2023.10.03

「韓国戦はやってきたことが試される試合」日本代表の現在地を計るアジア大会ラスト2試合

1998年以来6大会ぶり3度目の優勝を目指す女子日本代表[写真]=小永吉陽子
スポーツライター。『月刊バスケットボール』『HOOP』編集部を経て、2002年よりフリーランスの記者に。国内だけでなく、取材フィールドは海外もカバー。日本代表・Bリーグ・Wリーグ・大学生・高校生・中学生などジャンルを問わずバスケットボールの現場を駆け回る。

■ OQTに向けた強化とアジア女王を目指して

 中国・杭州で開催中の「第19回アジア競技大会(2022/杭州)」女子バスケットボールはいよいよ準決勝。予選ラウンドを3戦全勝、準々決勝でインドネシアを倒した日本は、準決勝で韓国との戦いを迎える。

 今大会の目的は「来年2月のOQT(オリンピック世界最終予選)に向けての強化」と恩塚亨ヘッドコーチは語る。過去2大会(2014年、2018年)はワールドカップと会期が重なったことから若手代表が出場していたが、コロナ禍によってアジア大会が1年延期となった今回は、OQTに向けた強化を兼ねてフル代表が参戦している。

「11月にはアメリカ大陸でOQT出場権をかけた大会があり、ヨーロッパもユーロバスケットの予選がある。アジア以外のチームがOQTの間に活動しているので、私たちも強化の期間を作りたかった。質の高い試合をどれだけ経験して自分たちの力にできるかを考えたとき、アジア大会で金メダルを目指すことは狙い通りの強化になります」(恩塚HC)

大会前から韓国、中国との真剣勝負に照準を合わせていた恩塚ジャパン[写真]=バスケットボールキング


 アジアのライバルである中国と韓国は伝統的にアジア大会を重要視してフルメンバーを組むことから「質の高い真剣勝負」になることは間違いない。さらに今回は両国ともに7月のアジアカップの頃よりも戦力的にパワーアップしている。

 中国は怪我でアジアカップを欠場したツインタワーの一人、リー・ユエル(200センチ)とフォワードのファン・スージン(192センチ)が復帰。アジアカップの準決勝で負傷した司令塔のヤン・リーウェイ(176センチ)も合流し、ホスト国としてのプライドをかけて戦う。韓国は東京オリンピック後、約1年のブランクがあったセンター、パク・ジス(198センチ)のコンディションがアジアカップ時より戻ってきている。

 日本は昨年のワールドカップで9位に終わった惨敗から、「動きが停滞しないバスケ」(恩塚HC)を掲げ、準優勝したアジアカップ後に再び集合して練習を積んできた。「これまで決まった動きがあまりなくて迷いがあったので、アジアカップの頃からフォーメーションを取り入れるようになりました」とキャプテンの林が言うように、選手たちの意見をコーチ陣に伝えて改善するようになり、共通理解を図る動きを増やしてきた。ライバルたちの戦闘態勢が整った今大会はOQTを見据えた強化としては最高の舞台となり、準決勝以降の戦いこそが本当の勝負となる。

■ 底上げはしているが、本気の戦いはこれから

コーチ陣から期待を寄せられている朝比奈あずさ[写真]=小永吉陽子


 ここまで、予選ラウンド3戦と準々決勝の4試合は危なげない形で勝ち進んできた。手薄なインサイドに関しては赤穂ひまわりを4番(PF)に起用し、「朝比奈を長く起用して育てたい」と恩塚HCが話していた通り、朝比奈あずさのプレータイムはアジアカップ時より伸び、インドネシア戦では3ポイント2本を含む8得点、9リバウンドをマーク。また、インドネシア戦ではポイントガードの本橋菜子が体調不良で欠場したこともあり、追加招集された川井麻衣がプレータイムを伸ばして15得点、5アシストを決めている。

