2022.08.24

なぜ、“アンチスポ根”のスクールをスタートしたのか? スポーツが嫌いな子、苦手な子も楽しく通うスポーツスクールについてリーフラス株式会社伊藤清隆代表に聞いてみた

バスケやサッカーなどなどのスポーツスクール事業を展開しているリーフラス株式会社 [写真]=兼子愼一郎
バスケットボールキングプロデューサー(事業責任者)。学生バスケをテーマにしたCM制作に携わったのがバスケに関する初仕事。広告宣伝・マーケティング業務のキャリアが一番長いが、スポーツを仕事にして15年。バスケどころの福岡県出身。

全国37都道府県でサッカー、野球、バスケットボールなどのスポーツスクール事業を展開しているリーフラス株式会社。『スポーツを変え、デザインする。』を企業理念に掲げる同社は2001年に福岡でサッカースクールを開校すると、2022年までに各種スポーツスクールの会員数を約53,000名(2022年7月時点)と日本トップクラスの規模に押し上げた。その実績を武器に小学校、中学校、高校の部活動指導を累計11の自治体から受託する他にも、高齢者向け運動健康サービスを展開するなど、社会課題をスポーツで解決する会社として成長を続けている。

このリーフラスが展開するスクール事業の特徴は、叱咤、叱責を含む厳しい指導とは相反する“アンチスポ根” であり、「ココロに体力を。」を指導理念として、“人間力”を伸ばすサービスにあるという。どういった想いで、古いスポーツ界の常識に挑戦するスクールを立ち上げたのか。代表取締役の伊藤清隆さんにお話をうかがった。

インタビュー=村上成
写真=兼子愼一郎

部活動により嫌なイメージしかなくなってしまった中学時代の教訓

――最初にリーフラスという会社について、お話をうかがいたいのですが、元々はどういう思いでこの会社をスタートしたのでしょうか?
伊藤 私自身は小学生の時に野球をやっていました。特にコーチも監督もいない、近所の子どもたちが集まって自主的に練習や試合をする程度でしたが、それがとても楽しかった。自分たちでいろいろな練習メニューを考えたり、6年生の子がキャプテン的な立場で様々なことを教えてくれたり、隣町のチームと試合をしたり……。住んでいた場所は田舎だったので、田んぼの中に、適当にベースを書いてやるような草野球でした。ところが中学校に入学すると、今も一部の学校ではあるかもしれませんが、丸坊主にさせられ、先輩が怖くて、先生もミスをしたら体罰が当たり前の野球部でした。当時はそれが、部活動としては当たり前だったのかもしれません。

小学校の時はあんなに楽しかった野球が、中学校入学後は本当に嫌でした。それでも好きな野球を続けようと頑張って、大会ではいいところまで勝ち上がりましたが、先生や先輩たちを怖がってしまい、自分たちは大事な試合で結果を出すことができませんでした。私は強豪校からお声がけをいただいたりもしたのですが、もうやる気がなくなりまして、残念ながら中学校で野球を辞めてしまいました。もうとにかく、野球について嫌なイメージしかなくなってしまったのです。

――楽しかった小学校時代から一転、3年間で野球に嫌なイメージしかなくなってしまったと。
伊藤 そうですね。小学校時代の草野球では、先輩は後輩をしっかりとケアして、丁寧に教えてくれました。後輩は先輩をリスペクトしながら上達していく。スポーツをやっていく中で、いいことと悪いことの区別を教えてもらったり、「下の子をちゃんと手取り足取り教えなさい」と言われたり。もちろん、イジメはありませんでしたし、やっぱり小学校の頃の野球は、非常に良かったという体験がありました。本来であればスポーツというのは楽しいもので、体罰によって従わせることや、“先輩には絶対服従”とか“先生には絶対服従”という考え方は間違っていると思うのです。そういった自分の暗黒時代に対して、「それはおかしい」と感じていました。そういう単純な発想から、今のリーフラスはスタートしたということです。

「スポーツが嫌いな子、苦手な子においで」というコンセプト開発

[写真]=兼子愼一郎

――その時の強い想いからスタートし、今では37都道府県、約4000スクール。5万人を超える会員規模に到達しました。ここまで成長した大きな要因はどこだと思われますか?
伊藤 それは、ほかのスポーツクラブとの違いを明確にしたことです。簡単に言いますと、我々はスポーツを教材として、子どもたちの非認知能力を高めていくことを、最大のミッションとして掲げています。非認知能力というのは、「やり抜く力」とか「リーダーシップ」、「思いやり」や「協調性」などを指す言葉です。先ほどお話させていただいた、私が小学生の時に、草野球を通して身につけたことを、同じように身につけてほしいというのが最も大きな目的。なので、試合に勝つこと、技術力を向上させるといった競技的な要素ももちろん大事ですが、それよりも教育性の部分に重きを置く。そこが大きな違いだと思います。

