Bリーガーにバッシュへのこだわりを聞いていく連載、第9回。今回登場するのは、岸本隆一選手(琉球ゴールデンキングス)。沖縄で育ち、沖縄のプロチームで活躍するポイントガードは、どんなシューズを相棒に選んでいるのか? 今回の取材ではバッシュのことに加え、プレーの参考にした選手や憧れた選手についてのこともたっぷりと聞くことができた。そこで前後編に分けてお伝えする。今回はその後編だ。
取材協力=琉球ゴールデンキングス、イケメン広報
文=CARTER_AF1
手が届きそうで届かなかった思い出のバッシュ
――これまでのお話で岸本選手のバッシュ遍歴がよくわかりました。では、「子どもの頃に履きたくても履けなかった憧れのシューズは何?」と聞かれたら、何をピックアップしますか?
岸本 『AIR JORDAN 11』です、黒赤のカラーのモデルを覚えています。高校の時も履きたかったんですけど、手に入れるチャンスがなかなかなくて。中古買取屋さんが家の近くにあったので、当時は毎日のように通っていました。「今日こそは入荷してないかな?」と(笑)。そう簡単には出会えないんですけど、でも(『AIR JORDAN 11』を入手するには)、そういう奇跡を起こすしかないかなって。
――手頃な価格で、自分の足に合うサイズでとなったら、毎日通って奇跡を信じるしかないと。
岸本 いや、実はあったんですよ。
――出会えたんですか?
岸本 黒青のカラーです。その中古買取屋さんに、『AIR JORDAN 11』の29センチが入荷していて。僕は当時28センチや28.5センチを履いていたので、このサイズならいいぞ、と思って。でも価格を見たら2万円くらいで。2万円にもなると、高校生ではすぐ買おうとはならないじゃないですか。それで、どうにかならないか、なんとか買えないか、と考えていたら…2日後ぐらいに高校の先輩が買っていったんです(笑)。「えー!何でなくなってるの!?」となったら、先輩が買っていたという。実はその先輩、今ゴールデンキングスのフロントにいるんです。先輩は覚えているかわからないですけど、僕は今でもしっかりそれを覚えています(笑)。
――何という巡り合わせでしょうか。それではこの他、バッシュに関する面白いエピソードがあれば教えてください。
岸本 面白いかどうかわかりませんが。ゲームで履くバッシュの色のチョイスは、嫁にやってもらってます(笑)。
――ユニフォームの色に合わせている訳じゃないと?
岸本 というわけでもなく。
――奥様に選んでいただいているのは、ジンクスか何かですか?
岸本 そういう面もありますね。「この間調子悪かったんだけど、バッシュはどれがいいと思う? ちなみに調子悪かった時はこの色だった」と聞いて、嫁に「じゃあこっちの色にしたらいいんじゃない?」と言われたら、それにしたりとか。「今日のホームゲームのユニフォームは普通にゴールドなんだけど、バッシュは黒と赤だったらどっちがいいかな?」と聞いて、「黒がしっくりくるんじゃない?」と言われれば、なるほどじゃあ黒にしよう、という感じで。ゲン担ぎじゃないですけど、そこは嫁にあやかってます。
――それで結果が出ているんですから、奥様“さまさま”ですね。
岸本 本当に。最近はずっと黒を履いていて、(調子が良くて)それが続いています。
――調子がいいなら続けた方がいいですよね。では奥様にはその間も、「黒でいいかな?」と確認されると。
岸本 そうですそうです。しょうもない話ですけど(笑)。
――岸本選手が憧れた・参考にした選手を教えていただきたいのですが?
岸本 それについてはかなり多くいるのですけど、今パッと思いついたのは、ジェイソン・ウィリアムス(元サクラメント・キングス他)【注1】ですね。“ホワイトチョコレート”はめっちゃ好きでした。
【注1:サクラメント・キングスでNBAデビューし、魔法のようなテクニックでファンを魅了したポイントガード。スウィートムーブ(素晴らしい動きの意)やストリートマインドを感じさせるトリッキーなパスワークにより、“ホワイトチョコレート”というニックネームでも呼ばれた】
――テクニカルなガードというか、パスが巧い人が好きだった?
