2023.02.10

「当初はプロを目指していなかった」渡部琉、仙台89ERSで新たな物語をスタート

特別指定選手として仙台でプレーする渡部 [写真]=鳴神富一
1981年、北海道生まれ。「BOOST the GAME」というWEBメディアを運営しながら、スポーツジャーナリストとしてBリーグを中心に各メディアに執筆や解説を行いながら活動中。「日本のバスケの声をリアルに伝える」がモットー。

 大学界屈指のスコアラーが“杜の都”仙台でプロバスケットボール選手として新たなスタートを切った。彼の名は仙台89ERSに特別指定選手として加入した中央大学4年の渡部琉だ。

 渡部は大学2年次から特別指定選手として秋田ノーザンハピネッツ広島ドラゴンフライズでプレーし、2022年に3x3日本代表として「FIBA 3×3 NATIONS LEAGUE 2022 ASIA」に出場するなど、5人制と3人制をこなすウイングタイプのユーティリティープレイヤー。高いハンドリング能力とスコアメイキングを誇り、大学3年次に「第97回関東大学バスケットボールリーグ戦」で得点王に輝いた実績を持つ。

 渡部の言葉を借りると「本当に高校で燃え尽きてしまった部分が若干あって、バスケを続けたかったけど、プロとしてキャリアを続けようと思っていなかった」と、当初はBリーグでのプレーを望んでいなかった。しかし、「いろいろなタイミングと偶然が重なって特別指定選手として契約できた」と振り返った秋田での時間が、彼のマインドを一気に変えた。

「秋田での経験を機に、プロ選手になりたいと思い始めて。そこから縁があって3x3の舞台にも呼んでいただき、海外の選手と戦う経験もできました。中央大学では悔しい結果に終わってしまったけど、大学4年間での様々な経験のお陰で、自分自身のバスケへの想いは180度変わったと感じています」

 様々な経験を経て、仙台と特別指定選手として契約を決断した理由には「情熱と成長」という言葉が潜んでいる。

「過去2シーズン、秋田と広島で特別指定選手としてプレーして、やはりプレータイムが欲しいという考えに至りました。そのなかでTheoさん(藤田弘輝ヘッドコーチ)から具体的な起用法も含めて、熱烈なオファーをいたいたのが大きな理由の一つです。東京に一度来てくれて直接話ができ、その後も何度か連絡をいただきました。そして、オフェンスでの持ち味を活かし、ディフェンスチームを標榜している仙台で自分のディフェンスレベルを改善できると考えたのも理由です」

 そんな渡部はチーム合流直後から試合に出始め、セカンドユニットとしてコートに立っていたが、直近はケガ人の復帰などが影響して試合に出場できない時間も多い。それでも、熱烈なオファーを出した藤田HCは最大限の期待を寄せている。

第21節を終えて8試合に出場 [写真]=B.LEAGUE

「サイズ感やオフェンスセンスのスペックはあって、彼はそういうセンスを持っています。一方でプロレベルのプレースピードやフィジカルに、まだまだ慣れていない感じです。チームに合流して短く、試合が続いて練習期間も浅いなか、ロスター14人の中で試合出場させる決断をするのは難しい部分もあります。それでも、彼は将来が明るい選手であって、準備ができた段階で試合には出場させたい。まずは焦らずにやれることを続けることが大切です。89ERSにとって必要な選手だと感じています」

 渡部自身も藤田HCの言葉をしっかりと理解しており、これからの課題感を口にした。

「メインの選手がケガで抜けたタイミングで試合に出場できて良かったけど、今はまたロスターが多いなかでチャンスをつかめていない状況です。まずはプロのプレー強度やチームルールにアジャストして、ディフェンス面を改善することが大切だと感じています。オフェンスではピック&ロールからの展開からクリエイトできてきているので、引き続き精度を上げていきたいです。自分はすぐにコートに立って、すぐに活躍できる選手だと感じていません。同期や後輩が活躍する姿を見ていてすごく悔しいですが、プロキャリアは始まったばかりなので、腐らずにコツコツと自分の最大限を出してアピールしたいと考えています」

 そして、今シーズンの目標を「改めてチームのローテーションに入って、自分自身をステップアップさせていきたい」と話した渡部は、日本代表としてプレーしたいという将来像も描いている。

「今まで5人制で代表候補に入っても落選して、A代表に選ばれたことはありませんでした。自分自身、日本代表でプレーする可能性は全然あると考えているので、そこに入って世界と戦える選手になりたいと考えています。もちろん、3x3も日本として世界でチャンスがあるので、機会があれば挑戦を続けていきたいです」

 最後に「悔しい気持ちもあるけど、好きなことを仕事にしているので楽しい」と語った。プロの世界にアジャストし、持っている能力をコートで発揮できれば、一気にリーグを代表する選手に変貌するだろう。その日に向かって「Grind」し続けていくしかない。

若手を中心とした日本代表のディベロップメントキャンプ合宿参加メンバーに選出された [写真]=鳴神富一

文=鳴神富一

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