2020.12.06

千葉ジェッツのベテラン西村文男の存在感、「勇樹が宿った」タフショットと勝利所の意識

攻防において勝負所で持ち味を発揮した西村文男 [写真]=B.LEAGUE
フリーライター

「途中のジャンパーは普段見せる(富樫)勇樹が宿ったのかなと思います。あれをイメージして打ちました」と千葉ジェッツのガード、西村文男がコート中央で活躍した選手としてインタビューに答えると、船橋アリーナは大きな拍手に包まれた――

 それもそのはず、12月5日の島根スサノオマジック戦で第3クォーターに逆転を許したチームを、第4クォーターで再逆転に導き、92-83で勝利する立役者になったからだ。出場時間は今季最長20分に及び、最後の10分間だけで7得点3アシストの活躍ぶり。特にハイライトは残り5分を切って4点差を追う展開中から、速攻で走って3ポイントシュートを沈め、さらには相手のタイムアウトを挟んで残り3分46秒に、冒頭の「勇樹が宿った」と表現する勝ち越しのタフショットを決めたこと。終盤は的確な状況判断で、リードを広げてゲームをクロージングした。

 この試合、千葉は西村にラスト10分の司令塔役をすべて任せた。彼らが追いかける展開の場合、勝負所で富樫投入も想像できたが、今日はそうしなかったのだ。富樫のフィールドゴール成功率が14.3パーセント(2/14本)と振るわなかったことも考えられたが、そうではなく、大野篤史ヘッドコーチは記者会見で、理由を次のように明かした。

「もし得点を獲りに行かないといけない時間帯が出てくるのであれば、(富樫を)戻そうと思っていたのですが、それよりも(試合の)流れが良かったです。オフェンスリバウンドも3クォーターで7本(公式記録6本)も獲られていましたが、4クォーターで2本になっており(試合の)コントロールができていました。相手の得点が伸びていなかったので、自分たちの得点よりもディフェンスのインテンシーを優先させました」

 では西村本人はその時間帯、どう感じていたのか。その言葉からはやはり、チームとして大事にしている守備へのフォーカスだった。

「3クォーターの出だしから、4クォーターに入るまでうちの流れではありませんでした。たまたまジャンパーは入って良かったですけど、それ以上にディフェンスです。ルーズボールやリバウンドの意識をしながら“チーム”で戦うようにしていました。それが良い方向につながったのかなと思います」

 72-79で迎えた4クォーターのオフィシャルタイムアウト以降、彼らは20点を積み上げた一方で、失点をわずか4点に抑えた。その背景には西村に加えて、佐藤卓磨コー・フリッピンが好守を見せ、チームでリバウンドやディフェンスの強さが蘇ったことも要因であり、大野ヘッドコーチも西村を含めて「本当にチームを助けてくれたと思っています」を話している。エースの不調を感じさせず、ベテランを中心に全員でカバーできる地力の差を見せてくれた。

 もっとも悲願のBリーグチャンピオンを狙う千葉ジェッツにとって、こういった試合は勝っただけで喜べるものではなかった。指揮官はオフェンスリバウンドを20本も与え、セカンドチャンスポイントで28失点したことや、ボール際で甘さが出ていることを嘆き、「これでも勝てたから良しとしてはいけないと思っています」と語気を強める。

 そして西村も「勝ててホッとしています」と話す程度だった。6日の第2戦に向けてヘッドーコーチ同様に課題は認識済み。それでも「(4クォーターに)任せたもらったからには、チームを勝たせようという思いでやっていた」と話す、プロ12シーズン目、ジェッツでは7シーズン目を迎えるベテランがいることは心強い限り。改めて彼の存在感を感じた試合だった。

文=大橋裕之

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