2017.02.05
穏やかな日差しに恵まれた週末だった。シーホース三河のホーム、ウィングアリーナ刈谷へ向かうタクシーのベテラン運転手は「今日は鹿児島からバスケットボールを見に来たお客さんを乗せたよ。アリーナまでの道も混んでいるし、バスケットも盛りあがっているね」と微笑み、「今日は三河と東京何とかの試合なんだろう? 今は千葉が強いんだよね」と続けた。タクシードライバーとバスケットボール談義に花が咲き、少しずつだが、Bリーグの認知と、バスケットボールの盛りあがりを感じることができる。
交流戦ならではの好カードを取材するために刈谷へ訪れたわけだが、ここを本拠地とするのが三河だ。チームの前身であるアイシン精機時代から強豪として日本バスケットボール界に君臨し、2016年9月に開幕した新リーグにおいても西地区首位と、変わらずその強さを見せつけている。もっとも、伝統に裏付けられた強さとは反対に、大きく変わったことが1つある。それは試合運営だ。
Bリーグ開幕当初から「エンタメのbjリーグと実力のNBL」と言われていた。早くにプロチームとして活動を開始し、興行面において観客を楽しませることを意識していたbjリーグと、競技強化を中心にバスケットボールに向き合ってきたNBL。後者の無骨で“エンタメ下手”なイメージが強い三河だが、Bリーグが開幕して以来、各節、盛りだくさんの催しもので試合以外での魅力も伸ばそうと懸命に取り組んでいる。
1月28日、29日の第18節。この節はリーグ屈指の強豪、アルバルク東京を迎える一戦ということもあり、「激突」をテーマとした『激闘!プロレスがやってくる!』と題した出張プロレスを開催。その他にも、『激突!ファン対抗!バブル相撲』や『激熱!豆まき大会』に加え、『激似!似顔絵コーナー』、『激レイ!選手へ熱いメッセージを』など盛りだくさんのイベントが行われた。
アリーナに一歩入ると、世紀末に北斗七星にちなんだ拳法を使うあのアニメのテーマ曲が流れており、“激突感”もより高まる。豆まきなどはテーマ設定に合っているのか若干ツッコミどころはあるものの、これもまた「激突」の一つなのだろうか。三河は各節にテーマを設定し、現場の担当がそれぞれの持ち場で同じテーマの下、ぶれずに試合の運営を行えるように工夫している。テーマを設定することで、各自がバラバラに動き、まとまりのない興行になることを防止する効果があるという。
ちなみに、これまで設定されたテーマの一例を挙げると、『Hello Win(ハローウィン)』や『シーホースのブルークリスマス』など季節に合わせたものはもちろん、少し変わったものでは、昨年11月5日、6日の滋賀レイクスターズ戦では『縁結び』をテーマとして、ペアルック撮影イベントを実施。2017年初めてのホームゲーム、1月19日の大阪エヴェッサ戦は、テーマを『満福~まんぷく~』とし、福を招くイベントを行った。プロ野球やJリーグなどには人員や予算の面でまだまだ及ばないかもしれないが、アリーナへ足を運んでくれた新規ファンに対し、イベントやショーなどで1日中楽しんでもらいたいという運営サイドの強い想いが伝わる。さらに、会場装飾にも少しずつ力を入れ始めており、チームカラーのブルーをアリーナ各所に施して、“非日常的な空間”作りに努めている。
また、この日も家族連れが目についた。チアリーダーのダンスに目を輝かせる小さな女の子や、アイザック・バッツの4つ目のファウルを心配する男の子だけでなく、恥ずかしそうにディフェンスコールを送る母親など、それぞれに試合を楽しむ姿は、家族の娯楽にバスケットボール観戦がなじみ始めていると実感した。
伝統あるチームが、その強さに依存することなく、アリーナへ足を運ぶお客さまのために知恵を絞って“おもてなし”をする。bjリーグ出身チームのホームゲームには慣れや経験で劣る部分はあるかもしれないが、「楽しんでほしい」と願うスタッフの気持ちは他のチーム同様に熱い。
ホームゲームの開催回数も多く、次から次へとアイデアを出しては実行に移すのは大変なことだが、足を運んでくれたファンの笑顔が、その苦労を癒してくれるはずだ。比江島慎や金丸晃輔など日本を代表する選手を擁するチームの実力は折り紙付き。「アリーナに来場してくれれば、シーホースを好きになってくれるはずだ」というチームに対する信頼感とプライドが、運営スタッフを突き動かす原動力なのかもしれない。
文=村上成
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