大阪エヴェッサのチームの兄貴分であり、大ベテランでもある木下博之。地元大阪の桜宮高校から日本体育大学に進み、松下電器に入社。その後、2010年には30歳にして初めて日本代表に選出され、アジア大会に出場。パナソニックと日立サンロッカーズ東京(現サンロッカーズ渋谷)時代にはオールジャパン優勝も経験したベテランは、Bリーグ開幕に合わせて大阪エヴェッサに移籍し、地元へと帰還した。溢れる闘争心と類まれなスキル、高いシュート力を武器に若いチームをけん引する。Bリーグが後半戦に差し掛かるタイミングで日本バスケットボール界を深く知る木下に、自身を取り巻く環境や今後の意気込み、さらに毎日通うという銭湯など様々なテーマについて聞いた。
インタビュー=村上成
写真=Bリーグ
――チームの特徴を教えてください。
木下 率直に言うと若いチームです。ベテランが多いチーム、中堅が多いチームとありますが、大阪エヴェッサはどちらかというと若いチームですね。
――その中だと、木下選手は年齢ではかなり上の方ですね。
木下 そうですね(笑)。一回り以上も年下の選手もいますね。若いチームなので、1シーズン戦って成長する伸びしろもあると思いますが、若さゆえに勢いだけだったり、修正ができない部分もあるので、良いところも悪いところもあります。試合中の判断だったり、試合の流れだったりは徐々に良くなっている選手はいますけど、状況判断で悩む選手もいるので、コーチ陣と一緒にアドバイスするなど、僕ができる部分は意識して取り組むようにしています。
――世代間のギャップなど感じることはありますか?
木下 多少はありますけど、関西のノリで何とかなりますね。もしかしたら、これが関東の若いチームやったらキツいかもしれませんが(笑)。
――俺のここを見てほしいというところはありますか?
木下 もともと点を取るのが大好きなプレーヤーだったんですが、年齢を重ねるごとに、味方を使い、チームメートが活躍して勝つということが、ガードとしての役割というのがわかってきました。自分ばかりが点を取っても、周りが成長しないですし、チーム全体を強くしていくようなプレーを心掛けています。ただ自分で行きたい時や、攻めなければいけない時には積極的に点を取りに行きます。
――せっかくパスを回しているのに、うまくいかない時はイライラすることもありませんか?
木下 昔はありましたね。だから、自分で点を取りにいったんだと思います。でも、今はなくなりました。試合は相手がいるものなので、うまくいかなかった時は自分たちが悪いというよりも、相手が駆け引きに勝ったと考えるようにしています。
――NBAや他チームで憧れの選手はいますか?
木下 若い頃は「こういう選手になりたい」みたいなことはありましたけど、この年齢になってくると上の年齢は折茂(武彦/レバンガ北海道)さんしかいないので(笑)。今はNBAを見る時も、特定の選手というよりは同じポジションの選手を見て参考にしています。
――Bリーグの若手の中で、こいつうまいなと感じる選手はいますか?
木下 たくさんいます。若手もどんどん伸びてきているので。何人か挙げるとしたら、比江島慎(シーホース三河)、田中大貴(アルバルク東京)の2人ですね。あのあたりが日本を引っ張っていくと思います。比江島も田中もそうですけど、個人の力で状況を打開できる力があります。セットプレー以外で自分自身で流れを作り、他のプレーヤーも活かしてゲームを作るという力です。そういうプレーヤーは日本にはなかなかいなくて、それができるのはあの2人かなと。千葉ジェッツの富樫勇樹も今話題になっていますが、彼はサイズが小さい分、スクリーンなど味方を使ってプレーすることが多いと思います。比江島、田中は、それがなくても試合を作っていけるので、そういった部分でも日本を引っ張っていける選手だと思います。
――今までは、個で局面を打開できるプレーヤーは少なかったのですか?
木下 これまでは、サイズによってポジションなどの役割を決められることが多かったのですが、比江島、田中はサイズがあるのにガードっぽいこともできるし、パスやシュートもできる。やっと日本にも、そういう選手が出てきたかなという印象です。2人とはあまり接点がないので、そのまま書かれると恥ずかしいですけど(笑)。
――実際に対戦すると比江島選手、田中選手はやりにくい相手なのですか?
木下 まあ、ポジション的にマッチアップすることは少ないですけど、外から見ていてそう思いますし、試合していて出てきたら嫌だなと思いますね。
――なるほど。ありがとうございます。話を少し変えますが、趣味は何ですか?
木下 銭湯ですね(笑)。毎日行ってます。
――やはりそうなんですね。他の記事を見ても、銭湯の話が多いですよね。昔からお好きなんですか?
木下 いや、社会人になってからですね。自分のお金で行くようになってからです。
――あちこちでお話されているとは思いますが、銭湯の魅力は何ですか?