岸本 パスというか、自分ではできないことを見せてくれる選手が好きなんです。「うわぁスゲェ!」となるような。
――ジェイソン・ウィリアムスみたいになりたい、ということではなく、とにかく憧れたというイメージでしょうか。
岸本 そうですね、中学・高校ぐらいまでずっと、ジェイソン・ウィリアムスのことはかっこいいなと思っていましたから。それこそ、当時のメールアドレスも“whitechocolate(ホワイトチョコレート)”にしていましたから。“ジェイソンウィリアムス”というメールアドレスにしちゃうと、ちょっとストレートすぎてダサいなというのが自分の中であって。ホワイトチョコレートだったら、隠語っぽくていいかなと。
――わかる人はわかると。メールを送った相手が、「おっ!?」と言ったら。
岸本 「お、お前ちゃんと知ってるじゃん」、と(笑)。
――なるほど。サクラメント・キングスもお好きだったのですか。
岸本 はい、キングスのゲームはよく観ました。かなり好きでしたよ。当時のメンバーのブラデ・ディバッツ(元ロサンゼルス・レイカーズ他)やダグ・クリスティー(元トロント・ラプターズ他)、クリス・ウェバー(元ワシントン・ウィザーズ他)など、よく覚えています。
ステフィン・カリーよりも先に始めていた『ディープスリー』
――偶然とはいえ、今はキングスと名のつくチームにいらっしゃる。しかも”琉球ゴールデンキングス”。
岸本 サクラメント・キングスよりも強そうな名前ですよね(笑)。それと、大学生になったぐらいからは、ステフィン・カリー(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)【注2】を見るようになりました。
【注2:NBA王座やシーズンMVPを始めとして既に数々の栄冠を手にしている、史上最高と名高いシューター。3ポイント全盛時代となった現代NBAの象徴的存在】
――岸本選手のイメージとして、スリーポイントラインとの距離を気にせず、かなり遠い位置からでもスリーポイントを打つ、というものがあります。あれはやはりステフィン・カリーを見ていたからでしょうか?
岸本 あの、これは大きなこと言うなあ、と聞こえてしまうかもしれませんが。僕は、ディープスリー【注3】については、彼が後からやった、と思っているんですよ(笑)。
【注3:スリーポイントラインから離れた位置から狙う、リングまでさらに距離の長いスリーポイントシュートのこと。距離が長くなる分難しいシュートとなるが、ディフェンダーが反応しづらいという利点もある】
――おお!? そこはもっと詳しくお聞きしたいです。ちなみにカリーは2009年にはNBAにいましたが?(笑)
岸本 その頃からいましたよね、もちろんディープスリーも打っていたと思います。けど僕はそれ以前、高校の時からライン気にせずスリーポイントを打っていたので。友達とも、「いつになったら4点ゾーンできるのかなあ?」なんて冗談で話していたりもしました。最近結構言われるんですよ、ステフィン・カリーに似ていると。もちろん彼のプレーを参考にしている面は色々ありますが。ディープスリーに関して言えば、俺が先だぞと(笑)。
――なるほど。世界がカリーを見つける前に、俺はもうやっていたぞと。
岸本 はい。そもそも始めたのは、相手選手もその位置まではチェックに来ないディフェンスをしているから、でした。それから練習して、高校1年の頃からディープスリーはもうバンバン打っていましたね。
――そして大学になるとNBAにカリーという選手が入ってきた、と。
岸本 そうですね、パッシングスキルとか、体の使い方とか、参考になる部分がたくさんあったので。大学生の時は、勉強という意味で彼のプレーはよく見ていました。
――では憧れたのはジェイソン・ウィリアムスで、参考にしたのはステフィン・カリーだったと。
岸本 大学時代なら、参考にしたといえばジャマール・クロフォード(ミネソタ・ティンバーウルブス)もそうです。
――参考にしたのは彼のボールハンドリングですか?
