。バスケットでも同じように、子どもが憧れる日本人選手を増やしていきたいです。そのためには、子どもに見る機会を作らないといけない。そして日本が強いと思ってもらわないといけない。自分たちが強くしていって、子どもたちが憧れる存在にしていきたいですね。
――そのために、選手としてどういうアプローチができると思いますか?
清水 自分は現役のうちに、子どもといっぱい触れ合いたいと思っています。もちろん引退してからも、何かを与えていきたいですけど、子どもにとっては現役選手の方が印象に残ると思うんで、そういう機会を増やしてバスケットに興味を持ってもらえればなと。それで子どもたちに試合に来てもらって、そこで自分たちが結果を出す。さっき健太が言ったみたいに、ああいう選手になりたい、Bリーグでプレーしたい、日本代表になりたい、そう思ってもらえるきっかけ作りを、僕らがしていかないといけないと思っています。
広瀬 自分は一つひとつやっていくだけです。どうやったらチームを強くできるか、どうやったら日本代表を強くできるか。僕はこれまでチームに足りない部分を見つけて、スキルアップして、その積み重ねでここまで来ました。全体像を見渡して、自分に何ができるか。各自がそれをよく考えて、チームのために、日本代表のために落としこんでいくことが、日本バスケットボール界の発展のために必要かなと。自分一人でできることは限られているので、みんなでやっていくことが大切だと思います。
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