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8月2日、船橋市立船橋高校(千葉県)はインターハイ1回戦にて県立佐賀北高校(佐賀県)を123-83で下した。
記録だけを見れば、全国大会連続出場中の”千葉の強豪”が順当に1回戦を勝ち抜いただけなのだが、本人たちにとってはエポックメイキングとなる大きな1勝だった。なぜなら、長くチームを指導してきた近藤義行氏の役を、斉藤智海コーチが引き継いで迎えた初めての全国大会だったからだ。
近藤元監督は、昨年度をもって高校の指導の現場から離れ、現在は県の関連施設に勤めている。選手たちがそのことを知ったのは、アメリカ遠征を終え帰国した3月24日。大きなショックを受けたのは言うまでもない。
「最初聞いたとき衝撃的すぎて言葉が出なくて、全然受け入れられなくて…」(大澤響生/3年)
「聞いたときはなかなか信じられなくて、次の日の1日オフもそのことばっかり頭にありました。近藤先生がいない市船がどうなっていくのかという不安が大きかったです」(大川颯斗/3年)
斉藤コーチを迎え入れた4月以降、チームは苦しい時を過ごした。5月の能代カップは全敗。直後に行われた関東大会予選も準決勝で日体大柏高校に敗れている。しかしインターハイ予選決勝リーグでは、2月の新人戦で完敗した八千代松陰高校に2ゴール差まで迫り、日体大柏にもリベンジ成功。2位枠でのインターハイ出場を決めた。
近藤元監督は唯一無二の指導者だった。選手の個性をまっすぐに生かしながら、一生懸命で礼儀正しく、さわやかなチームを作り上げる。監督自身も選手に負けじとベンチサイドでハードワークし、その甲高い声と激しいリアクションは高校バスケットにおける名物の一つにもなっていた。
絶大な存在感を持った名将から、高校バスケの指導経験を持たない新コーチへのバトンタッチ。選手たちは素直に受け入れがたいところもあったのではないだろうか――。筆者のそんな疑念は、試合後の斉藤コーチの言葉を聞き、消えた。
「正直に言うと、就任当初はまわりの指導者の方々から、監督が変わることに対してネガティブな話も出ました。でも、一番流されなかったのは選手たちです」
もちろん斉藤コーチや選手たちの人柄もあっただろうが、名将の”置きみやげ”の効果もあったのかもしれない。3月31日、近藤元監督による最後の練習では「変化への対応」をテーマとした話に長い時間が割かれた。
「近藤先生はよくアジャストしろとおっしゃっていたけれど、選手たちも僕たちにアジャストしてくれました。なので両者の間にはやりづらさはまったくありません」
斉藤コーチはこう話したのち、少し顔を赤らめて続けた。
「あいつらの前では言えないですけど、感謝しています」
新たな歴史の1歩を刻んだ市立船橋が、今大会で目指すもの。それはチームの伝統である「最終日、最終ゲーム」だ。
文=青木美帆