木下 自分の時間を持てることですかね。1人で何も考えずにいることができますし、バスケットのことを集中して考えることもできますし、体のケアもできますし。
――一番気に入っている風呂は何ですか? 檜風呂とか高酸素風呂とか。
木下 サウナから水風呂のセットですね。回数は体重とか、練習の強度とかその時の調子にもよります。
――ちなみに何分くらい入るんですか?
木下 うーん。1回7分から10分を3セットから5セットと自分の中では決めています。良いのか悪いのかわかりませんけど、サウナ内にはテレビもあるので、見ていてこのタイミングは出られへんわ、という時には延ばすこともあります(笑)。この前、ボクシングの井岡一翔選手(現WBA世界フライ級王者)の試合を見ていて、何度も出たり入ったりし過ぎて、脱水症状になりかけました。「もう、早く勝ってくれよ!」と思いましたよ(笑)。
――チームメートに銭湯を勧めることもあるんですか?
木下 僕の影響かわかりませんけど、チームのスポンサーをしていただいているスーパー銭湯に、みんなよく通ってますね。「お前ら、そんなに銭湯行ってたか?」と思いますもん。ハマってますね、みんな。風呂で会ったら、話をすることも多いですし、コミュニケーションが取れるのもいいですね。もうチームメートとは裸の付き合いです(笑)。
――他に好きなスポーツはありますか?
木下 見るのは野球が好きですね。阪神タイガースのファンです。するスポーツは、最近は全然やらないな……。もともとはバレーボールをやってました。両親が体育の教員で、部活の顧問もやってたんで、小さい時はよく付いて行ってましたね。バレーはなかなかうまいですよ(笑)。
――そうなんですね。どうしてバレー部に入らなかったんですか?
木下 バレー部がなかったんですよ、中学校に。あっても、やっていたかはわからないですけど。というか、何でバスケをやってたのかもわからないです(笑)。室内の競技が良くて、バスケが流行っていて、やり始めたと思うんですけど。
――そんな中で、バスケにハマっていったきっかけや、面白いなと思ったことは?
木下 いや、バスケ全然面白なくて。ただ、何でこいつらにできることが自分はできないんだって感じたんでしょうね(笑)。だから、めちゃくちゃ練習してましたもん。楽しくてやってたんじゃなくて、ただただ負けず嫌い根性でやってました。うまくなったら、また目の前にうまいやつが登場して、また負けるもんかって練習して、その繰り返しです。
――今までマッチアップしていて、何でこいつに勝てないんだろうって追いかけていた存在はいますか?
木下 若い頃は、佐古(賢一/現広島ドラゴンフライズヘッドコーチ)さんや節政(貴弘/元東芝ブレイブサンダース)さんというスーパースターがいまして、その方々が引退していった頃には、誰にも負けるもんかという自信はありましたね。ただ、僕の年代は層が厚くて、田臥(勇太/栃木ブレックス)、柏木(真介/シーホース三河)、五十嵐(圭/新潟アルビレックスBB)は今も続けていて、彼らとはずっとライバル関係ですね。
――19節の栃木戦では田臥選手ともマッチアップがありますね。意気込みをお願いします。
木下 まあ、田臥とももう10年、いやもっとか10何年試合しているので、今さら楽しみですってことはないですね(苦笑)。でも、栃木と試合をするのは楽しみです。大阪がどこまで戦えるのか、どう倒すかを考えるのは楽しみですね。
――田臥選手のここはうまいなというところはどこですか?
木下 さっき、比江島と田中の時にも言いましたが、田臥も自分でゲームを作れる選手なんですよ。味方も使えるし、困った時には自分でも行ける。ゲームを支配できる能力を持っている選手ですね。彼とはずっと試合をしていますけど、本当にうまいです。
――逆に田臥選手よりもご自身が勝っているところはどこですか?
木下 シュート力です(笑)。それは、田臥本人も思っているんじゃないですかね、たぶん(笑)。
――バスケットボール自体が観るスポーツとして盛りあがっていくにはどうしたら良いでしょうか?
木下 田臥や富樫のように、魅せるバスケットボールもできるプレーヤーが増えてきているので、今までのような型にはまったプレーではなく、観客が驚くようなプレーをできる環境は整ってきました。あとは白熱した接戦や見ていて感動できるプレーが多くなってくれば、もっとお客様が来てくれると思います。
――なるほど、そうですね。
木下 僕の年齢だから言えることだと思いますが、そのためには選手、チームのスタッフだけではなくて、オフィシャル、レフェリーも含めてレベルを上げていかないといけないと思ってます。お客様が「え? なんでやねん」とバスケットボールに関わるみんなが思ってしまうような状況は避けないといけないですよね。どんなに良いプレーが出ても、お客様もシラケてしまう。レフェリーもオフィシャルもプロ化するなど、環境を変えていく必要は感じますね。
――ところで、話が上手ですね(笑)。
木下 そうですか? 話し方の本とかを読んで勉強してます(笑)。僕の夢は小学校の頃から指導者なので。何と言っても親が部活の顧問ですし、昔からの夢なんです。何年後かに指導者になっていたら、また、取材に来てください(笑)。