ちょうど、私がスポーツスクールをスタートした2001年は、日本が大不況の時でした。それまでは考えられないような巨大企業の倒産や、リストラの嵐が吹き荒れていました。それまでは、“いい大学を出て、いい会社に就職すれば一生安泰”という一つの幻想がありましたが、そうではないことが明らかになった時期です。スクールへ子どもを通わせる保護者の方もそれに気づき、我が子がどのような力をつけなければならないのか。勉強だけではダメだと感じ始めたのだと思います。言葉として確立していませんでしたが、学力ではなく、“人間力”というか、“人としての生きる力”。これを身につけなければいけないと本能的に感じ始めた時代でした。

――そういった意味で、日本が未曽有の不況に突入した時期に、新たにスクールをスタートしたことは追い風だったのかもしれませんが、保護者の方々から「もっと厳しく指導したほうがいいのではないか」といった意見は出なかったのでしょうか?
伊藤 会員を募集する際も「スポーツが嫌いな子、苦手な子に来てほしい」というコンセプトを打ち出していました。我々が開拓したい層は、「スポーツはいいや。苦手だから……」と思っている子どもたちで、彼らに対して我々が「大丈夫、スクールにおいで!」と声をかけることを意識していました。要は、こういう子がほかのスクールに通って、スポーツに少し興味を持ち始めたとしても試合に出ることができない。もっと厳しい場合は、そもそも受け入れてもらえないこともあります。

ところが、私たちのスクールでは全員がレギュラー。どんなに下手でも試合に出られますし、全員がキャプテンを体験することもできます。ほかのスクールとは、コンセプトが全く違いますし、「試合に勝つためのスクールではない」ということが大きかったと思っています。そういうスクールだったら、「じゃあ、スポーツをやってみようかな」と体験会に参加してくれますし、親御さんたちも「だったら入会させてみようかな」と集まってくれています。

改めて感じたバスケットボールの魅力

――なるほど、理念の徹底。大変重要な成功要因ですし、そこに価値を感じた多くのお子さん、親御さんに愛されているのですね。ちなみに、リーフラスでは、バスケットボールのスクールとして『ハーツ』を開校されています。バスケットボールスクールを始めてみようと考えられたきっかけを教えていただけますか?
伊藤 リーフラスは、サッカースクールからスタートして、野球、空手、剣道のスクールを開校。その後、バスケットボールを始めました。実は、リーフラスのほかの事業も社員発案のものがほとんどなのですが、ハーツもバスケットボール経験者の社員が「バスケットボールのスクールもやりたい」と言い出しまして。社員が企画し、スクール名やスクールのロゴなどすべてを決めてスタートしました。

バスケットボールは得点を取り合う競技で、試合の展開も速い。1人の観客として見ても、とても楽しいです。大人になって、さまざまなスポーツを見てきましたが、「バスケットボールはこんなにも楽しいスポーツだったんだ」と今さらながら感心しました。私は体育の授業ぐらいでしかバスケットボールをやったことがなかったので、改めてバスケットボールの試合を見た時には、「これはやっぱり、将来多くの方々にウケるだろう」と思いました。リーフラスで当初スタートしたサッカーより楽しいですね(笑)。もっと言うと自分が愛してやまなかった野球よりも楽しいですね(笑)。素人の私が見てそう思うほど、魅力があり、将来性もあるスポーツだと思います。

地域とスポーツの連携と部活動改革

――今後もスポーツを楽しむ環境を提供していこうと考えていると思いますが、その中でも御社として注力していきたい部分はどこでしょうか? また、取り組んでいきたいことがあれば教えていただきたいと思います。
伊藤 スポーツは誰もができることが重要だと思います。障害を持った方でも、運動が苦手な方でも、あるいは何歳になっても。日本の競技スポーツに特化した形ではなく、エンジョイできるスポーツ。部活動を終えて、社会に出ると、多くの方々が自身の続けていたスポーツを辞めてしまうのはとても残念なことです。これからは子どもの時から、おじいちゃん、おばあちゃんになっても、ずっとスポーツを続けることができる環境を作りたいなと思うのです。

あとは、生徒指導、生徒管理のためのツールとしての部活動から脱却し、練習内容も練習時間も、そしてしっかりと教えられる指導者がそろう環境を整えること。指導する先生方の働き方改革などを総合的に鑑みると、1日でも早く部活動の運営を学校から民間にするのが重要なことだと思います。地域とスポーツの連携。部活動改革が今後のスポーツ界には必要なことだと思いますので、そこに尽力していきたいと考えています。

[写真]=兼子愼一郎

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