岸本 はい、”シェイク&ベイク” 【注4】でしたっけ?あれを僕もゲーム中にやろうとして、ことごとくターンオーバーしました(笑)。
【注4:ジャマール・クロフォードが得意とするプレー。ディフェンダーの前でドリブルを自身の背面に通し、そのまま抜き去りつつステップを踏んでレイアップシュートにつなげる。スピードに乗った状態から繰り出すため非常に難易度が高い】
――あのプレーをゲームで決めたら、会場が大いに盛り上がりますよね、沖縄市体育館なら大歓声できっと爆発すると思います。
岸本 本当にそうですね。クロフォードのムーブは、大学のころはよく真似して練習していました。
――その他には?
岸本 ちょっと前までは、アイザイア・トーマス(デンバー・ナゲッツ)のプレーも。(175センチという)彼の体格でゴール下に切れ込んでレイアップにいけるというのが、そのスキルの凄まじさを象徴しているなと。そういう部分を学べる選手です。彼やカリー、ですね。
――しかしディープスリーに関しては、カリーよりも自分が先だぞ、ですよね?
岸本 はい、そこはもう(笑)。
――逆にマッチアップしてみたい選手はと聞かれたら?
岸本 しいて言えば、スティーブ・ナッシュ(元フェニックス・サンズ他)でしょうか。それとジェイソン・キッド(元ダラス・マーベリックス他)。彼らの凄さを体感してみたいですね。きっとテレビの画面からだけでは伝わらないものがあるはずです。チームを勝利に導くための決断力だったり、試合の流れを読む力だったりは、同じコート上で対峙しないとわからない部分だと思うので。その凄さを感じてみたいです。
――ところで、沖縄のバスケ熱は本当に高いと思うのですが、岸本選手がそれを感じる時はいつですか?
岸本 何と言いますか、普段の生活からではないかなと。沖縄の人って、ほとんどの人がそうじゃないかと思えるぐらいにバスケウェアを持っているんですよ。道を歩いていると、バスケウェアを着ている人とたくさんすれ違います。あと、ストリートバスケも盛んだということも以前から言われていることですが、そういう部分をバスケ熱だと思っていないところが、逆にいいんじゃないでしょうか。本当に生活の一部というか、自然と、バスケウェアかっこいいじゃん、みたいな。沖縄のストリートだと、バスケがうまいかどうか関係なく誰でもやっていますし。バスケットボールが好き、というのが純粋に生活の中にあるのだろうと思いますね。
――「バスケが生活の中に自然とある沖縄」、まさにバスケどころですね。改めてバッシュに関しての質問です。現在岸本選手が所有されているバッシュ、もしくはスニーカー類は、全部で何足ほどありますか?
岸本 今は15足から20足くらいだと思います。そのうちプレー用は5足ぐらいです。
――これからバスケを始める人が初めてバッシュを買う時、どうやって選べばいいかを悩んでいます。岸本選手だったら、どんなアドバイスを送りますか?
岸本 それはもう、好きな選手が履いているバッシュを選べばいいと思います。僕はそういうところが入口でしたし、不思議と、バッシュ履いたらその人の気分になれるというか。僕も『CURRY』シリーズを履き始めた時、カリーみたいにばんばんシュート入ると勘違いしていたので。でもそうした理由でもいいから、自分が気になる選手のシューズを、まずは買ってみるのがいいんじゃないかと思いますね。
――最後の質問です。あなたにとって、バッシュとはどんな存在ですか?
岸本 う~ん、難しいですけど…心臓、でしょうか。シューズのありがたさは本人にしか感じられず、外からはわからないと思うんですよ。でも絶対に必要なもので、それが機能していないと、履いている選手がうまくプレーできない。そういう意味でも、心臓のようなものだと思います。
――外からはわからなくても、鼓動して血を通わせている、そんなイメージですね。質問はこれで以上となりますが、他にこれだけは言っておきたい、ということが何かあれば。
岸本 ちょっとセールスっぽくなりますけど、僕が今履いている『UA HOVR HAVOC LOW』は、ほぼ足、素足です。本当にいい!
――ほぼ足! ありがとうございました。
岸本 ありがとうございました。
【この一足~バッシュへのこだわり】岸本隆一「アンダーアーマーの顔であるステフィン・カリーよりも、僕の方が先だったんです」(前編)はこちらのリンクから→ https://basketballking.jp/news/japan/20181129/118728.html