 若手も積極的だ。スタメンに起用された星杏璃は常に足を動かし、停滞しないためのカギを握る選手へと浮上している。インドネシア戦では、ポイントガードとして起用された時間帯にもそつなく仕事をこなし、シューターの平下愛佳も躍動感ある3ポイントシューターとして、シックスマンの働きを十分にこなしている。若手の底上げはされているといえよう。

 ただ、まだ戦い方としては大味なところが見受けられる。フィリピンやインドネシアは日本に対して向かってきたが、実力差は歴然としていた相手だった。キャプテンの林はここまでの戦いを振り返り「練習してきたセットプレーを出さないで勝てるチームなので、まだ自分たちの本気が出せていない感じがあります。準決勝からはやってきたことをいかに出せるかが大事」と話す。

■ この大会にかける韓国との決戦

準々決勝で15得点を挙げた韓国代表のパク・ジス[写真]=GettyImages


 準決勝の相手は韓国。FIBAの大会では2012年のOQTで勝利して以来、負けなしの相手だ。アジアカップでは2013年から2021年まで5大会連続で、予選ラウンドで対戦してすべて勝利。2013年は決勝でも下した相手だ。2013年予選ラウンドでは延長、2021年に若手主体で出場したアジアカップでは5点差の接戦となったものの、それ以外は主導権を握って勝利している。アジア大会では2014年に準決勝で対戦し53-58で敗れているが、日本は若手が挑んだ大会だったので、実質、この10年はフルメンバーなら負けなしといっていいだろう。

 かつてはクレバーな戦い方をする韓国を苦手としてきた日本が勝てるようになったのは、機動力と選手層に差がついたからだ。韓国も主力数名は一線級だが、ベテランを長く引っ張ったために世代交代が遅れ、ベンチメンバーの層が薄い。そのため、ここ数年は大会終盤にスタミナ切れしてしまうことが多かった。

 ただ、今大会の韓国は並々ならぬ思いで挑んでいる。もともとアジア大会を重要視する国であるうえ、7月のアジアカップで5位に終わってOQTの出場権を逃したことで「この大会にかけている」(チョン・ソンミンHC)と公言している。

 今大会のグループステージでは205センチのパク・ジナを擁する北朝鮮の前に苦戦したが、2Q終盤に逆転。エースのパク・ジスは18得点、13リバウンド、6アシスト、4スティール、3ブロックという大車輪の働きを見せた。得点源のキム・ダンビ、シューターのカン・イスル、オールラウンダーのパク・ジヒョン、ベテラン司令塔のイ・ギョンウンら主力も健在。ゆえに、ベンチメンバーがどこまで成長しているがポイントだ。

 エースのパク・ジスはハムストリングを痛めたために予選ラウンド最終戦のチャイニーズタイペイ戦を欠場したが、準々決勝のフィリピン戦には復帰し、14分20秒の出場で15得点をマークして復調した姿を見せた。

直前合宿では薮ら若手とコミュニケーションを取る姿を見せていた林キャプテン[写真]=バスケットボールキング


 韓国とは代表戦以外にも交流があり「この夏にパク・シンジャカップで対戦しているのでどんな相手かわかっている」(星)「何度もWKBLのチームとは対戦している」(川井)というように、お互いが手の内を知り尽くした対戦となる。ただ、フル代表同士の戦いでは2019年以来となるだけに激戦必至となるだろう。

 恩塚HCとキャプテンの林とはこのように展望を語る。

「オフェンスでは常に速い展開を仕掛けてチャンスを逃さないで攻め、ディフェンスではフルコートで相手の体力を削ってリズムを崩し、常に先手を取って主導権を握りたい」(恩塚HC)

「自分たちが心を一つにして40分走り切れば相手は落ちてくる。この部分で負けてしまうと、インサイドのフィジカルでガツガツやられてしまうので走ることが大事。苦しい時間帯にどれだけ粘れるか、自分たちのやってきたことが試される試合になります」(林)

 アジア大会3連戦の正念場。負けられない韓国戦は10月3日、日本時間21時にスタートする。

取材・文=小永吉陽子

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